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第三者承継(M&A)とは?|後継者不在の選択肢と手数料の実際

経営戦略

「後継者がいない」——廃業の前に、第三者承継(M&A)という選択肢がある

「そろそろ引退を考えたいが、継いでくれる人がいない」——後継者不在は、いまや中小企業の最も深刻な経営課題の一つです。子どもは継がない、社内にも適任者がいない。そうなると「もう廃業するしかないか」と考えてしまいがちです。

しかし、後継者が親族や社内にいなくても、社外の第三者に事業を引き継ぐ(第三者承継=M&A)という選択肢があります。M&Aと聞くと大企業の話に思えますが、公的な支援センターだけでも令和6年度に2,132件が成約しています。従業員の雇用や取引先との関係を守りながら事業を残す、現実的な道です。

この記事では、事業承継の3つの型、第三者承継(M&A)とは何か、その進め方、そして相談先と注意点を、中小企業庁の情報をもとに整理します。押さえるべきは次の4点です。

💡 この記事でわかること:

  • 事業承継には3つの型がある:親族内承継/従業員承継/第三者承継(M&A)
  • 後継者が親族・社内にいなくても、第三者承継(M&A)で事業と雇用を残せる
  • 公的な相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」が、無料で相談に対応している
  • M&Aは相手あってのもので時間がかかる。早めの準備と、信頼できる支援者選びが鍵

そもそも事業承継の「3つの型」

事業承継とは、会社の経営を次の世代へ引き継ぐことです。「誰に引き継ぐか」で、大きく3つの型に分かれます。

事業承継の3つの型 承継先 主な検討場面
親族内承継 子どもなど親族 後継者となる親族がいて、意欲もある
従業員承継 役員・従業員 社内に経営を任せられる人材がいる
第三者承継(M&A) 社外の会社・個人 親族・社内に後継者がいない(後継者不在)

かつては親族内承継が主流でしたが、価値観の多様化や少子化を背景に、後継者不在の会社が増えています。その受け皿として存在感を増しているのが、第三者承継(M&A)です。「継ぐ人がいない=廃業」ではなく、「社外に継ぐ相手を探す」という発想の転換がポイントです。

3つの型のうち親族内承継・従業員承継を選ぶ場合は、渡す相手を育てる時間が別に要ります。図面や技術ではなく、金融機関との関係や値決めの勘所といった見えにくいものをどう渡すかは、事業承継の後継者育成|見えない経営業務の引き継ぎと支援策でまとめています。

第三者承継(M&A)とは

第三者承継(M&A)とは、親族や社内ではなく、社外の会社や個人に事業を引き継ぐことです。株式の譲渡や事業の譲渡といった方法で、経営を第三者に託します。

第三者承継の大きな意義は、廃業を避けられることです。会社をたたむと、そこで働く従業員は職を失い、長年の取引先も供給元を失います。第三者承継なら、これまで築いてきた技術・顧客・雇用を、次の担い手に引き継げます。売り手の経営者にとっては、引退後の生活資金(譲渡対価)を得られるという面もあります。

💡 「売り」だけでなく「買い」の選択肢にも

第三者承継は、事業を譲る側だけの話ではありません。成長したい会社にとっては、M&Aで他社の事業を引き継いで規模や技術を得るという“買い手”の戦略にもなります。自社の成長の一手として、M&Aを選択肢に持っておく価値があります。

第三者承継は、実際どれくらい行われているのか

「M&Aは大企業の話」という感覚は、数字を見ると変わります。国が各都道府県に置く事業承継・引継ぎ支援センターだけを見ても、第三者承継の成約件数は右肩上がりです。

事業承継・引継ぎ支援センターにおける第三者承継の成約件数
1
平成23年度
0件(制度の開始年)
2
平成27年度
209件
3
平成30年度
923件
4
令和3年度
1,514件
5
令和6年度
2,132件(過去最高)

令和6年度の成約は2,132件で、過去最高を更新しました。累計では12,306件になります。相談する側も増えていて、令和6年度に第三者承継について相談した会社は16,045者、累計では119,294者にのぼります。

大事なのは、これが民間のM&A仲介会社を通じた件数を含まない数字だということです。公的な窓口の分だけでこれだけあり、実際の第三者承継はさらに多いことになります。

もうひとつ、後継者人材バンクという仕組みもあります。創業を目指す個人と、後継者がいない会社を引き合わせる事業です。令和6年度の成約は106件(累計435件)で、登録している創業希望者は累計10,075者。件数としてはまだ多くありませんが、「会社を継ぎたい個人」が1万人以上登録しているという事実は、知っておく価値があります。

参考(中小企業基盤整備機構):令和6年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について(PDF)事業承継・引継ぎポータルサイト

