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65歳の職人を面接前に断っていませんか?中小建設業のシニア採用設計の実例

職人が採用できない根本原因は、「求める人物像」が狭すぎることにある

建設・内装工事業を営む中小企業にとって、現場職人の採用難は慢性的な課題です。

ハローワークに求人を出しても応募が来ない。求人サイトに掲載費をかけても音沙汰がない。たまに来ても経験が浅く、現場に入れるまでに相当な時間がかかる。そんな状況が数年単位で続いているという声は、この業界では珍しくありません。

社長自身が現場の施工管理から見積もり・積算(工事費用を項目ごとに積み上げて計算する業務)まで一手に担い、「自分が動かないと仕事が回らない」状態が続く。プレイングマネージャーとしての限界は、採用がうまくいかない限り解消されないのが現実です。

ただ、この「採用がうまくいかない」理由を丁寧に掘り下げると、多くの場合、求人媒体や条件の問題より前に、根本的な原因があります。

それは、「どんな役割の人材を、どんな目的で迎えるか」という採用設計そのものが固まっていないという点にあります。

この記事では、実際のコンサルティング現場でのケースをもとに、「即戦力の若手職人」という前提を一度外すことで採用の選択肢がどう広がるかを解説します。あわせて、役割設計から始める採用の実践ステップも取り上げます。

特に、労働集約型の中小建設業が陥りがちな「即戦力しか見ない採用」という思考のパターンと、それを打破する「役割から逆算する採用設計」の考え方を、具体的なケースをもとに整理していきましょう。

「採用できない」という課題の突破口は、求人の出し方より先に、採用設計そのものを問い直す中にあります。

N社様の現場で起きていたこと

軽鉄LGS工事・ボード張り工事を手がけるN社様(建設内装工事業・10〜15名規模)では、慢性的な人手不足が続いていました。

社長は施工管理・積算・現場の采配まで自らが担う状態で、経営に集中できる時間がほとんどない。若い職人を育てたくても、教える余裕がないというジレンマを抱えていました。

そんな中、ハローワーク経由で65歳の経験者から応募が届きます。

多くの会社であれば、この時点で「年齢的に現場では厳しい」と判断し、不採用通知を出して終わりでしょう。実際、N社様の社長も最初の反応は同様でした。「今の60代は癖がついているから扱いにくい」「現場では体力的に使えない」という懸念から、面接を行う前に断ろうとしていたのです。

「正直、面接するのも時間の無駄だと思っていた」——社長はそう話していました。忙しい現場仕事の合間に面接日程を組み、採用見込みの薄い候補者と時間を使うことへの抵抗感は、現場を抱える経営者なら珍しくない本音です。

しかし、ここに一つの見落としがありました。

N社様が本当に必要としていたのは、「重い資材を運べる若い体力」だけではなかった。社長一人に依存している積算・現場管理・若手育成という組織の構造的なボトルネックを解消する人材——その視点が、判断の中に最初から存在していなかったのです。

「不採用」と「採用」の分岐点は、年齢でも体力でもなく、「この人にどんな役割を担ってほしいか」を事前に設計していたかどうかにあります。

「即戦力の作業員を採る」と「組織の仕組みを作る採用をする」は、まったく別の設計だ

中小建設業が陥りがちな「即戦力病」という思考の罠

労働集約型の中小企業では、採用の目的が「現場の頭数を補充すること」に固定されやすい傾向があります。

その前提に立つと、採用候補者を評価する軸は「若さ」「体力」「保有資格」の三点セットになる。65歳という年齢は、そのフィルターでは真っ先に弾かれる属性です。

しかし、この視点だけで採用を考え続けると、「若い即戦力が欲しいが来ない」という状況が延々と続きます。国土交通省の調査等によれば、建設業における若年技能者の絶対数は構造的に不足しており、その前提を変えない限り出口が見えません。

N社様のケースで提案したのは、採用の目的を問い直すという発想の転換でした。

「今の組織のボトルネックを解消するために、どんな役割の人材が必要か」から逆算したとき、65歳の経験者が担える機能が浮かび上がってきます。

「3〜5年限定の社内家庭教師」というポジションメイクの妙

コンサルティングの場でN社様の社長に提案したのは、採用前に役割・職位を新たに設計・定義する「ポジションメイク」という発想でした。以下の3つの役割を枠組みとして提示しました。

  • 若手職人への現場OJT指導(OJT:On-the-Job Training=実務を通じた現場研修):「この工程はここが肝だ」という長年の暗黙知を言語化して若手に伝える「家庭教師」ポジション。即戦力ではなく、育成力を買う採用。
  • 見積もり・積算業務の補助:現場感覚と数字の両方を持つ経験者が担うことで、社長が抱えていた管理業務の一部が移管できる。経営者が経営に集中できる時間が生まれる。
  • 雇用期間を3〜5年と明示:双方の期待値を最初に揃える。「70歳まで育成と補助をお願いする」という文脈で依頼することで、候補者側にも役割の明確さと働く意義が生まれる。

