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中小企業の評価制度の作り方|役割定義から始める等級と評価基準

組織マネジメント

「やらない人ほど給料が高い」——その違和感を、あなたも飲み込んでいませんか

朝礼のあと、若手が黙々と片づけをしている横で、ベテランの一人は腕を組んで眺めているだけ。それでも給料は、その人がいちばん高い。社長も「昔から長くいる人だから」と、なんとなく見過ごしてきた。そんな光景に、心当たりはないでしょうか。

これは、ある映像制作と製造を手がける中小企業(A社)で実際に出てきた悩みです。「やらないけど給料が高い年配の人が、許されちゃう状態になってしまっている」。現場をまとめる中堅社員が、半ば諦めたようにこぼした一言でした。同じような違和感は、10名に満たないイタリアンレストラン(B社)でも、10名規模の金属加工の工場(C社)でも、形を変えて顔を出していました。

業種も規模も違う3社に共通していたのは、「長く働いた人が偉い」という年功型の空気が、知らないうちに会社の基準になっていたことです。そして経営者は誰もが「評価制度をちゃんと作らなければ」と考えていました。

ですが、私たちが3社に伝えたのは、少し意外な順番です。いきなり立派な評価制度を作る前に、まず「誰が・何を期待されているのか」という役割を決め、ごく簡単な行動基準から一緒に始める。これが、30名以下の会社で評価が形だけにならず、現場が本当に動き出すための入り口でした。

💡 この記事でわかること:

  • なぜ中小企業は「評価制度を作る前」に役割の棚卸しが必要なのか
  • 業種が違う3社が、それぞれどんな評価軸から始めたか
  • 形骸化させず「一緒に作って、少しずつハードルを上げる」進め方

評価制度とは?「何を評価するか」の"ものさし"を先に決める

評価制度が「作ったのに回らない」最大の原因は、評価の"ものさし"——何ができたら評価されるのか——が曖昧なままだからです。ここは、必ずしもゼロから作る必要はありません。

厚生労働省は、業種・職種別に「何ができれば一人前か」を体系化した職業能力評価基準を公開しています。中小企業がそのまま使えるよう「キャリアマップ」「職業能力評価シート」「導入・活用マニュアル」が無料で提供されており、自社の評価基準づくりのたたき台に流用できます。

その”ものさし”を5段階の合格ラインまで具体化する方法は、評価基準の決め方|感覚を数字にする5段階評価で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

評価制度の基本の型(3ステップ)

  • 役割(等級)を決める:この会社にどんな立場・役割があるかを先に整理する
  • 各役割の"評価基準"を言葉にする:求める行動・できてほしいことを具体的に書き出す(ここに職業能力評価基準を流用できる)
  • 達成度で評価し、報酬とつなぐ:会社の財務に見合った形で「頑張りに報いる」設計にする

本記事では、この"①役割から始める"を軸に、実際に動き出した3社の一手を追います。

参考(厚生労働省):職業能力評価基準キャリアマップ・職業能力評価シートのダウンロード

3社に共通していた「基準がない」という根っこ

評価制度がない会社の悩みは、表面上はバラバラに見えて、根っこは同じです。「何を基準に人を見ればいいか」が、誰にも分からない状態に陥っています。

A社は、会長の直下に全員が横並びというフラットな組織でした。少人数で長年やってきた延長で人が増え、役職も権限もあいまいなまま拡大していった会社です。リーダーを任命しても、それに見合う権限・責任・評価の仕組みがないため、先輩社員がリーダーの指示に従わなくても、誰も咎められません。社長が一人ひとりの仕事ぶりを確認する仕組みもなく、「誰が何をしているか」が経営者から見えなくなっていました。

C社は、金属加工のチェーンを製造する10名規模の工場です。経営者である専務が現場に常駐できず、工場の中で何が起きているかが見えづらい。そんな中に、実働が8時間中3時間ほどと見られ、指示にも従わない問題社員がいました。処遇を考えたくても、客観的な評価の根拠がないために動けない。一方で真面目に頑張る若手もいるのに、貢献度に関わらず給与は一律で、その差がどこにも表れていませんでした。

B社のイタリアンは、創業当初はオーナー夫婦だけで回していた店です。アルバイトが増えてきて、はじめて「習熟度や貢献に応じた給与の差をどうつけるか」という問題に直面しました。オーナーが恐れていたのは、飲食店にありがちな「長く働いた人が偉い」「言われたことだけやればいい」という空気が、若いスタッフに定着してしまうことでした。

