評価制度が形骸化する理由|運用が止まる3つのパターン
目次
形骸化の原因は、評価基準の曖昧さではありません
評価制度が回っていない。だから評価基準が曖昧なせいだと考えて、基準表を作り直すところから手をつける——そんな検討をしていないでしょうか。基準の作り込みだけでは形骸化は止まりません。止まるのは、制度を作ったあとの運用の3か所です。
3か所とは、①評価の結果が月給に届いていない、②評価の結果を本人に返していない、③評価する人を育てていない、の3つです。どれも制度の設計図には書かれていない部分で、作った時点では欠けていることに気づけません。
しかも、この3か所は数字にも出ています。厚生労働省が中小企業を対象に行った調査では、目標管理を実施している企業は70.6%あるのに、評価者への研修を行っている企業は28.2%にとどまります(2013年8月調査・成長分野等6業種の2,808社)。制度そのものは入っているのに、それを動かす部品が入っていない、という状態です。
この記事は、制度の作り方ではなく「作ったあと」だけを扱います。自社がどのパターンで止まっているのかを判定し、どこから手をつけるかの順番を決めるところまでを解説します。
この記事でわかること
- 形骸化とは、具体的にどの工程が止まっている状態か
- 運用が止まる3つのパターンと、公的調査に出ている実施率
- 直す順番——なぜ「賃金への反映」から始めてはいけないのか
- 明日から1回だけ試せる、目線合わせ会議とフィードバック面談の進め方
そもそも形骸化とは、何が起きている状態か
形骸化している評価制度とは、「評価をしていない会社」ではありません。評価はしています。ただ、それが年に1回の恒例行事として処理されるだけで、そのあと何も動かない状態を指します。
まず、制度を持っている会社がどれくらいあるかを押さえておきます。2025年版の中小企業白書によると、人事評価制度を設けている事業者は全体で40.6%。従業員規模別では次のとおりです(令和6年度調査・法人のみ・n=20,982。役員と従業員がいない事業者は除く)。
| 従業員規模 | 人事評価制度がある |
|---|---|
| 30名以下 | 25.1% |
| 30名超50名以下 | 52.6% |
| 50名超100名以下 | 68.1% |
| 100名超 | 78.9% |
30名を超えたあたりで、過半数の会社が制度を持ちます。人数が増えて社長が全員の働きぶりを把握しきれなくなり、制度にする——という順番です。
同じ白書で、制度を設けていない事業者にその理由も聞いています(単一回答)。「制度の運用が困難」を挙げた割合は、規模ごとに次のとおりです。
| 従業員規模 | 「制度の運用が困難」 | 回答数 |
|---|---|---|
| 30名以下 | 5.6% | n=9,313 |
| 30名超100名以下 | 13.7% | n=2,327 |
| 100名超 | 19.0% | n=442 |
規模が大きくなるほど上がります。運用の壁は、制度が要る規模になってから現れるということです。
制度の有無とは別に、「社員の能力をどう測っているか」を聞いた統計もあります。ただし、こちらは人事評価制度の導入率とは別物なので、続きの数字として読まないでください。厚生労働省の能力開発基本調査でいう「職業能力評価」は、仕事に必要な技能や能力の評価を指し、検定や資格に基づくものも含みます。人事評価の制度を設けているかどうかとは、数えているものが違います。
その令和7年度調査では、常用労働者30人以上を雇用する事業所のうち、職業能力評価を行っている事業所は54.5%でした。行っている事業所に活用方法を聞くと(複数回答)、次の順になります。
| 活用方法 | 割合 |
|---|---|
| 人事考課(賞与、給与、昇格・降格、異動・配置転換等)の判断基準 | 86.2% |
| 人材配置の適正化 | 55.9% |
| 労働者に必要な能力開発の目標 | 36.7% |
測った結果の使い道として、いちばん多いのは処遇の判断——裏を返せば、処遇に届かない評価は行き場を失うことになります。
この構造は、以前から論点になってきました。神戸大学教授で産業・組織心理学が専門の髙橋潔氏は、2011年の論文で、評価のあり方が「毎年恒例の制度的性格が濃かった実施形態から、系時的で継続的なマネジメント施策へと変化する」と述べています。この論文が載った『日本労働研究雑誌』No.617の特集名は、そのものずばり「評価制度の弊害は除けるか?」でした。
