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補助金・助成金

業務改善助成金とは?|最低賃金の引き上げと設備投資に使える助成金

「賃上げしたいが、その原資がない」——設備投資で生産性を上げて支える助成金

「最低賃金がまた上がる。上げるしかないのは分かっているが、その原資がない」。秋の改定を前に、この計算をする社長がいます。時給を数十円上げて、人数と時間を掛けて、年間でいくら増えるか。出てきた数字を見て、話はそこで止まります。

この計算に追われるのは、従業員数十名規模で、事業場のなかでいちばん低い時給が最低賃金に張り付いている会社です。製造・飲食・小売・介護など、時給で働く人が現場の中心にいる会社ほど、改定の影響が直接に出ます。

賃上げの原資を、設備投資の側から作れないか。それに答えるのが業務改善助成金です。事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、あわせて生産性を上げる設備を入れると、その設備投資費用の一部が助成されます。ここでも要になるのは「順番」です。しかも待つ起点は2つに分かれます。設備は交付決定の“後”、賃金の引き上げは交付申請の“後”。どちらも先に動いてしまうと対象外になります。

この記事では、業務改善助成金とは何か、その仕組み、対象と要件、そして申請の進め方を、厚生労働省の情報をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 業務改善助成金は、最低賃金の引き上げ+生産性向上の設備投資に使える助成金(中小企業向け)
  • 事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、設備投資などを行うと、その費用の一部が助成される
  • 最重要:設備の契約・納品・支払は交付決定の“後”、賃金の引き上げは交付申請の“後”(順番が命)
  • 賃上げ額でコースが分かれ、引き上げる人数で上限額が変わる(助成率・上限額は年度で改定)

そもそも業務改善助成金とは

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げるとともに、生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業・小規模事業者に対して、その設備投資にかかった費用の一部を助成する制度です。厚生労働省(労働基準局)が実施しています。

狙いは、単なる賃上げ支援ではなく「賃上げを続けられる会社にする」ことです。設備やシステムを入れて生産性を上げれば、上がった付加価値で賃上げを支えられる——この好循環を後押しするのが、この助成金の考え方です。

ポイント 内容
やること① 事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を、一定額以上(令和8年度は50円・70円・90円の3コース)引き上げる
やること② 生産性向上に資する設備投資など(機械・システム導入、コンサルなど)を行う
もらえるもの 設備投資などにかかった費用の一部(費用×助成率と、上限額の低い方)
対象 中小企業・小規模事業者で、事業場内最低賃金が令和7年度の地域別最低賃金以上・令和8年度の地域別最低賃金未満であること

①と②はセットです。賃上げだけでも、設備投資だけでも対象になりません。助成されるのは②の費用で、①はそのための条件だと考えてください。

賃上げと生産性はセット

  • 人件費だけを増やすと経営は苦しくなりますが、生産性を上げて“稼ぐ力”ごと引き上げれば、賃上げは続けられます。業務改善助成金は、その両輪をセットで回すための制度です。

申請は事業場ごと、同じ年度に1回まで

この助成金の正式名称は「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)」といい、交付要綱の第1条は予算の範囲内で交付すると定めています。厚生労働省のご案内(令和8年度)にも、申請期間の途中で募集を終了する場合があると書かれています。要件を満たせば必ず受け取れる制度ではない、というのが出発点です。

申請と審査は、会社単位ではなく事業場単位で行われます。事業場を複数持つ会社はそれぞれで申請できますが、同一年度内の同じ事業場での申請は1回まで、事業主単位でみた年間の申請額は600万円が上限です。過去にこの助成金を受けた事業場でも、年度が変われば改めて申請できます。なお、労働者がいない事業場は対象になりません。

参考(厚生労働省):業務改善助成金令和8年度 交付要綱(PDF)令和8年度 業務改善助成金のご案内(PDF)

