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売上があるのに融資が通らない理由|銀行が見るポイントと俯瞰図
目次
「これだけじゃ、厳しいんやな」──収支予想表を持って行った社長がつぶやいた言葉
兵庫県に、自動車まわりの複数の事業を一社で手がける、従業員25名規模の会社があります。車両の販売に加え、レンタカー、故障車のレッカー、保険の取り次ぎまで、車に関わる仕事を幅広く束ねている会社です。月々に動く売上の規模は決して小さくありません。むしろ、同じ従業員数の会社と比べれば、桁がひとつ違うほど大きく見えます。
その社長が、資金調達のために銀行を回っていました。行動力のある方で、金融機関にも取引先にも自ら足を運び、テンポよく話を進めていくタイプです。ところが、複数の金融機関にアプローチしても、返ってくるのは「事業計画書を出してください」という言葉ばかり。手元にあった収支予想表を持って行っても、どこか反応が薄い。ある銀行に資料を見せたあと、社長はぽつりと漏らしました。「これだけじゃ、厳しいんやな」。
数字は出している。売上もある。それなのに、なぜ話が前に進まないのか。この記事では、その理由と、私たちが実際に作った1枚の資料で交渉の空気が変わっていった過程をお話しします。先に結論をお伝えすると、融資が通らない本当の理由は、資金力でも事業の中身でもなく、「なぜこの会社にまとまったお金が必要なのか」を銀行が理解できない状態にあることがほとんどです。そして、その状態は資料の作り方ひとつで大きく変わります。
💡 この記事でわかること:
- ●売上が大きいのに融資交渉が進まない会社に共通する「見えない構造」
- ●決算書や収支予想表だけでは銀行に伝わらない理由
- ●自社のビジネスと資金の流れを1枚にまとめる「俯瞰図」の役割と効果
銀行は融資審査で、決算書のどこを見ているのか
「売上があるのに融資が通らない」の裏には、銀行が見ているものと、経営者が見せているもののズレがあります。まず、銀行や日本政策金融公庫が融資審査で決算書のどこを見ているかを押さえましょう。
銀行が見る前に、経営者自身が決算書のどこを見るべきかは、資金ショートは事前に防げる?|経営者が見るべき決算書の3指標で解説していますので、そちらもご覧ください。
銀行が融資審査で見る4つのポイント
- ①返済能力:稼ぐ力(キャッシュフロー)で、借入をおよそ何年で返せるか(債務償還年数)。短いほど有利に見られます。
- ②安全性:自己資本比率など、赤字が続いても持ちこたえられる体力があるか。
- ③資金使途:「何に、いくら」必要なのかが明確か。使途が曖昧だと通りにくくなります。
- ④返済原資:その借入を「どこから返すのか」の道筋が描けているか。
特に見落とされがちなのが③と④です。売上の大きさそのものより、「なぜお金が要り、どう返すのか」が伝わるかが分かれ目になります。日本政策金融公庫は決算書を複数期さかのぼり、同業他社との比較や時系列分析まで行います。だからこそ、数字の一歩手前で「商流と資金使途を1枚で見せる」ことが効いてきます。
参考(日本政策金融公庫):中小企業事業(財務分析のご案内) / 融資までの流れ
売上が大きいほど、銀行は「なぜお金がいるのか」がわからなくなる
一見すると矛盾していますが、売上規模の大きい会社ほど、銀行に資金需要が伝わりにくいことがあります。理由は、売上の数字とキャッシュ(現金)の動きが一致していないからです。
この会社の業態を思い浮かべてみてください。車を仕入れて売る。レンタカー用の車両を持ち続ける。故障車を運ぶための車も、修理のための費用もかかる。つまり、お金が入ってくる前に、仕入れ・車両の維持・修理といった支払いが先に走ります。売上が立った月と、現金が実際に出ていく月がずれる。この「ずれ」が業態そのものに組み込まれているため、売上が大きいほど、動く現金の振れ幅も激しくなるのです。
私たちが第三者の視点でこの会社の状況を整理したとき、見えてきたのはこの構造でした。ある打ち合わせで、この点を次のように言い表しています。「たとえば売上が大きいのにキャッシュがすごく激しく動く理由。それが、どういう商流で生まれているのか」。ここが銀行に伝わらない限り、いくら数字を並べても「売上があるのに、なぜ?」という担当者の疑問は消えません。