年1回の行事のまま置いておくと止まる——これが形骸化の正体です。以下では、その「止まる場所」を3つに分けて見ていきます。
なお、そもそも制度の骨組みがまだ無い、あるいは役割定義のところから作り直す段階であれば、中小企業の評価制度の作り方で等級と評価基準の組み立て方を扱っています。この記事は、その先の話だと考えてください。
参考(厚生労働省):令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要 / 参考(中小企業庁):2025年版 中小企業白書 第2部第1章第4節 人材戦略 / 参考(労働政策研究・研修機構):髙橋潔「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」『日本労働研究雑誌』No.617(2011年12月)
パターン1|評価の結果が、月給に届いていない
1つ目は、評価をしているのに、その結果が毎月の給与に反映されていないパターンです。社員から見れば「評価されても何も変わらない」ため、面談も自己申告も真剣に取り組む理由がなくなります。
厚生労働省が中小企業を対象に行った調査(2013年8月調査)に、給与と賞与のそれぞれについて「増減する場合の主な基準」を1つだけ選ばせた設問があります。その結果が次の表です。給与と賞与で何が基準になっているかを比べたものです。
| 増減の主な基準(単一回答) | 給与 | 賞与 |
|---|---|---|
| 本人の年齢や勤続年数 | 32.5% | 15.3% |
| 本人が持っている能力 | 21.6% | 10.1% |
| 一定期間内に出した目に見える成果・業績 | 19.4% | 48.0% |
| 目標達成に向けて行った行動・プロセス | 18.7% | 14.9% |
| その他 | 4.5% | 7.5% |
| 無回答 | 3.3% | 4.1% |
読み取れるのは、賞与の最多基準が「成果・業績」48.0%であるのに対し、給与の最多基準は「年齢や勤続年数」32.5%だということです。つまり、評価は賞与を動かしてはいても、毎月の給与を動かす一番の理由にはなっていない、という姿が見えます。なお、この設問は基準を1つだけ選ぶ形式のため、「評価に基づく基準を合計すると何%」といった足し算はできません。あくまで、最も多い単独の基準がどちらか、までが読み取れる範囲です。
この報告書は、同じ規模の会社で働く従業員10,000人にも聞いています。会社が給与・賞与で1番重視していると従業員が見ている要素別に、「納得のいく評価・処遇だと思う」(「どちらかというと」を含む)と答えた割合を並べると、年齢や勤続年数を重視していると見られている会社が37.7%で最も低く、以下、目に見える成果・業績41.7%、目標達成に向けた行動・プロセス50.3%、持っている能力52.7%の順でした。年功で決めていると社員から見えている会社ほど、その社員は納得していない、ということです。会社の制度がどうなっているかではなく、社員にどう見えているかで分けた集計である点にご注意ください。
ここで注意したいのは、「では月給に直結させればよい」と早合点しないことです。髙橋氏は2011年の論文で、ポスト不足や給与の目減りが常態化すると「昇進したいという強いキャリア志向や、人より高い給料を得たいという気持ちがなくなってしまう」「そもそも『偉くなりたい』とか『上に行きたい』という気持ちがなければ、人事評価によるモチベーション効果はそれほど期待できないだろう」と指摘し、評価のパラダイム自体を変える必要があると述べています。処遇に紐づける工夫は要りますが、そこだけに賭けると効きません。
参考(厚生労働省):働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査 報告書(平成26年5月公表/調査は平成25年8月) / 参考(労働政策研究・研修機構):人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点(2011年)
※この調査の対象は、成長分野等の事業を行う従業員30〜300人(建設業・製造業は50〜300人)の中小企業6分野(建設業、製造業、情報通信業、運輸業・郵便業、医療・福祉、サービス業)で、有効回答2,808社・有効回収率23.8%です。また回答企業のうち医療・保健が16.3%、福祉が22.0%を占め、合わせて4割近くが医療・福祉です。日本の中小企業全体の平均値ではない点にご注意ください。従業員調査のほうは、従業員規模30〜300人未満の中小企業で働く18〜59歳の常用労働者(農林漁業、公務員、派遣労働者を除く)1万人へのWEB調査(2013年10月11〜18日)です。