対象と「順番」

対象は中小企業・小規模事業者ですが、それだけでは足りません。事業場内最低賃金が、令和7年度の地域別最低賃金以上で、かつ令和8年度の地域別最低賃金未満であることが要ります。すでに新しい最低賃金の水準まで払っている事業場も、いまの最低賃金を下回っている事業場も、対象外です。コースは賃上げする額によって分かれます。助成される金額は、設備投資にかかった費用に助成率をかけた額と、コースごとの上限額を比べて、低いほうになります。

ここでも最重要なのが順番です。先に設備を買って賃上げをしてから申請、では対象になりません。設備の契約・納品・支払は交付決定の“後”、賃金の引き上げは交付申請の“後”が原則の流れです。賃上げのほうは、交付決定を待つ必要がありません。この順番を外すと、せっかくの投資と賃上げが助成の対象外になってしまいます。

注意

  • 助成率・上限額・賃上げ額のコース・対象要件は、年度ごとに見直されます(特例事業者の枠組みが設けられています)。この記事は制度の全体像をつかむための参考であり、具体的な金額・要件・申請期間は、必ず厚生労働省の最新の交付要綱・要領と管轄の労働局で確認してください。

コースは「いくら上げるか」で分かれる

そもそも「事業場内最低賃金」とは、その事業場で雇入れ後6か月を経過した雇用保険被保険者のなかで、最も低い時給のことです。都道府県ごとに決まる地域別最低賃金とは別で、社内で一番低い賃金を指します。コースは、この事業場内最低賃金を「1人あたりいくら引き上げるか」の幅で区切られ、引き上げ幅が大きいコースほど、受け取れる上限額も大きくなります。引き上げる労働者の人数によっても上限が変わり(一般の事業者は8人以上の区分まで、10人以上の区分は特例事業者だけ)、「どれだけ賃上げに踏み込むか」で助成の器の大きさが決まります。

助成される割合(助成率)も一律ではありません。引き上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4です。もともとの賃金水準が低い事業者ほど、後押しが大きくなるという考え方です。

お金は「先に自社が払い、後から戻る」

見落とされがちなのが、お金が動くタイミングです。助成金は、設備を導入して代金を支払い、賃上げも実施し、実績報告を終えた“後”に振り込まれます。つまり設備の購入代金は、いったん自社が全額立て替えるのが前提です。助成はあくまで後払いで、支払った費用の一部が戻ってくるイメージだと考えてください。交付決定から入金までには相応の期間があるため、その間の運転資金をどう回すかまで見込んでおくと、計画が現実的になります。

この記事の内容を、社内で共有できる資料にまとめています。

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「中小企業事業者」の線引きは、資本金か労働者数のどちらか

対象になる「中小企業事業者」は、業種ごとに資本金と労働者数で決まります。次の表は、令和8年度の交付要綱(第2条)が定める線引きです。

業種 資本金の額または出資の総額 または 常時使用する労働者の数
下記以外の業種 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下

条文は「資本金の額又は出資の総額が○円以下の法人である事業者又は常時使用する労働者の数が○人以下の事業者」と書かれており、どちらか一方を満たせば足ります。増資して資本金の基準を超えていても、従業員数で収まっていれば対象です。ただし、発行済株式の2分の1以上を同一の大企業が持つ会社などは除かれ、確定した直近過去3年分の課税所得の年平均額が15億円を超える事業者も対象外です。

前提はもう2つあります。労働者を1人でも雇っていれば労働保険への加入と保険料の納入が必要で、未加入・滞納中は受けられません(Q&A 問4)。また賃上げの対象が「雇入れ後6か月を経過した労働者」であるため、設立から6か月以上が実質の条件になります。ただし、法人化前から雇用している労働者が雇入れ後6か月を経過していれば、新設事業場や法人化直後でも対象になり得ます(同 問5)。

特例事業者に当てはまると、上限額と対象経費が広がる

令和8年度に置かれているのは特例の「コース」ではなく、特例事業者という区分です。当てはまると、一般の事業者にはない引上げ労働者数10人以上の上限額区分(50円130万円・70円300万円・90円600万円)が使えます。入口は2つあります。

