外国人材がいる現場の人事評価制度|日本語の壁を等級に組み込む
目次
通知書は届くのに、渡した本人も基準を知らない
給与を渡す際に、ランクだけが書かれた通知書が配られます。受け取った社員は、自分がなぜその評価なのかを説明できません。面談で私たちからお伝えしたのは、渡す側の現場管理者にとっても「通知が来たから、そんなものなのか」という程度の話になっているのではないか、ということでした。評価する側にも、根拠の説明がありませんでした。
この記事で扱うのは、資源リサイクル業のT社です。身内経営の延長で事業を伸ばし、気づけば従業員は50名近く。就業規則も評価基準も整わないまま人数だけが増え、現場には外国人技能実習生も入っています。ベテランと入社2か月の人が同じラインに並び、日本語の通じ方も一人ひとり違う。この状態に、一律の評価表を当てはめることはできません。
私たちがこの会社と決めた出発点は、公平な物差しを作ることではありませんでした。評価する前に、評価できる状態をつくることです。具体的には、「上げて」「下げて」「来て」といった作業指示が通じるかを確認する段階を、等級の一番下に「評価対象外の入口」として置きました。ここを飛ばして評価表だけ配っても、現場では動きません。
この記事でわかること
- 外国人材を含む現場で、評価制度の設計をどこから始めるか
- 日本語の理解度を「評価対象外の入口」として等級に組み込む考え方
- 評価基準を「できるか」から「教えられるか」へ変えた理由
- 現場管理者と一緒に仮評価をつけながら、基準を直していく進め方
評価する前に、評価できる状態をつくる
外国人材を含む現場で評価制度を設計するとき、最初にぶつかるのは能力差ではなく、指示が通じているかどうかの差です。T社では、外国人技能実習生の日本語能力に制約があり、日本語の習熟が進むまでは上の等級へ上がれない、という前提を面談の中で確認しました。そこで、通常の評価項目を当てはめる手前に、日本語の基本指示を理解できているかを確認する段階を切り出しました。それがA0です。
A0は、点数を付けて優劣を決めるための等級ではありません。「上げて」「下げて」「来て」といった、その日の安全に直結する指示が伝わっているかを確認するための入口です。ここが曖昧なまま作業を任せる状態は、評価制度の課題である以前に、安全衛生上の課題になります。逆に言えば、A0を等級表に明記したことで、「日本語の習得は本人の努力の問題」で終わらせず、会社が用意すべき条件として扱えるようになりました。
A0で確認すること(評価対象外の入口)
- ✓基本の作業指示
「上げて」「下げて」「来て」「止まれ」が通じるか - ✓なぜ入口に置くか
伝わらないまま作業を任せる状態は、評価以前に安全衛生の問題になる - ✓上の等級への前提
ここが確認できるまでは、A1以上の評価対象には入れない - ✓会社側の宿題
写真付きマニュアル・母語版・語学支援が動いていることが条件
A0を置いたことで、会社側の宿題もはっきりしました。T社では、アルミ・銅・鉄・モーター・線材など8品目の識別方法を写真付きでまとめた教育マニュアルを作成中で、ベトナム語版も別途用意する予定です。あわせて、実習生の日本語能力を伸ばすため、会社負担で通信教育や語学学校に参加してもらう準備も進めています。評価表を配るより先に、これらが動いていることが条件になります。
この整理は、こちらが独自に持ち込んだものではありません。厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は、労働災害防止のための指示等を理解できるようにするため、必要な日本語および基本的な合図等を習得させるよう努めることを、事業主が講ずべき措置として挙げています。安全衛生教育についても、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いるなど、本人が内容を理解できる方法で行うこと、とくに機械や原材料の危険性・取扱方法が確実に理解されるよう留意することを求めています。T社が進めている写真付きマニュアルとベトナム語版は、この求めにそのまま重なります。
補足を2つ。この指針でいう「母国語等」には平易な日本語も含まれるので、すべてを翻訳しなければならないわけではありません。そして指針は、技能実習生も「外国人労働者」に含むと明記しています。技能実習生がいる現場だから特別なことをする、という話ではなく、外国人を雇う会社に共通して求められている措置だと考えてください。