この枠組みで考えると、「体力があるか」という評価軸は後景に退く。代わりに「人に教えた経験があるか」「自分のやり方を言葉で伝えられるか」「若いスタッフと関係を築けるか」という適性が前面に出てきます。

面接の目的そのものが変わるのです。

社長は「面接や不採用の連絡を自分でやるのが負担だ」とも話していました。そこで、面接の設定と初期対応は自分が代わりに引き受けると申し出ました。「僕が面接します。応募者への連絡も調整も任せてください」という形で実務を代行し、社長の判断コストを下げながら採用プロセスを前に進める設計にしたのです。

結果として、面接もせずに不採用で終わるはずだった応募者に対し、N社様は「若手育成と積算補助を担う人材」として適性を見極める面接を実施するという前向きな方針に転換しました。

採用の可否より先に、意思決定の質そのものが変わったという点が、このケースの最も重要な変化でしょう。

💡ポイント:

「年齢で弾く」という判断の前に、「その人に担ってほしい役割」を先に設計すること。

役割が決まれば、面接で確認すべき適性も変わります。体力ではなく、教える意欲・言語化力・関係構築力を見る面接に切り替えるだけで、シニア人材の評価精度は大きく上がります。

「役割から逆算する採用設計」実践ステップ

Step1:「今の組織のボトルネック」を書き出す

採用活動を始める前に、まず「社長が今、何に時間を取られているか」を書き出してください。

積算・見積もり・現場の品質管理・若手への技術指導——これらのうち、「誰かに任せられれば社長の時間が空くもの」を特定する。この棚卸しが、採用に求める役割設計の出発点です。

Step2:面接で確認する「3つの適性」

シニア人材を育成係・補助人材として採用するかどうかの見極めは、面接で以下の3点を確認することで精度が上がります。

  • これまで後輩・部下を指導した経験があるか、またどのように教えていたか
  • 自分の経験やノウハウを言葉で説明することが得意か
  • 「3〜5年間、若手の成長を支える役割」という位置づけへの共感と意欲があるか

技術力は採用後に確認できます。一方、「人に教える意欲と適性」は面接でしか判断できません。ここを中心に会話を組み立てることが、採用ミスを防ぐ最も有効な見極めポイントになります。

Step3:雇用期間と期待成果を最初に明示する

「3〜5年間、若手職人を一人前に育てることを主目的として迎える」という雇用の目的と期間を、採用時点で明示してください。

これは双方の期待値を揃えるためです。候補者側も「定年後に何のために働くか」が明確になり、入社動機と役割が一致しやすくなる。会社側は「期間中に若手の習熟度がどこまで上がったか」という成果で評価できるため、採用投資の費用対効果を定点観測できる状態が生まれます。

採用コストは「誰かを雇う費用」ではなく、「社長の時間を解放し、組織を次の段階に引き上げるための投資」として財務計画に位置づける。この視点を持つことで、採用投資を財務計画に組み込む習慣が、組織の成長サイクルを加速させます。

💡ポイント:

有期労働契約(3〜5年)を設定する際は、無期転換申込権(労働契約法第18条)の適用有無について確認が必要です。

契約期間の設定および雇用契約書の作成は、社会保険労務士に相談の上で進めることを推奨します。詳細は厚生労働省の公式サイトをご参照ください。

まとめ

「即戦力の若手」を追い続ける採用戦略は、市場の構造的な人手不足が続く限り、成果が出にくい状況が続きます。

一方、「組織のボトルネックを解消する役割」として採用を設計し直すと、これまで視野に入っていなかった候補者層が選択肢に加わります。N社様の事例はその典型で、面接前に断ろうとしていた65歳の応募者が、役割設計の問い直しによって「育成係・積算補助として面接を受けてもらう」という前向きなアクションに変わりました。

仮に65歳の経験者が3〜5年間にわたって若手を指導する役割を担った場合、その価値は単純な作業員一人分をはるかに上回るでしょう。社長が現場から離れ、積算・営業・経営判断に集中できる時間が生まれるからです。

採用は人事の話であり、同時に財務設計の話でもあります。採用費の予算をどこから捻出するか、採用によって社長の時間がどれだけ経営に向けられるか——その試算を財務計画に組み込む視点を持つことで、「人・お金・組織」を連動させた経営設計は一段階成熟するでしょう。

「断る前に役割を定義して、一度会ってみる」——その小さな意思決定の変化が、組織の次のフェーズを開くことがあります。

最後に

今回ご紹介した採用設計の考え方について、「自社に当てはめるとどうなるか」「どんな役割を設計すればいいかわからない」といったご相談があれば、お気軽にご連絡ください。採用・財務・組織の視点を横断しながら、御社の状況に合った具体的な次の一手をご一緒に考えます。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

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