特例事業者の2つの入口

賃金要件
事業場内最低賃金が1,050円未満の事業場。上限額の区分が広がる
物価高騰等要件
最近6か月間平均の売上高総利益率または売上高営業利益率が、前年同期に比べ3%ポイント以上低下。上限額に加えて対象経費も広がる

物価高騰等要件で申請する場合は、交付申請時に「物価高騰等要件に係る事業活動の状況に関する申出書」と証拠書類を添えます。この要件に当たると、通常は対象外のパソコン・スマートフォン・タブレットなどの端末と周辺機器の新規導入が、助成対象経費に入ります。

自社が賃金要件に当たるかは、地域別最低賃金の水準で見当がつきます。兵庫県の令和7年度の地域別最低賃金は1,116円(発効 令和7年10月4日)で、令和8年度は1,172円への引上げが答申されています。いずれも1,050円を超えていますから、県内の事業場は原則として「1,050円以上」の側に入り、助成率は3/4になります。賃金要件で特例事業者になる道は兵庫では実質的に閉じており、10人以上の上限額区分を狙うなら物価高騰等要件のほうを確かめることになります。

令和7年度から、コースも助成率の区分も変わった

去年この助成金を調べた方は、いま頭に入っている数字がそのまま使えません。厚生労働省は「令和8年度業務改善助成金の一部変更のお知らせ」で、次の見直しを明らかにしています。

令和7年度 令和8年度
コース区分 30円・45円・60円・90円の4コース 50円・70円・90円の3コース
助成率の境目 事業場内最低賃金 1,000円 1,050円
引き上げる人数の区分 1人/2〜3人/4〜6人/7人以上/10人以上 1人/2〜3人/4〜5人/6〜7人/8人以上/10人以上

いちばん効くのはコースの下限が30円から50円に上がったことです。「とりあえず30円上げて申請する」という組み立ては、令和8年度にはありません。一方で対象になる事業場は広がっています。以前は「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内」でしたが、改定後の地域別最低賃金額未満であれば対象になりました。これは令和8年度の新しい変更ではなく、令和7年9月から引き続き実施されている措置です。ただし改定後の額とちょうど同額の場合は対象外です。

参考(厚生労働省):令和8年度 交付要綱(PDF)令和8年度 交付要領(PDF)業務改善助成金Q&A(PDF)令和8年度 一部変更のお知らせ(PDF)令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧(PDF)

参考(兵庫労働局):兵庫県最低賃金 時間額56円引上げを答申(令和8年8月4日・PDF)

申請の進め方|4ステップ

STEP1:賃上げ計画と、生産性向上の設備投資を検討する

まず、事業場内最低賃金を「いくら・いつ・何人分」引き上げるかを検討します。あわせて、生産性を高める設備投資(機械・POS・システム導入、業務改善のためのコンサルなど)を洗い出します。「この設備を入れれば、この作業が速くなり、その分の付加価値で賃上げを支えられる」というストーリーを描くのがポイントです。

ここは、賃上げを“コスト増”ではなく“生産性投資”として設計する場面です。何を効率化すれば、賃上げの原資が生まれるかを具体的に考えます。

STEP2:交付申請を行い、交付決定を受ける(設備導入の前)

設備を買う前・賃上げをする前に、交付申請書を管轄の労働局へ提出します。申請には、賃金引き上げの計画、導入する設備の内容、生産性向上の見込みなどを記載します。労働局の審査を経て交付決定が出てから、設備の契約・納品・支払に進みます。賃金の引き上げは、この交付申請を出した後であれば、交付決定を待たずに実施できます。

提出先は、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。持参・郵送のほか、jGrantsによる電子申請もできます(郵送料は申請者の負担)。申請書の内容だけでは要件に合うかどうか判断が難しい場合、労働局が現地調査を行うことがあります。

もう一つ効いてくるのが受付枠です。この助成金は予算の範囲内で交付されるため、申請期間の途中で募集が終了することがあります。見積もりの取り直しや賃上げ計画の合意に時間をかけているうちに、受付そのものが閉まることがある——社内の意思決定を早める理由はここにあります。