参考(厚生労働省):外国人雇用対策 / 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(PDF)
言葉が通じないまま作業指示に従わせている状態は、評価制度だけの問題ではなく、社内ルールの整備そのものと地続きです。就業規則や社内ルールを最低限そろえるところから整理したい方は、就業規則の作り方もあわせてご覧ください。
現場の言葉で、等級に置き直す
T社の等級は、A0からA4に、その上のマネジメント層を加えた構成で設計しました。ポイントは、階段の名前を先に決めてから中身を埋めたのではなく、現場ですでに起きている役割の違いを並べ直して段にした点です。誰が何をしているかを現場管理者と突き合わせながら、「この人はここ」「この動きはもう一段上」と当てはめていきました。
次の表は、今回の設計で各等級に置いた位置づけです。
| 等級 | 今回の設計で置いた位置づけ | 主な対象 |
|---|---|---|
| A0 | 日本語の基本指示を理解できているかを確認する入口(評価対象外) | 入社直後の人/日本語の習熟がこれからの人 |
| A1 | 8品目の基礎的な識別、安全衛生ルール、報連相といった全部門共通の基礎 | 現場スタッフ |
| A2 | 部門の専門業務をこなすスペシャリスト兼部門リーダー | 各部門の中心メンバー |
| A3 | 身につけた技術を言葉にして、A1・A2へ教えられる管理者層 | 現場管理者 |
| A4 | 部門をマネジメントする、管理する立場 | 管理職 |
| その上 | 部門全体のマネジメントを担う上位職 | 役員に近い立場 |
実習生が上がれるのはA0までではありません。基本はA2——部門の専門業務をこなすスペシャリスト兼部門リーダー——で、その先のA3、つまり教える側へ進むところに日本語習熟という前提が置かれています。面談でも「A3になってくると、日本人・ベトナム人というカテゴリはもうない」「言語の壁を越えるための支援は、会社が全力でする」という言葉が出ました。壁があるのは入口ではなく、指導者になる段です。
この表から読み取れるのは、上の段へ行くほど「自分ができること」から「他人をできるようにすること」へ評価軸が移っていることです。A2までは本人の技能を見ますが、A3から先は、本人の手が動くかどうかではなく、周囲がどう変わったかを見る段になります。この転換点をどこに置くかが、今回の設計でいちばん時間をかけた論点でした。
等級と評価基準の組み立て方そのものを一から知りたい場合は、中小企業の評価制度の作り方で、役割定義から順に整理しています。この記事では、そこに外国人材という制約が加わったときに何が変わるかを追っていきます。
この記事の内容を、社内で共有できる資料にまとめています。
「独力でできる」から「教えられるか」へ
A3の評価基準は、当初「メンバーが独力でできるようになっているか」という書き方でした。私たちはこれを、「自分が習得した技術を言葉にして、A1・A2の人に教えられるか」に修正することを提案し、この形で進めることになりました。理由は単純で、前者のままだと評価者の評価が、教えられる側の育ち具合に丸ごと左右されるからです。
飲み込みの早い人が部下に付けば高評価、日本語の習得途上の実習生が付けば低評価。これでは、指導した本人の努力とは関係のないところで点数が決まってしまいます。外国人材を含む混成チームでは、この不公平が特にはっきり出ます。だから、成果ではなく指導の中身を見る形に変えました。
A3の評価基準をどう作り替えたか
メンバーが独力でできるようになっているか
教わる側の飲み込みの速さで評価が上下する
実習生を担当した人が不利になる
指導の中身が見えない
自分の技術を言葉にして教えられるか
教える側の行動そのものを評価できる
誰を担当しても条件が揃う
手順を言語化した記録が残る
この修正には副産物がありました。「言葉にして教えられるか」を基準にすると、評価を受けるために手順を言語化する必要が出てきます。頭と手が覚えているだけの技術が、教材や手順の形で外に出てくる。8品目の識別マニュアルづくりも、この流れの中に位置づけられます。属人化の解消と評価制度の設計は、別々の取り組みではありません。