会社 業種・規模 表面の悩み 根っこにある問題
A社 映像制作・製造/中小 年配社員が高給のまま動かない 役割・権限・基準が未定義
B社 飲食/10名未満 年功型の給与になりそう 習熟度を測る軸がない
C社 製造/10名規模 問題社員を処遇できない 評価の客観的根拠がない

3社とも「評価制度がない」という同じ言葉で悩んでいましたが、本当に欠けていたのは制度そのものよりも、その手前にある「会社が何を求めているか」という土台でした。

評価制度を作っても回らないのは、「役割」が抜けているから

評価制度がうまくいかない中小企業の多くは、制度の作り込みが足りないのではなく、評価する対象=役割が定義されていないのが原因です。何を期待しているかが決まっていないものを、点数だけ後付けで測ろうとするから、現場が納得せず形だけになります。

A社で私たちが第三者の視点で状況を整理すると、問題は「評価がないこと」ではなく、その前段にあると見えてきました。リーダーを置いても権限と責任がセットになっていないから、指示が通らない。つまり、評価の物差しを作る以前に、役職ごとの役割と権限という土台が抜け落ちていたのです。だから私たちは、評価制度の整備よりも先に、管理職・リーダー層の役割を明確にすることを前提条件として置きました。

C社でも考え方は同じでした。評価制度を作る前に、まず「仕事の棚卸し」を先行させます。工場長、班長といった各ポジションに対して、会社が本来期待する業務内容を文章にして書き出す。役割がはっきりすれば、「その役割をどれだけ果たせているか」という形で、評価は自然と輪郭を持ち始めます。

この「役割を決めてから評価する」という順番は、人材だけの問題ではありません。役割があいまいなまま頑張りに差がつかなければ、できる若手のやる気は削がれ(人材)、問題社員を処遇する法的な根拠も積み上がらず(労務)、人件費と生産量が見合わない状態(財務)が放置されます。一つの「基準のなさ」が、人材・労務・財務にまたがって会社の足を引っ張っているのです。

評価制度をつくる前に踏むべき順番

順番を飛ばして「報酬に反映」から手をつけると、何を頑張れば報われるのかが社員に見えないまま、不公平感だけが残ります。土台から積み上げることが、遠回りに見えて結局いちばんの近道です。

30名以下は「シンプルに、一緒に作る」——3社それぞれの一手

評価制度は、規模が小さいほどシンプルにすべきです。30名を下回る会社で複雑な制度を入れると、管理しきれずに形だけ残り、かえって不信のもとになります。私たちが3社に提案したのも、立派な仕組みではなく「今の現場が本当に回せる形」でした。

C社には、こうお伝えしました。30名を下回る会社なら、むしろ凝った評価制度は無い方がいい。管理できないからです。むしろ社員が少ないからこそ、全員の意見を平等に聞ける。だからこそ、経営者が一方的に基準を決めるのではなく、全員面談の場で「会社は何を求めているか」を伝えつつ、社員の声も吸い上げて一緒に作る。そうやって作った基準には、納得感が宿ります。

始め方も、思い切って簡単にします。最初は「挨拶ができるか」「報連相ができるか」といった、ごく当たり前の行動基準で十分です。例えるなら、因数分解の前に、まず足し算・引き算・掛け算ができるかを揃える。全員ができるようになったら「この項目はもういらないね」と外し、代わりに一段難しい項目を足す。そうやってハードルを少しずつ上げていきます。

A社でも同じ発想で、5S活動への取り組み姿勢を査定に含めることを検討しました。ただし、いきなり細かく点数化すると仕組みが重すぎる。だから、まずは5〜6個の簡単な「これをやってね」というチェックから始める。そのうえで社長には、月1回の現場監査を習慣にしてもらい、「誰が取り組んでいて、誰がやっていないか」を可視化することをお願いしました。基準を作っても、見る人がいなければ機能しないからです。

B社の打ち手は、業種に合わせて少し形が違います。「勤続年数」ではなく「オペレーションの習熟スピード」を評価軸に据えました。研修のあとにGoogleフォームで4択の理解度チェックを行い、一定の水準をクリアしたスタッフを時給アップの対象にする。昇給幅は1回あたり+100円を想定しています。オーナーの言葉を借りれば、「1年働いたら上がる、ではなく、早い段階でオペレーションが身についた人にこそ高い時給を渡したい」。フォームが苦手なスタッフには紙での対応も認めるなど、運用には柔軟性を持たせました。