決算書は、あくまで「過去の結果」をまとめた書類です。試算表も同じで、「今この会社がどういう仕組みでお金を回し、どこで詰まるのか」という動きの構造までは映し出しません。銀行の担当者が手にしているのが決算書と収支予想表だけなら、そこから資金需要の必然性を読み取るのは、正直に言ってかなり難しいのです。
収支予想表だけでは「情報が少ない」と言われてしまう理由
銀行が「事業計画書を出してください」と繰り返すのは、意地悪をしているわけではありません。彼らは融資を判断するために、この会社の全体像をつかみたいのです。収支予想表は数字の予測を示してくれますが、「その数字がなぜそうなるのか」という背景までは語ってくれません。
社長が感じていた「これだけじゃ厳しい」という実感は、まさにここを突いています。数字だけを渡されても、銀行の担当者の頭の中には会社の絵が浮かびません。絵が浮かばなければ、「この会社にこれだけの資金を貸す理由」を、担当者が自分の上司や審査部門に対して説明できない。融資は担当者一人で決まるものではなく、行内の何人もの人が納得して初めて動きます。つまり、社長が本当に説得すべき相手は、目の前の担当者だけではなく、その先にいる顔の見えない人たちでもあるのです。
このとき、収支予想表と決算書だけで戦うのは、地図を持たずに初めての土地を案内するようなものです。案内する側は道を知っていても、聞く側の頭の中には風景が広がりません。必要だったのは、数字の一歩手前にある「この会社は、そもそもどういう仕組みでお金を稼いでいるのか」を、誰が見ても一目でわかる形にすることでした。
1枚の「俯瞰図」で、銀行の頭に会社の絵が浮かぶ
そこで私たちが用意したのが「俯瞰図」です。これは、自社の事業がどう成り立っているか、お金がどこで生まれ、どこで出ていくのか──その商流と資金の流れを1枚の図にまとめた資料です。難しい財務用語の解説ではありません。「うちの仕事って、そもそもどうやって成立しているのか」を、絵と矢印で見える形にしたものです。
打ち合わせの場では、この資料の役割をこう説明しています。「銀行さんにこれを一通り渡してあげたら、会社としてどういうふうにビジネスをやっているのか、いわゆる俯瞰図がつく。うちの仕事がどうやって成立しているのか、それが一番重要なんです」。
なぜ一番重要なのか。この図があると、銀行の担当者の反応が変わるからです。私たちが狙っていたのは、担当者がこう思ってくれる状態でした。「なるほど、事業の全体像はこうか。ここでお金がかかって、だから社長が”金がいる、いる”と言っているんやな」。数字の羅列ではなく、事業の全体像として資金需要を腹落ちしてもらう。これが融資交渉の、本当の第一歩です。
この会社の場合、俯瞰図に加えて事業計画書もPDFで整備し、セットで各金融機関に提出しました。数字(収支予想表・事業計画書)と、その数字が生まれる仕組み(俯瞰図)を両輪でそろえたわけです。渡す資料の性格が、はっきりと変わりました。
| 項目 | 俯瞰図を用意する前 | 俯瞰図をそろえた後 |
|---|---|---|
| 渡していた資料 | 収支予想表が中心 | 俯瞰図+事業計画書+収支予想表 |
| 銀行に伝わるもの | 数字の予測だけ | 事業の仕組みと資金需要の必然性 |
| 担当者の反応 | 「情報が少ない」「事業計画書を」 | 会社の全体像として資金の動きを理解 |
| 交渉の状態 | 様子見のまま停滞 | 複数行で同時に前進 |
こうした資料は、渡して終わりではありません。銀行がどこで引っかかるかを想定し、聞かれる前に答えを用意しておく。数字の裏付けを口頭で補える状態にしておく。そこまで整えて初めて、資料は交渉の武器になります。
政府系・地方銀行・信用金庫、3行を同時に動かす
資料が整うと、交渉の進め方そのものも変わりました。この会社は、政府系の金融機関・地方銀行・信用金庫の3行に、同時並行で交渉を進めています。それぞれの金融機関に同じ土台の資料を渡し、「この会社はこういう商流で動き、だからこれだけの資金が必要だ」という同じ絵を共有してもらう。1行ずつ順番に口説くのではなく、複数の選択肢を同時に走らせることで、条件を比べながら有利に進められる状態を作りました。