一方で、この基準は評価者にとって厳しい面もあります。自分が現場で最速で動けることは、もうA3の評価対象ではなくなるからです。面談では、「自分の代わりが育っていない」という自覚が現場管理者の側からも出てきました。その自覚を引き出せたこと自体が、基準を書き換えた効果だと私たちは考えています。
専門を極めさせない|評価項目をやりすぎない判断
評価制度を作り込むほど、項目は細かくなっていきます。T社でも、A2の評価粒度をどこまで細かくするかで議論になりました。象徴的だったのが、モーター担当は銅線の含有率を断面で判別できる必要があるか、という論点です。私たちから「断面を見て含有率まで判別できる必要が、果たしてあるのか」と投げかけ、現場管理者も同じ見方でした。
この項目は採用していません。断面を見て含有率を当てられる人は確かに価値がありますが、それは一人の職人の芸であって、50名規模の組織を回す評価基準ではありません。
評価項目に入れた瞬間、それは会社が全員に求める水準になります。到達できない基準を並べれば、制度そのものが「どうせ無理なもの」として扱われます。
面談では、専門を深く求めるのか、広く浅い理解を求めるのか、という論点も出ました。結論として、A2は「部門内の業務工程を理解し、こなせているか」を基軸に置き、そのうえで他部門の知識も広く浅く理解している水準を求める方針で合意しています。深さは一つ、広さは全体、という配分です。
この配分は、資源リサイクルの現場の実情に合っています。品目ごとに担当は分かれていても、繁忙や欠員で持ち場が動くことは日常的にあります。自分の部門しか知らない人ばかりだと、一人休んだだけでラインが止まる。評価基準に「広く浅く」を入れておくことは、そのまま現場が止まらない体制づくりにつながります。評価制度は、人を序列に並べる道具ではなく、会社に必要な動き方を言葉にする道具だ、という前提をここで共有しました。
制度の当てはめから社内への落とし込みまで、右腕として伴走します。
現場管理者と一緒に、その場で仮評価をつける
設計した基準は、机の上では完成していても現場では使えません。そこで面談では、鉄部門と銅部門を担当する現場管理者2名に、A1の基準を使って担当スタッフ数名の仮評価を実際につけてもらいました。5点満点の記述式基準で、一人ずつ点を入れていきます。私たちはその場に同席し、迷った項目をその場で拾いました。
この進め方には理由があります。基準の文章は、書いた人と読む人で意味がずれます。実際に点を入れてもらうと、「この項目は何を見て判断すればいいのか」という質問が必ず出る。そこで初めて、書き方の曖昧さが表面化します。評価表を渡して「来月までにつけておいてください」と頼んでいたら、ずれたまま運用が始まっていました。私たちが評価制度の設計と運用に伴走するのは、この工程を飛ばさないためです。
仮評価を通して、その場で2つの修正が決まりました。1つは、A4の項目にあった「別拠点事務所との連携」の除外です。実態として該当する人がほとんどおらず、全員が同じ点になる項目は評価として機能しないため、別の項目に差し替えることで合意しました。もう1つは、「自分が抜けても現場が回る状態を作れているか」という項目の移動です。
この項目はもともとA4に置いていましたが、現場管理者から、いまいちばん自分に刺さる項目だという反応が出ました。ベテランと入社2か月の人の経験値の差が大きすぎ、自分が現場を離れても組織が回るとは言えない、というのが理由です。議論の結果、この項目はA4ではなく、部門全体のマネジメントを担う上位職の評価項目として引き上げることで合意しました。管理する立場にいま求めるのは自部門を回すことまでで、「抜けても回ること」はその次の段だと、段の順番を整理し直したことになります。
評価者が一人だと、評価はずれる
もう一つ、面談で共有したのが別拠点での先行運用の実例です。そこでは、評価者どうしで見方がずれるケースが起きていました。過去に事故を起こした経験のある人に、安全衛生の項目で高い評価がついていた、というものです。
このずれは、評価者本人の悪意ではなく、一人で見ていることから生まれます。だからT社では、評価をつけた後にダブルチェックを入れる必要があることを確認しました。誰かがもう一度見る前提があると、評価者は自分の基準を言葉で説明せざるを得なくなり、それ自体が基準を揃える練習になります。外国人材を含む現場では、言葉の壁を理由に評価が曖昧になりやすいため、この二重の目は特に効きます。
自社ならどう組むか|状況別の考え方