この記事の内容を、社内で共有できる資料にまとめています。
パターン2|評価の結果を、本人に返していない
2つ目は、評価はしたが、その結果と理由を本人に伝えていないパターンです。伝えていなければ、社員にとって評価は「どこかで決まっている自分の値札」でしかなく、行動が変わる余地がありません。
同じ調査で、「人事評価の結果とその理由を本人にフィードバックする」に取り組んでいる中小企業は51.1%でした(取り組んでいない42.9%、無回答6.1%)。そして、規模が小さいほどおおむね低くなります。30〜50人の会社(n=190)では44.7%、251〜300人の会社では58.9%と、およそ14ポイントの開きがあります。小さい会社ほど「言わなくても伝わる」と考えやすい分、返す工程が抜け落ちやすいということです。
返していない影響は、従業員側の回答にも出ています。同じ報告書の従業員調査で、評価・処遇に納得している(「どちらかというと納得している」を含む)と答えた人の割合は、次のとおりです。
| 職場で実施されているもの | 実施されている | 実施されていない |
|---|---|---|
| 評価結果とその理由のフィードバック・説明 | 54.7% | 40.0% |
| 目標管理制度 | 48.9% | 41.0% |
フィードバックでは14.7ポイントの差です。しかも報告書は、調べた25項目のうち差が10ポイント未満だったのは目標管理制度だけだったと書いています。目標管理を入れただけでは納得は動かず、結果を返すと動く。順序がここに出ています。
返すことの効果については、髙橋氏が海外の研究を紹介しています。評価面接を実施し、上司が人事評価の結果を伝えながら部下と相談する機会を持った場合、その後に部下の業績が有意に向上することが報告されている、というものです(Walker & Smither 1999)。
そのうえで、この記事でいちばん救いになるのは次の一文です。「上司による評価にはバイアスがつきまとうものだが、公開される評価情報が正確でなかったとしても、上司が部下と席を交えて、本人の仕事のあり方について話し合えば、それ自体が部下の業績を向上させるための効果的なプロセスとなるものだ」。評価の精度が完璧でなくても、返すこと自体に意味がある、ということです。基準の作り込みが終わるまで面談を止めておく理由はありません。
先ほどの厚労省調査でも、雇用管理の各取組みについて「効果があるとした企業」と「効果がないとした企業」で従業員の前向きな行動に30%以上の差が出た項目を数えたところ、「人事評価の結果とその理由を本人にフィードバックする」は8項目で、評価・処遇の取組みの中で最も多くなっていました(目標管理は6項目)。ただしこれは実施の有無による比較ではなく、事業主自身が効果を認めているかどうかで分けた比較である点は押さえておいてください。
参考(厚生労働省):働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査 報告書(平成26年5月) / 参考(労働政策研究・研修機構):人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点(2011年)
パターン3|評価する人を、育てていない
3つ目は、制度は入れたが、評価する側の訓練をしていないパターンです。評価者が変われば結果が変わる状態が続くと、社員は制度そのものを信用しなくなります。
同じ調査で、評価・処遇に関する6つの取組みの実施率を見ると、評価者研修だけが突出して低くなっています。制度の枠組みと、それを動かす人の訓練とで、どれだけ差があるかを並べたのが次の表です。
| 取り組み | 30〜50人 | 全体(30〜300人) |
|---|---|---|
| 目標管理を実施する | 61.1% | 70.6% |
| 人事評価やその調整を複数の評価者が行う | 56.3% | 70.4% |
| 人事評価の結果とその理由を本人にフィードバックする | 44.7% | 51.1% |
| 人事評価者に対して人事評価のやり方に関する研修を行う | 15.3% | 28.2% |