複数行を同時に動かす「座組み」の具体的な進め方は、設備投資融資の銀行交渉|座組みと公的融資の活用で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
社長自身、業態の規模から見て必要な調達額の水準を肌でつかんでいました。「(業態の規模を考えれば)これくらい借りてもおかしくない」という感覚は、決して背伸びではありません。むしろ、その必要額を銀行に納得してもらうための土台が、これまで欠けていただけなのです。俯瞰図と事業計画書は、その土台をようやく地面に据えるための資料でした。
行動力のある社長です。銀行にも取引先にも自ら飛び込んでいける方でした。足りなかったのは動く力ではなく、その動きを銀行に伝わる形に翻訳する仕組みだった。私たちが担ったのは、まさにその翻訳の部分です。
資料1枚が、止まっていた交渉を動かした
俯瞰図をそろえてから、交渉の空気は明らかに変わりました。以前は「収支予想表を出しても様子見」で止まっていた話が、複数の金融機関で同時に前へ動き始めています。何より大きかったのは、銀行の担当者が「この会社が、なぜ、どこでお金を必要とするのか」を事業の全体像として理解してくれた、という手応えです。
これは小さな変化に見えて、実は決定的な前進です。これまで社長の頭の中にしかなかった「うちの商流と資金の動き」が、初めて外部の第三者──それも融資を判断する銀行──に伝わる資料として形になった。会社の稼ぐ仕組みが、社長個人の暗黙知から、誰にでも見せられる「会社の資産」に変わったのです。打ち合わせの場でも「作った資料が、何かしら役に立てているなら本当に良かった」という言葉が出ました。止まっていた歯車が、確かに回り始めた瞬間でした。
そして、この積み重ねは確かな結果に結びつきました。かつて「収支予想表を出しても様子見」で止まっていた交渉は、最終的に2億円の融資調達という形で実を結んだのです。銀行に伝わらず停滞していた段階から、事業を理解した銀行が実際に資金を出す段階へ。俯瞰図という1枚の資料が、交渉のステージを確かに引き上げました。
まとめ
① 融資が通らない原因は、数字より「伝わっていないこと」にある
売上があるのに融資が進まないとき、疑うべきは会社の実力ではなく、銀行が資金需要を理解できる状態になっているかです。決算書と収支予想表だけでは、事業の仕組みまでは伝わりません。
② 数字の一歩手前にある「商流の見える化」がカギ
俯瞰図のように、自社がどう稼ぎ、どこでお金が動くのかを1枚で示す資料は、担当者の頭に会社の絵を浮かばせます。数字は、その絵があって初めて説得力を持ちます。
③ 社長の頭の中を「見せられる形」にすることが資産になる
暗黙知のままだった事業の全体像を、誰にでも見せられる資料に変える。これは融資交渉だけでなく、事業承継や幹部への権限委譲にも効く、会社そのものの財産になります。
事業の全体像が銀行に伝わらず交渉が止まっているなら、資金繰りの見える化から始める銀行交渉に効く資金調達支援の考え方が役に立つはずです。
最後に
「売上はあるのに、なぜか融資の話が進まない」。もし今、同じような手応えのなさを感じているなら、足りないのは資金力や事業の中身ではなく、その価値を銀行に伝える「見せ方」かもしれません。
自社のビジネスモデルや資金の流れを、第三者に伝わる形に整える作業は、社長がひとりで、しかも銀行を回りながら進めるにはあまりに負担の大きい仕事です。私たちは、資料を作って渡すだけでなく、銀行に何をどう伝えるかまで一緒に組み立て、隣で交渉を支えます。同じような資金調達の壁にぶつかっているなら、一度ご相談ください。会社の全体像を整理するところから、一緒に糸口を探していきます。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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