ここからは想定例として、自社に置き換えるときの考え方を整理します。いずれも金額や到達時期を保証するものではなく、どこから手を付けるかの判断軸として読んでください。
評価表づくりより先に、作業指示が通じているかを確認する入口をつくります。指示の言葉と品目の名前を写真付きで一覧にし、それが分かる状態を「評価の対象に入る条件」として明文化する。ここを飛ばすと、評価が語学力の代理指標になってしまいます。
上位等級の基準を「自分ができるか」ではなく「教えられるか」に書き換えます。手順を言葉にして残すことを評価対象にすれば、指導の記録が教材として蓄積され、抜けられない状態の原因そのものが減っていきます。
専門性の深さは各部門の担当者に任せ、評価基準には「他部門を広く浅く理解しているか」を入れます。極端に専門特化した項目は、達成できる人が限られるため評価として機能しません。深さは一つ、広さは全体、という配分にします。
共通して言えるのは、評価項目を増やして精度を上げようとしないことです。判断の軸は「その項目で、全員に差がつくか」「その差が、会社が求める行動と結びついているか」の2つ。どちらかが欠ける項目は、書いた時点では立派に見えても、運用に入ると誰も見なくなります。
今回、どこまで進んだか
この面談で、T社の評価制度は等級のフレームが定まりました。現場管理者2名がA1の基準で複数名の仮評価を実際に試し、A4項目の除外と、「抜けても回るか」をA4からその上のマネジメント層へ引き上げる修正まで、その場で決めています。評価者が一人では基準がずれることも実例で共有し、ダブルチェックの必要性を確認しました。基準の曖昧さがどこにあるかを、現場管理者と一緒に洗い出せたことが、この段階での到達点です。
そのうえで、次の行動も決まりました。現場管理者2名には、来月までに担当部門(鉄・銅ほか)の業務工程と評価基準を整理して共有する宿題をお願いしています。あわせて、月1回・30分の定期面談を継続することで合意しました。仮評価は10〜11月までに全員分を一巡させ、そこで出たずれを持ち寄って基準を詰めていきます。
T社の評価制度づくり、これまでとこれから
私たちがこの会社に繰り返し伝えているのは、評価は一度つけたら来年変えてはいけないものではない、ということです。今回はデモとして走らせ、1〜3年かけて会社に合わせて一緒に作っていく。まず粗い基準から始め、運用しながら細分化していく方針で合意しました。初年度で完成させようとすると、現場が使わない精密な表ができあがります。
現場と話す中では、新規採用者への教育が追いつかず、一時的に採用募集を止めることを検討したいという声も出ています。これは評価制度と無関係な話ではありません。誰が教えられる段階にいるのかが等級で見えるようになれば、受け入れられる人数も判断できるようになります。採用の入口から順に整えたい方は、中小企業の採用で計画から受け入れまでの4段階を解説しています。
まとめ
- 外国人材を含む現場では、公平な評価表をつくる前に「評価できる状態」をつくる。日本語の基本指示が通じるかを確認する段階を、評価対象外の入口として等級に組み込む。
- 上位等級の基準は「自分が独力でできるか」ではなく「言葉にして教えられるか」で見る。教わる側の育ち具合に評価が左右されなくなり、手順の言語化も同時に進む。
- 評価項目はやりすぎない。一部の職人しか到達できない専門項目は外し、部門の工程を理解したうえで他部門も広く浅く分かる水準に置く。
- 評価者が一人だと基準はずれる。仮評価の段階でダブルチェックを入れ、評価者に自分の基準を言葉で説明してもらう。
- 初年度で完成させない。粗い基準から始めて運用しながら直し、1〜3年かけて会社の実態に合わせていく。
最後に
人数が増えてから、評価の基準が一つもないことに気づく。外国人材が入ってから、指示が本当に伝わっているか分からなくなる。どちらも、事業が伸びている会社ほど起きやすいことです。順番として決して遅くはありませんし、いま気づけたなら、まだ現場の記憶が新しいうちに言葉にできます。
私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、評価表を設計して置いていくのではなく、現場管理者の隣に座って一緒に点を入れるところまで関わります。基準の曖昧さは、実際に評価をつけてみないと表に出てこないからです。同じように、評価の基準づくりや外国人材を含む現場の体制で迷われている経営者の方は、一度ご相談ください。