この表から読み取れるのは、制度の器は半数以上の会社が入れているのに、評価者研修だけが極端に低いということです。30〜50人の会社では、目標管理は61.1%が実施している一方、評価者研修は15.3%と1割台にとどまります。しかも研修の実施率は、51〜100人23.0%、101〜150人27.2%、151〜200人33.4%、201〜250人34.2%、251〜300人40.1%と、規模が小さいほどきれいに低くなります。制度は買えても、評価する人の目線は買えない、ということです。
ここで「では評価基準をもっと細かく書けばよいのでは」と考えたくなりますが、髙橋氏はこう書いています。「『評価基準がバラバラ』というのは、いつの時代にも出されてくる不満だ」。評価基準の問題は科学的な検討が避けられてきた分野で、産業心理学者の間では研究上の「不毛の地」とさえ形容されてきた、と髙橋氏は説明します(Campbell 1990)。理由は「評価すべき要素自体が、組織によって、文化によって、時代によって変化してくるからである」というものです。基準を精緻にすれば解決する、という話ではないわけです。
必要なのは、基準の文言を増やすことではなく、評価する人同士で「この基準はどの行動を指すのか」を突き合わせることです。その具体的な進め方は、人事考課とは?で考課者訓練として詳しく扱っています。この記事では、次章以降で最初の1回をどう開くかだけを示します。
参考(厚生労働省):働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査 報告書(平成26年5月) / 参考(労働政策研究・研修機構):人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点(2011年)
どこから直すか|3つのレベルには順番がある
3つのパターンが同時に起きている会社もあります。その場合、どこから手をつけるかで結果が変わります。結論としては、処遇への反映(パターン1)を後回しにして、返すこと(パターン2)から始めるのが現実的です。
理由は、髙橋氏が示す3層の整理にあります。同氏は、人事評価にもレベルの違う3つのシステムが必要になると述べています。土台から順に、勤怠・勤続の記録、成果・行動の評価とそこからのインセンティブ、そして業務のコーチングとパフォーマンスのマネジメント、という3層です。
人事評価に必要な3つのレベル(髙橋潔氏の整理を要約)
業務のコーチング/パフォーマンスのマネジメント。行動情報を返し、気づきと業績向上につなげる
成果・行動の評価。評価結果からインセンティブ(処遇)を決める
勤怠・勤続の記録。出退勤や勤続年数を押さえる土台
髙橋氏は、いま起きている変化を「伝統的な人事評価からパフォーマンス・マネジメントへの転換」と呼びます。業績や職務行動を評価して処遇に反映させる目的で行われてきたものから、行動情報をフィードバックして能力開発や行動変革の気づきをもたらし、本人の業績向上に役立てる取り組みへの変化である、という説明です。その中核要素はコーチングと評価情報のフィードバックであり、「パフォーマンス・マネジメントのための成功の方程式」と表現されています。
多くの会社が止まっているのは、2.0の途中です。評価はしているが処遇に十分つながらず(パターン1)、3.0に当たる返す工程が抜けている(パターン2)。そして返す側の訓練がない(パターン3)。ここを、年1回の恒例行事から継続的なマネジメント施策へ移すのが、形骸化から抜ける道筋になります。
先ほどの厚労省調査のまとめも、同じことを別の言い方で書いています。雇用管理の取組みをしている企業としていない企業とでは、従業員の前向きな行動や離職率に差が出たものの「ただし、その差は大きなものではなかった」。そのうえで、「単に取り組むだけでなく、それが効果があると評価できる形で取り組むことが重要であることがうかがわれる」としています。制度を入れたかどうかではなく、効いていると言える形で回しているかどうかで差がつく、ということです。
中小企業庁も同じ趣旨を書いています。2022年版の中小企業白書は、人事評価制度の見直し状況別に売上高増加率を比べたうえで、定期的に見直している企業では売上高増加率が高く、10年以上見直していない企業では特に低いとし、「企業の成長に当たっては、人事評価制度を導入するだけでなく、外部環境や内部環境の変化に合わせて制度を見直していくことが重要である」と結んでいます。制度は置いておくものではなく、回しながら直していくもの、という位置づけです。