STEP3:設備は交付決定後に導入し、賃金は交付申請後に引き上げる

交付決定を受けたら、計画にもとづいて設備を導入します。事業場内最低賃金の引き上げは、交付申請を出した後であれば、交付決定の前に実施しても構いません。設備の発注・納品・支払いの証憑、賃金引き上げを示す書類(就業規則・賃金台帳など)を、もれなく残します。計画と実際がずれないよう、実施状況を管理します。

ここで最も落としやすいのは、「交付決定の後」が納品だけでなく契約にもかかることです。交付決定前に発注や契約を済ませていると、納品と支払いが後でも助成を受けられません(Q&A 問27)。支払いは原則として振込で、クレジットカード・小切手・約束手形は、事業完了期日までに口座から引き落とされていなければ対象外です(同 問60)。

賃上げの側は起点が違います。厚生労働省の手続きフロー図は、「事業場内最低賃金の引上げは申請(郵送の場合は労働局到着)後に行うことができますが、設備投資等は交付決定後に行う必要があります」と、2つを分けて書いています。交付決定まで待つのは設備だけです。ただし申請より前に引き上げてしまうと対象外で、賃金を引き上げた後に申請すること自体もできません。

もう一つ、人件費の見積もりで外しやすい点があります。助成の頭数に入るのは雇用保険被保険者だけですが、引上げ前の事業場内最低賃金より賃金が低い労働者がいれば、その人も新しい事業場内最低賃金まで引き上げる必要があります(Q&A 問11)。雇用保険に入っていないパートも、雇入れ6か月未満の人も同じです。「助成の対象になる人数」と「実際に賃上げが要る人数」は別に数えてください。

複数回に分けた引上げも合算できません。10月に1,050円を1,060円に、11月に1,100円にと2段階で上げても、10月と11月を合算して引上げ額を数えることはできません(同 問18)。引き上げた後の事業場内最低賃金は、就業規則その他これに準ずるものに定める必要があります。労働者10人未満の事業場では、引上げ後の額と賃金引上げ日、作成者と作成年月日を記した書面を作り、労働者代表の意見書を添えて周知します。労働条件通知書や労働契約書は「準ずるもの」に当たりません(同 問58)。

STEP4:実績報告を行い、助成金を受け取る

設備導入と賃上げを終えたら、定められた期限内に実績報告(支給申請)を行います。計画どおりに設備を導入し、賃金を引き上げたことを、証憑とともに報告します。審査を経て、助成金が支給されます。報告には期限があるため、実施のスケジュールから逆算して準備を進めます。

報告の前に確かめておきたいのは、引き上げた賃金を原則として事業実績報告書の提出日までに支払っている必要があることです。賃上げの適用日を報告の直前に置くと、給与の支払日が後ろにずれて間に合わないことがあります。

報告のあとには状況報告(様式第8号)があり、対象期間中に解雇された労働者がいないか、引き上げた賃金が下がっていないかを、賃金台帳の写しで確認されます。資金繰りの目安も押さえておきます。厚生労働省のフロー図は「交付申請から交付決定まで約3か月程度かかります」と明記しており、実績報告・支給申請の審査は原則20日以内です。9月に申請すれば交付決定は12月ごろ、設備代を払うのはそこからで、入金はさらに後になります。ただし交付決定から入金までにどれくらいかかるかは、交付要綱・交付要領・Q&A・リーフレットのいずれにも示されていません。立て替えの期間は長めに見ておくほかなく、いつまでにいくら要るかは管轄の労働局に確かめてください。日本政策金融公庫は、事業場内最低賃金の引上げに取り組む事業者向けに「働き方改革推進支援資金」で設備資金・運転資金の融資を行っており、その期間の資金手当ての選択肢になります。

つまずくのは、たいてい「順番」の一点

4つのステップは一本道ですが、実務でつまずくのは、待つ起点を1つだと思い込むところです。設備は交付決定を待ちますが、賃上げは交付申請を出した後なら実施できます。ここを取り違えて交付決定を待っていると、賃上げの期限(地域別最低賃金の発効日の前日)を過ぎてしまいます。逆に、申請より前に賃上げをしてしまうのも対象外です。裏を返せば、この助成金が活きるのは、スケジュールに余裕があり、設備代金を一時的に立て替えられる会社です。