観点 Before(年功型) After(役割・習熟型)
評価の軸 勤続年数・年齢 役割の遂行・習熟度
基準の作り方 経営者の感覚 面談で一緒に作る
報酬への反映 一律・横並び 役割や段階に連動

報酬への反映も、中小企業の財務に合った形を選びます。C社では、基本給を一律に引き上げるのではなく、「繁忙期手当(職長手当)」のような変動報酬を活用しました。繁忙期に売上が急増する一方、閑散期との落差が大きい会社では、固定費になる基本給アップより、役割を担う人にだけ初級・中級・上級と段階をつけて上乗せするほうが、財務的にずっと合理的です。給与を据え置いたまま負荷だけ増やすのは、ただやる気を削ぐだけ——この一線だけは、どの会社でも外しません。

なお、問題社員への対応は評価制度とは別の話として、面談の録音や誓約書の取得といった手順を踏み、処遇変更や退職勧奨の法的な根拠を一つずつ積み上げていきます。こうした中小企業の人事評価制度の整え方は、労務リスクの管理とセットで考えると、いざというときに会社を守ってくれます。

動き出した3社が、半年後に見ている景色

3社に共通して起きたのは、長年立ちこめていた「何を基準にすればいいか分からない」という霧が、はっきりと晴れたことです。評価の軸が言葉になった——ただそれだけで、現場の空気は目に見えて動き始めました。制度づくりでいちばん重い最初の一歩を、3社とも確かに踏み出したのです。

A社では、後継候補となる中堅社員に、意図的に取りまとめの経験を積ませ始めました。将来の評価する側・される側を、今から育てているわけです。社長が月1回現場を見て回るようになったことで、「やっている人が、ちゃんと見られている」という当たり前の手応えが、少しずつ戻りつつあります。C社の専務は、閑散期から月1回の個別面談を定着させ、評価基準を一方的に押しつけるのではなく、社員と一緒に育てていく構えに変わりました。B社では、習熟スピードという新しい物差しができたことで、若いスタッフが「早く覚えれば、早く時給が上がる」と前を向けるようになっています。

評価制度づくりは、点数表を完成させることがゴールではありません。経営者が「自分の感覚」だけで人を裁かなくてよくなり、社員が「何を頑張れば報われるか」を自分の言葉で語れるようになる。その状態こそが、本当の成果です。机上で立派な制度を設計して資料を置いていくだけでは、現場は変わりません。会社の中に入り、社長と一緒に泥臭く基準を育ててこそ、組織は動き始めます。

まとめ

業種も規模も違う3社の事例から見えてきたのは、中小企業の評価制度づくりに共通する、3つの原則です。

① 評価より先に「役割」を決める

何を期待しているかが決まっていないものは、評価できません。管理職・リーダーの権限と責任、各ポジションに会社が求める仕事を、まず文章にして棚卸しすることが出発点です。

② 小さい会社ほど、シンプルに始める

30名以下では、複雑な制度は管理しきれず形骸化します。「挨拶・報連相」といった当たり前の行動基準から始め、全員ができたら一段上げる。ハードルを少しずつ引き上げていくのが、結局いちばん根づきます。

③ 一緒に作り、財務に合った報酬で報いる

基準は経営者が押しつけず、面談で社員の声も交えて一緒に作ると納得感が生まれます。報酬は、固定費になる基本給より、役割や習熟・繁忙期に連動した変動報酬を選ぶと、中小企業の財務を傷めずに「頑張りに報いる」ことができます。

評価を報酬・インセンティブに反映する際のつまずきは、インセンティブ制度が回らない理由|営業粗利の見える化で取り上げていますので、あわせてご一読ください。

最後に

もしあなたの会社でも、「やらない人ほど給料が高い」「頑張っている若手に報いてあげられない」という違和感を、なんとなく飲み込み続けているなら、まず必要なのは立派な評価制度ではないかもしれません。役割をはっきりさせ、ごく簡単な基準から、社員と一緒に始めてみる。その最初の一歩を、どこから踏み出せばいいか。

業種や規模によって、最適な始め方は変わります。自社の場合はどうすればいいのか、現場の状況を整理するところから、一度ご相談ください。一緒に、無理なく回る形を考えていきます。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

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