参考(労働政策研究・研修機構):人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点(2011年) / 参考(厚生労働省):働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査 報告書(平成26年5月) / 参考(中小企業庁):2022年版 中小企業白書 第2部第2章第2節 組織の活性化
制度の当てはめから社内への落とし込みまで、右腕として伴走します。
進め方|実行手順
制度を作り直さずに、いまの制度のまま運用を立て直す手順です。最初の3か月で着手できるのはSTEP3までで、STEP4は年単位で設計します。
形骸化した評価制度を立て直す4ステップ
STEP1:自社がどのパターンで止まっているかを3つの数字で測る
まず社長と総務担当で、次の3つを自社の実数で出します。①直近の評価結果が月給の改定にどれだけ反映されたか(反映された人数と、反映されなかった人数)、②評価結果とその理由を本人に口頭で伝えた人数の割合、③評価者のうち、評価のやり方について研修や打ち合わせを受けたことがある人数。完了条件は、この3つが「◯人中◯人」の形で紙に書けていることです。注意点は、印象で「だいたいやっている」と埋めないこと。厚労省調査の全体値(フィードバック51.1%・評価者研修28.2%)と自社の数字を並べると、どこが弱いかがはっきりします。
STEP2:評価者だけを集めて、目線合わせ会議を1回開く
次に、評価する立場の人(社長・部門長)だけを集め、90分ほどの会議を1回開きます。厚生労働省の職業能力評価基準 導入マニュアル(令和3年)は、評価シートを実際に使うと〇△×のレベルのとらえ方に個人差が生じやすいとしたうえで、目線合わせを3段階で進めるよう示しています。
①本人と上司の評価にばらつきが大きい項目、評価者自身が評価しにくいと感じた項目を特定する、②〇△×それぞれのレベル感を、具体的な行動を挙げながら全員で確認する、③認識の食い違いを話し合い、〇△×の基準を具体的な行動と結び付けて設定し直す。
完了条件は、ばらつきの大きかった項目について「この行動があれば〇」と全員が口に出して言えることです。基準表そのものを書き換える必要はありません。
STEP3:全員に、結果と理由を返す面談を1回入れる
目線が揃ったら、直近の評価結果を本人に返します。同じ導入マニュアルは、フィードバック面談のポイントを6つ挙げています。①本人の優れている点と課題点を確認する、②本人の評価と上司の評価で違いがある項目をあらかじめ整理しておく、③優れている項目を本人の「強み」として伝える、④食い違っている項目(特に自己評価が上司評価より高い項目)を説明する、⑤本人に目標を設定させる、⑥本人の取り組みを支援することを約束し、励ます。
1人30分でかまいません。完了条件は、全員が自分の評価結果とその理由を口頭で聞いている状態です。注意点は、評価の精度が不十分でも面談を止めないこと。前章のとおり、話し合うプロセス自体に効果があります。
STEP4:賃金への反映は、長いスパンで設計する
処遇への反映は最後です。厚生労働省の導入マニュアルが紹介している企業事例には、自社版の評価基準を賃金体系へ反映させることを3〜5年の長いスパンで捉えたもの、試行後に評価シートを見直して評価負荷を下げたもの、そして「成功のカギは最初から完璧を目指さずシンプルに」という記述があります。これは厚労省が掲載している個別企業の取組事例であって、統計でも推奨基準でもありませんが、進め方の目安にはなります。完了条件は、何年目に何を賃金へ反映するかの年表が1枚できていること。初年度から全項目を月給に直結させる設計にはしない、というのが注意点です。
参考(厚生労働省):職業能力評価基準 導入マニュアル(令和3年) / 職業能力評価基準について
やりがちな遠回り|3つの落とし穴
立て直しに着手した会社が、時間を使ったわりに変わらないまま終わる要因は、だいたい次の3つに集約されます。着手前に自社が当てはまっていないかを確認してください。
着手前に確認する3つの落とし穴
- ✓基準表の作り直しから始めていないか
評価基準は組織・文化・時代で変わるため、作り込みだけでは終わらない - ✓評価のやり方(研修)だけを教えて終わっていないか
やり方を教えても、評価者同士で目線を突き合わせなければ結果は揃わない - ✓いきなり月給へ直結させようとしていないか
処遇への反映は長いスパンで設計し、初年度から全項目を紐づけない