この助成金が活きる会社・慎重に検討したい会社

活きやすい会社

設備は交付決定まで待てる

立替払いの資金がある

効率化が賃上げに直結

慎重に検討したい会社

今すぐ賃上げが必要

手元資金が薄い

設備と賃上げが無関係

制度の当てはめから社内への落とし込みまで、右腕として伴走します。

相談してみる

日程は「交付決定日」から逆算する

4つのステップを令和8年度の日程に重ねると、次の並びになります。

令和8年度の日程(申請から実績報告まで)

1令和8年9月1日交付申請の受付開始
2申請期限令和8年度地域別最低賃金の発効日の前日か、同年11月30日のいずれか早い日
3交付決定審査を経て通知。ここから設備の契約・導入に進む(賃上げは交付申請後にすでに進めておく)
4事業完了交付決定の属する年度の1月31日まで
5実績報告完了日から1か月を経過する日か、翌会計年度の4月10日のいずれか早い日

締め切りが2つの条件のうち早いほうである点に注意してください。申請事業場の都道府県で令和8年度の地域別最低賃金が発効する日の前日が11月30日より前なら、そちらが締め切りです。賃上げも同じ発効日の前日までに済ませる必要があり、発効日当日に引き上げると対象外になります。

事業完了期限は交付決定の属する年度の1月31日で、納品日・支払完了日・賃金引上げ日のいずれか遅い日が、この日までに来ていなければなりません。やむを得ない理由があるときは、あらかじめ理由書を添えて申請すれば、3月31日まで延長される場合があります。

兵庫の会社は、9月の1か月しかない

兵庫県で働く会社にとっては、ここが正念場です。令和8年8月4日、兵庫地方最低賃金審議会は兵庫労働局長に対し、兵庫県最低賃金を現行1,116円から56円引き上げて1,172円とするのが適当であると答申しました。引上げ率は5.02%、効力発生の日は「発効予定日 令和8年10月1日」とされています。異議申出の受付は令和8年8月19日までで、この答申を踏まえて労働局長が改正を決定し、官報に公示する予定です。

この発効予定日どおりに進むと、兵庫県内の事業場の日程はこうなります。

兵庫の場合(発効予定日 令和8年10月1日として)
申請できる期間 令和8年9月1日〜9月30日(発効日の前日。11月30日より早いのでこちらが効く)
賃金を引き上げる時期 交付申請を出した後〜9月30日まで
交付決定 申請から約3か月=12月ごろの見込み
設備の契約・納品・支払 交付決定後〜令和9年1月31日まで

つまり申請にも賃上げにも、9月の1か月しかありません。そして交付決定は12月ごろですから、交付決定を待ってから賃上げをすると、絶対に間に合いません。賃上げは申請を出した直後に、設備は交付決定を待ってから——この2段構えで動けるかどうかが、使えるか使えないかを分けます。

見積もりを取り、賃上げ幅を決め、就業規則を直すところまでを8月中に終えておかないと、9月の1か月では回りません。なお、発効日はまだ予定であり、正式な決定と官報公示はこれからです。日程を組むときは、兵庫労働局の発表で最新の状況を確かめてください。

参考(厚生労働省):業務改善助成金令和8年度 交付要綱(PDF)令和8年度 交付要領(PDF)業務改善助成金の手続き(フロー図・PDF)令和8年度 一部変更のお知らせ(PDF)令和8年度 業務改善助成金のご案内(PDF)

参考(兵庫労働局):兵庫県最低賃金 時間額56円引上げを答申(令和8年8月4日・PDF)兵庫県の最低賃金一覧

対象外になる条件と、実務でつまずく点

要件を満たして申請しても、別の理由で交付されないことがあります。ここまでは「何をすれば対象になるか」でしたが、実務でつまずくのは、たいてい「知らないうちに対象から外れていた」という形です。交付要綱とQ&Aで確認できる範囲で、申請を止める条件を整理します。設備を選ぶ前と、人事の判断をする前の両方で、目を通しておく値打ちがあります。

