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倒産防止共済が満額になったら?一時貸付・全部解約で採用資金を動かす方法

倒産防止共済が満額になった時、多くの経営者は次の一手を持っていない

売上はあるのに手元にお金が残らない。顧問税理士は決算書を整えてくれるが、「来期の資金をどう確保するか」まで一緒に考えてくれない——そんな悩みを抱える中小企業経営者にとって、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は数少ない「使いやすい節税手段」のひとつです。

掛け金は全額損金算入できるため、利益が出ている期に積み立てることで課税額を抑えられます。毎月最大20万円、累計800万円が上限。多くの経営者が節税の定番手段として活用している制度です。

しかし、この上限に達した瞬間、掛け金の拠出が自動的にストップします。

多くの会社ではこの時点で「節税の手が一つ終わった」という認識のまま、800万円のプールされた資金に何もせず、次の一手を考えないまま時間が過ぎていきます。

しかし、満額到達後にこそ、財務的な「次の一手」が存在します。この記事では、倒産防止共済が満額になった後に取れる2つの選択肢——一時貸付金制度と全部解約——を、実際のコンサル現場での事例をもとに解説します。

そもそも倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは

倒産防止共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する公的な共済制度です。正式名称は「中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)」といいます。

主な目的は、取引先が突然倒産した際に中小企業が連鎖倒産に陥ることを防ぐことです。加入しておけば、取引先の倒産時に掛金総額の最大10倍(上限8,000万円)まで無担保・無保証人で借入できます。

加えて、毎月の掛金(月額5,000円〜20万円)は法人であれば全額損金算入できるため、節税手段としても広く活用されています。利益が出ている期に積み立てることで課税額を抑えられる点が、多くの中小企業経営者に支持されている理由です。

掛金総額の上限は800万円。毎月最大20万円を積み立てると、約3年4ヶ月で満額に到達します。制度の詳細は、中小機構の公式サイトをご参照ください。
▶ 経営セーフティ共済とは|中小企業基盤整備機構

N社様が直面していた「三重苦」

軽鉄LGS工事・ボード張り工事を手がけるN社様(建設内装工事業・10〜15名規模)は、今期に入って倒産防止共済が累計800万円の満額に達しました。

単独で見れば節目の出来事ですが、N社様の場合はそれと同時に、複数の経営課題が重なっていました。創業以来、元請けとの取引関係を積み上げてきた会社ですが、ここ数年で原材料費の上昇が経営を圧迫し始め、利益率の低下が顕著になっていたのです。

ひとつ目は、材料費の高騰です。仕入れコストは2割近く上昇しているにもかかわらず、元請けへの価格転嫁は十分に進んでいない。受注額が変わらないまま原価だけが膨らみ、利益率が圧迫されている状況でした。

ふたつ目は、採用投資の必要性です。現場職人の不足を補うために採用活動を強化したいが、そのための予算が明確に確保されていない。「やりたいが動けない」という状態が続いていました。

整理すると、N社様が同時に抱えていた課題は以下の三点です。

  • 節税余地の縮小:倒産防止共済が満額に達し、毎月の損金算入ができなくなった
  • 利益率の圧迫:材料費2割高騰により、受注単価が変わらないまま原価が上昇し続けている
  • 採用投資の必要性:人手不足を解消したいが、採用活動に充てる具体的な予算が可視化されていない

この三点を前に、多くの会社はそれぞれを別々の課題として扱い、「節税は終わり」「採用費は来期から」と個別に諦めていきます。

しかし、財務と事業投資を連動させて設計すると、すでに積み上げた800万円を起点に動ける選択肢が見えてきます。

「守りの節税」で終わらせない。満額到達後の2つの正しい選択肢

まず知っておくべき大前提:一部解約はできない

倒産防止共済を活用する際、最初に押さえておきたい重要な制度的事実があります。

倒産防止共済には「一部解約」という仕組みがありません。解約する場合は全部解約(共済契約の全面解除)のみです。

「200万円だけ引き出す」「必要な分だけ崩す」という使い方はできないため、この前提を知らないまま計画を立てると、実行段階でつまずきます。税理士や顧問が「一部崩せる」と誤って説明しているケースも現場では見かけます。事前に制度を正確に理解しておくことが重要です。

では、満額になった共済を「資金として動かす」ために取れる手段は何か。大きく分けると2つあります。

選択肢①:一時貸付金制度——契約を守りながら資金を引き出す

一時貸付金制度とは、取引先の倒産といった有事が発生していなくても、臨時に事業資金が必要な場合に利用できる低利の借入制度です。

800万円が満額到達している場合、借入上限は最大760万円(解約手当金の95%相当)。借入期間は1年で、利率は市中金融機関と比べて低水準に設定されています。最新の利率は中小機構公式サイト(smrj.go.jp)でご確認ください。

この制度の最大の特徴は、共済契約を解約せずに資金を引き出せる点です。契約は継続されるため、将来に取引先が倒産した際の共済金貸付の権利も失われません。採用費や修繕費など一時的な支出が必要で、1年以内に返済できる見通しがある場合に向いています。

N社様の場合、採用活動の強化と現場設備の修繕という2つの用途が明確にあったため、まずこの一時貸付金で必要な資金を調達し、事業を前に進めるという選択肢をご提案しました。

💡ポイント:

一時貸付金は借入であるため、1年以内の一括返済が必要です。

借換制度(同額借換・減額借換)を利用すれば返済期間を延長できる場合があります。詳細や最新の条件は中小機構の窓口または公式サイトでご確認ください。

選択肢②:全部解約——まとまった資金を確保する。ただし再加入後2年は節税効果なし

もうひとつの選択肢は、共済を全部解約して解約手当金(解約時に受け取れる積立相当額の払戻金)を受け取り、事業に投資するというアプローチです。

40ヶ月以上積み立てていれば解約手当金は掛け金の全額が返戻されます。まとまった採用費・設備投資・修繕費への充当が可能です。

ただし、解約手当金は「雑収入」(税務上、通常の売上以外で計上される収益)として益金算入されるため、そのままでは課税対象になります。対策として、解約と同じ期内に採用費・設備費・修繕費などを損金計上することで収益と費用を相殺するタイミング設計が必要です。決算期の何ヶ月前に解約するか、という精緻な計画が求められるため、税理士との連携が前提になります。

⚠️2024年10月改正:解約後2年間は再加入しても損金算入不可

2024年10月1日以降に解約した場合、解約日から2年を経過するまでの間に再加入して支出した掛金は、損金(法人)または必要経費(個人)に算入できません(租税特別措置法第66条の11改正)。

以前は「解約→再加入→節税再開」という活用が広く行われていましたが、この改正により解約直後に再加入しても節税効果はすぐには得られません。再加入後の節税効果が再開できるのは、解約から2年経過後となります。

解約を検討する場合は、この2年間の節税空白期間を前提とした中長期の資金計画を税理士と設計することが不可欠です。代替節税手段(小規模企業共済・生命保険・設備投資の前倒しなど)もあわせて検討することを推奨します。詳細は中小機構公式サイトまたは税理士にご確認ください。

N社様のケースでは、試算表をもとに直近の利益水準と決算着地の見通しを確認しました。その上で、今期は一時貸付金で採用資金を確保しつつ、翌期以降の状況と2年間の節税空白も踏まえて全部解約の適否を判断するという段階的な設計を固めました。税理士とも連携し、解約タイミングと費用計上のスケジュールを合わせる方針です。

自社に当てはめるための実践ステップ

Step1:現在の共済状況と資金ニーズを整理する

まず、現在の積立総額・納付月数・今後1〜2年で必要になる資金の用途と金額を書き出してください。

「採用強化のために〇〇万円」「設備修繕に〇〇万円」という具体的な用途が定まると、一時貸付金と全部解約のどちらが適切かの判断軸が生まれます。1年以内に返済できる見通しがあれば一時貸付金が有力な選択肢です。まとまった投資資金が必要で、かつ解約後2年間の節税空白を許容できる収益計画がある場合に限り、全部解約が視野に入ります。

Step2:税理士と「解約・貸付のタイミング」を設計する

どちらの手段を選ぶ場合も、税務上の影響を最小化するタイミング設計が不可欠です。

全部解約を選ぶ場合は、解約金が益金算入される期と、採用費・設備費等の損金計上が同期内に収まるよう逆算して動くことが原則です。また、2024年10月以降の解約については再加入後2年間は掛金を損金算入できないため、2年間の節税空白期間に備えた代替策(小規模企業共済・設備投資の前倒し等)もあわせて税理士と検討しておきましょう。決算の2〜3ヶ月前には方針を確認し、費用計上計画と解約タイミングを合わせることを推奨します。

一時貸付金の場合は、返済期日の管理と借換の判断が必要になります。納付月数が12ヶ月未満の場合は利用できないため、現在の状況を事前に確認しておきましょう。

Step3:採用・投資の予算として「見える化」する

一時貸付金や解約手当金から得た資金を、漠然と「手元に置く」ではなく、採用費・設備修繕費・研修費といった具体的な項目で予算化することが重要です。

「採用活動に○○万円、設備修繕に○○万円」と用途が明確になることで、経営の意思決定が速くなります。N社様では、採用費と設備修繕費の2項目で予算を分けて可視化し、それぞれの執行タイミングを整理することで、今まで「費用がかかるから後回し」になっていた採用活動が具体的に動き出しました。

まとめ

倒産防止共済が満額に達することは、「節税の手が終わった」ではなく、「プールした資金を戦略的に動かせるフェーズに入った」という転換点です。

ただし、制度の仕組みと最新の税制改正を正確に理解することが大前提です。一部解約はできない。使える手段は一時貸付金か全部解約の2択。そして2024年10月以降の解約については、再加入後2年間は掛金の損金算入ができないという制約がある。どの選択肢を選ぶかは、資金ニーズ・返済能力・節税空白を許容できるかという複合的な判断になります。

N社様のケースが示すように、財務の整理は採用課題と切り離せません。「採用したいが予算がない」という問題の多くは、実は財務設計の問題です。税理士は税金の話、社労士は労務の話、採用支援会社は求人の話——それぞれが個別の専門領域で動いている状況では、「財務と採用を連動させる」という視点は生まれにくい。

「人・お金・組織」を横断して設計することで、積み上げてきた資産が経営の次の一手に変わります。共済の満額到達を機に、自社の財務をもう一段解像度高く見直してみることをお勧めします。

最後に

倒産防止共済の活用方針や採用・財務の連動設計について、「自社の場合はどう考えればよいか」とお悩みであれば、お気軽にご連絡ください。財務の現状整理から具体的なアクションの設計まで、御社の実情に合わせてご一緒に考えます。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

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