1つ目がいちばん多い遠回りです。基準がバラバラだという不満は、前章のとおり、いつの時代にも出てくるもので、評価すべき要素自体が組織や時代で変わる以上、基準表を精緻にしても不満は消えません。まず1回、目線合わせと面談を回してから、そこで出た食い違いを基準に反映するという順番にしてください。そのうえで基準の書き方そのものを見直すなら、評価基準の決め方|5段階評価で5段階の線引きを扱っています。
2つ目は、評価者研修を1回開いて満足してしまうパターンです。やり方の座学は入口で、必要なのは自社の評価シートを持ち寄って「この行動は〇か△か」を突き合わせる作業です。3つ目は、評価が処遇に届いていないという反省から、翌年いきなり全項目を月給へ紐づけてしまうパターン。原資が足りずに途中で凍結すると、制度への不信は形骸化していたとき以上に深くなります。
参考(労働政策研究・研修機構):人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点(2011年) / 参考(厚生労働省):職業能力評価基準 導入マニュアル(令和3年)
活用事例|規模と体制で変わる、立て直しの進め方(ケース別)
同じ「形骸化」でも、規模と評価体制によって最初に手をつける場所が変わります。以下は特定の企業の事例ではなく、条件を変えて考えた想定例です。自社に近いものを選んで読んでください。
評価者が1人しかいないため、目線のばらつきは起きません。止まっているのはたいていパターン2(返していない)です。社長が全員分の評価を持っているのに、忙しさで面談が流れている状態なら、STEP2を飛ばしてSTEP3から入れます。1人30分×10名なら1日で終わります。
評価者が複数になった直後は、部門ごとに甘辛の差が出ます。ここでSTEP3(面談)を先に回すと、部門間の不公平が社員に見えてしまい、かえって不信を招きます。順番どおりSTEP2の目線合わせを先に入れ、ばらつきの大きい項目を潰してから面談へ進むのが安全です。
制度も面談も回っているのに社員の反応が薄い場合は、パターン1に当たっている可能性があります。ただし翌年から月給へ全面的に紐づけるのではなく、STEP4の年表を先に作り、何年目にどの等級から反映するかを決めてから動かします。原資の見通しとセットで設計するのが前提です。
3つに共通する判断軸は、評価者が何人いるかです。評価者が1人なら返すことから、複数いるなら目線を揃えることから始める——ここだけ間違えなければ、大きく遠回りすることはありません。
まとめ
- 評価制度の形骸化は、基準の曖昧さだけが原因ではない。止まるのは運用の3か所(処遇に届かない/本人に返していない/評価者を育てていない)
- 厚労省の中小企業調査(2013年8月調査・成長分野等6業種の2,808社)では、目標管理の実施70.6%に対し、評価者研修は28.2%、結果のフィードバックは51.1%。制度の器はあっても、動かす部品が入っていない
- 30〜50人規模では評価者研修15.3%、フィードバック44.7%と、規模が小さいほど低くなる
- 直す順番は「返すこと」が先、「賃金への反映」は後。評価の精度が完璧でなくても、上司が本人と話し合うプロセス自体に効果がある
- 最初の3か月でできるのは、3つの数字で自社を測る/目線合わせ会議を1回開く/面談を1回入れる、まで。基準表の作り直しから始めない
- 中小企業庁も「人事評価制度を導入するだけでなく、外部環境や内部環境の変化に合わせて制度を見直していくことが重要」としている。制度は置くものではなく、回しながら直すもの
最後に
評価制度の立て直しでいちばん難しいのは、設計ではなく「1回目を実際に開くこと」です。目線合わせ会議の日程を押さえ、評価者に事前準備をしてもらい、面談の順番を組む——この段取りが社長の手元で止まったまま、また1年が過ぎてしまう会社は少なくありません。
私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、制度の設計図を置いて帰るのではなく、その1回目の会議に同席し、ばらつきの出た項目を整理し、面談のシートを一緒に作るところまで担います。評価は人と人の間で起きることなので、外の立場の人間が1人いるだけで、言いにくいことが言える場になることもあります。
いまの制度を捨てる必要はありません。自社がどのパターンで止まっているのか、3つの数字を出すところからご一緒します。評価制度の運用でお困りのことがあれば、無料相談からお気軽にご相談ください。