申請の前後に解雇や賃金引下げがあると、不交付になる

確認される期間は、申請書の提出日の前日から起算して6か月前の日から、実績報告手続を行った日の前日または賃金を引き上げてから6か月を経過した日の、いずれか遅い日までです。申請の半年前にさかのぼって見られる、ということです。この間に次のいずれかがあると不交付になります。

  • 解雇(天災事変等でやむを得ない場合、労働者の責に帰すべき事由による場合を除く)、非違によらない勧奨を受けての退職、企業経営上の理由による退職勧奨に応じた退職
  • その事業場の労働者の、時間当たり賃金額を引き下げたこと
  • 所定労働時間の短縮や所定労働日の減少(天災事変その他やむを得ない事由で事業の正常な運営が不可能となった場合、法定休暇の取得その他労働者の都合による場合を除く)を内容とする労働契約の変更を行い、月あたりの賃金額を引き下げたこと
  • 同じ経費について、国または地方公共団体から補助金等の交付を受けていること

このほか、申請日の前日から1年前の日以降に労働関係法令違反が明らか(司法処分等)になった場合や、過去5年以内に補助金等の決定の取消しなどの処分を受けている場合も対象外です。人員の整理や賃金制度の見直しを検討している会社は、その時期と申請の時期を重ねない——ここは設備の選定より先に確認する論点です。

経費で落ちやすいもの

設備の中身は幅広く認められますが、外れる型は決まっています。交付要領の別紙3は、助成対象経費から除くものを名指しで並べています。現場でまず思いつくものが、かなり入っています。

除かれるもの 原典が挙げている例
単なる経費削減が目的の経費 LED電球への交換、通信費削減のためのプラン変更、資料作成の外注
快適化が目的の職場環境の改善 動線確保に伴うレイアウト変更、エアコン設置、執務室の拡大、内装工事等の改築費用、机・椅子の増設、空調服
通常の事業活動に伴う経費 事務所借料、光熱費、従業員賃金、交際費、消耗品費、通信費、清掃用品、汎用事務機器/広告宣伝費・販売促進費(パンフレット・動画・写真、展示会出展、セミナー開催、市場調査、営業代行、ランディングページの作成)
建築物・再生エネルギー・移動・娯楽性の高い設備 工場建屋、ビニールハウス、コンテナ、室内の作業スペース/太陽光発電のソーラーパネル/船舶・航空機の購入費・修理費・車検費用/全自動麻雀機、カラオケ機器、ゲーム機
法令等で義務づけられたものの整備、事業に必須の資格の取得
交付決定前に発生した費用 「いかなる理由であっても事前着手は認められません」

読み取れるのは、「今と同じことを同じ規模で続けるための出費」は認められない、という考え方です。生産性が上がる説明が立つかどうかが分かれ目で、老朽化した機器の入れ替えでも、既存より能力が高い機器で作業時間が縮むなら対象になります(同じ性能のものへの買い替えは認められません)。

そのうえで、金額と手続きで切られる条件が3つあります。

説明では動かせない3つの条件

  • 10万円の下限は税抜
    税込104,500円でも税抜95,000円なら対象外。ただし複数の設備を合わせて10万円以上になれば対象
  • 見積もりは原則二者以上
    随意契約で発注する場合、契約予定額10万円未満を除き、原則として同一条件による二者以上の見積もりが要る。交付決定後は最低価格を提示した者と契約する
  • 自動車は原則対象外
    令和7年度から、特種用途自動車(8ナンバー車)を除く自動車が助成対象経費から外れた

参考(厚生労働省):令和8年度 交付要綱(PDF)令和8年度 交付要領(PDF)業務改善助成金Q&A(PDF)

対象外の一覧にあるとおり、資格の取得にかかる費用や、人を教えるための費用はこの助成金では出ません。育てる側に投資するなら、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部が戻る人材開発支援助成金とは?|計画届はいつまで?7コースと助成額が別にあります。設備で生産性を上げるか、人の能力を上げるかで、使う制度が変わります。

ここまでを読んで「うちは対象から外れる」と分かった会社もあると思います。賃上げ以外の場面にも目的別の助成金があるので、そちらから探し直すほうが早いことがあります。違いと選び方は、中小企業が使える雇用関係助成金ガイド|補助金との違いと選び方でまとめています。

活用事例|業務改善助成金、どう使うか(ケース別)

ケース①:最低賃金の上昇に賃上げで対応したい小規模事業者

地域別最低賃金の上昇で、パートの時給引き上げが避けられない会社。どうせ上げるなら、業務改善助成金を使い、あわせて生産性を上げる設備を導入します。賃上げの負担を、設備投資への助成で一部取り戻しながら、稼ぐ力ごと引き上げます。

ケース②:手作業のムダを設備で減らしたい製造・飲食業

人手のかかる作業を機械やシステムで効率化したい会社。設備投資と賃上げをセットで計画し、交付申請を出したら賃上げを、交付決定を受けてから設備の導入を実行します。効率化で生まれた余力を賃上げに回すことで、「賃上げが続けられる会社」に近づきます。

ケース③:賃上げを“投資”として設計したい会社

賃上げを単なるコスト増で終わらせたくない会社。何を効率化すれば原資が生まれるかを設計し、業務改善助成金を軸に「生産性向上→賃上げ」の筋道を作ります。順番(交付決定が先)を守りながら、計画的に進めます。

ケース④:賃上げと人手不足に挟まれた食品加工業

繁忙期は20名ほどの人手で計量・包装をこなし、残業でしのいできた小さな加工場を考えてみます。最低賃金の引き上げでパートの時給を上げざるを得ない、けれど納品単価は据え置き——「上げれば利益が消え、上げなければ人が抜ける」という板挟みです。

ここで、計量・包装の一部を自動化する機器の導入を、賃上げとセットで計画します。交付申請を出したら事業場内最低賃金を引き上げ、機器の発注は交付決定を待ってから行います。手作業の時間が縮んだぶん、同じ人数で繁忙期を回せるようになり、残業も抑えられていく——賃上げを「我慢」ではなく「設備で取り返す前提の投資」に組み替えた形です。

自社に置き換えるなら、出発点は一つです。「どの作業が減れば、上げた時給を吸収できるか」。そこから設計すると、この助成金は初めて活きてきます。

参考(厚生労働省):業務改善助成金令和8年度 交付要綱(PDF)令和8年度 業務改善助成金のご案内(PDF)

まとめ

  • 業務改善助成金は、設備投資費用の一部を助成する制度(中小企業向け)
  • 条件は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上の設備投資を行うこと
  • 狙いは「賃上げを続けられる会社をつくる」ことにある
  • 最重要は“順番”。設備の契約・納品・支払は交付決定の後、賃金の引き上げは交付申請の後
  • 先に動いてしまうと対象外になる
  • 助成率・上限・コースは年度で変わるため、最新は厚生労働省で必ず確認する
  • 賃上げは避けられない流れ。どうせ上げるなら生産性向上とセットにして、この助成金で“投資”に変える

上げた賃金を採用の力に変えるには、募集の出し方まで一続きで設計します。計画・募集・選考・受け入れの4段階は、中小企業の採用でまとめています。

最後に

業務改善助成金は、「賃上げの原資がない」という悩みに、生産性向上という前向きな答えを用意してくれる制度です。順番を守って使えば、賃上げと投資を両立できます。

私たちは、賃上げと生産性向上の計画づくりから、交付申請、設備導入・賃上げの実行、実績報告までを、順番を外さないようハンズオンで支援します。「賃上げしたいが原資が」という段階からで大丈夫です。まずはお気軽にご相談ください。

「自社の場合はどうなるか」を、御社の状況に当てはめて一緒に整理します。

ご相談は無料です。その場で売り込みはいたしません。

この記事を書いた人

金井 春樹株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】
ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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相談内容がまとまっていなくても問題ありません。社長が手放したい仕事の整理から、進め方を一緒に検討します。兵庫の中小企業の未来を、ともに創ります。