M&Aの進め方|大きな流れ

中小企業のM&Aは、一般的に次のような流れで進みます。相手のあることなので、数か月から1年以上かかることも珍しくありません

①準備(自社の現状整理・磨き上げ)→ ②相手探し(マッチング)→ ③交渉・基本合意 → ④デューデリジェンス(買い手による調査)→ ⑤最終契約 → ⑥引継ぎ(PMI)、という順です。

⚠️ 注意

M&Aは、仲介業者やアドバイザーの支援を受けて進めるのが一般的ですが、契約内容や手数料が分かりにくい、といった課題も指摘されてきました。中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」で、支援業者が守るべき事項(契約前の書面交付・重要事項説明など)を示しています。支援者を選ぶ際は、このガイドラインに沿った対応をしているかを確認しましょう。税務(株式譲渡の課税、事業承継税制など)は専門家に相談してください。

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第三者承継を進める4ステップ

STEP1:早めに準備する(会社を“引き継げる状態”にする)

M&Aは、思い立ってすぐ相手が見つかるものではありません。だからこそ早めの準備が大切です。準備とは、決算書を整える、社長個人と会社の資産・お金を切り分ける、属人化した業務を仕組みにするなど、会社を“他人が引き継げる状態”に磨き上げることです。この磨き上げは、そのまま会社の価値(譲渡条件)を高めることにもつながります。

「まだ引退は先」という段階から準備を始めるほど、選択肢は広がります。逆に、体力・気力が落ちてから慌てて動くと、条件面で不利になりがちです。承継は、健康なうちに考え始めるのが鉄則です。

第三者承継を選ぶかどうかにかかわらず、この磨き上げの中身は同じです。財務の整理・社長依存の解消・株の整理を何年かけてどの順で進めるかは、中小企業の事業承継で、4社の5年計画と株価対策の実際としてまとめています。相手を探す前に自社を整えておくほど、条件の話が有利になります。

✓ あわせて読みたい中小企業の事業承継|4社の進め方と5年計画・株価対策の実際中小企業の事業承継で決めるのは「誰に・株・保証・時期」の4つです。5年計画の立て方、株式の評価を下げてから動かす順番、個人保証の外し方を、製…

STEP2:信頼できる相談先を選ぶ

一人で抱え込まず、まずは相談します。公的な窓口として事業承継・引継ぎ支援センター(国が47都道府県に48か所設置)があり、親族内・従業員・第三者のいずれの承継も無料で相談できます。民間のM&A仲介・アドバイザーを使う場合は、中小M&Aガイドラインに沿った説明(手数料体系・契約内容の明示)をしてくれるかを確認します。秘密保持が徹底されているかも重要な選定ポイントです。

STEP3:相手を探し、条件を交渉する

支援者を通じて、事業を引き継ぐ相手(買い手)を探します。候補が見つかったら、秘密保持契約を結んだうえで情報を開示し、価格や従業員の処遇、引継ぎ後の体制などの条件を交渉します。基本合意の後、買い手が会社の実態を調べるデューデリジェンスを経て、最終契約に至ります。ここでは、価格だけでなく「従業員をどう扱ってくれるか」「事業をどう続けてくれるか」という、譲る側の想いも大切な交渉ポイントになります。

STEP4:引き継ぎ(PMI)まで見届ける

契約が成立しても、そこで終わりではありません。引継ぎ(PMI:統合プロセス)が、承継の成否を分けます。取引先や従業員への説明、業務の引き渡し、経営の移行を、一定期間かけて丁寧に行います。前経営者が急に去るのではなく、しばらく伴走して引き継ぐことで、従業員の不安や取引先の動揺を抑えられます。「渡して終わり」ではなく「根づくまで見届ける」姿勢が、これまで築いたものを守ります。

費用はいくらかかるのか——最低手数料という落とし穴

第三者承継でいちばん分かりにくいのが費用です。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)は、仲介者・FAに支払う手数料の考え方と、具体的な金額例を示しています。

手数料は次の4つで構成されます。すべてが発生するとは限らず、組み合わせは業者ごとに違います。

名称 いつ払うか
着手金 契約したとき。成約しなくても返らないことが多い
月額報酬 契約している期間中、毎月
中間金 基本合意など、途中の節目で
成功報酬 成約したとき

成功報酬はレーマン方式で計算するのが一般的です。金額の段階ごとに違う率を掛けて合算します。

基準となる価額 乗じる割合
5億円以下の部分 5%
5億円超10億円以下の部分 4%
10億円超50億円以下の部分 3%
50億円超100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%

ただしこれは一例で、率も段階も業者ごとに異なります。「基準となる価額」に何を使うかも3通りあり(譲渡額/移動総資産額/純資産額)、どれを採るかで金額が変わります。負債の多い会社が移動総資産額を基準にされると、同じ譲渡額でも手数料は高くなります。

小規模なほど、手数料の重みが増す

ここが最も大事なところです。多くの仲介者・FAは最低手数料を設けています。譲渡額が小さいと、レーマン方式では十分な報酬にならないためです。

ガイドラインが挙げている4つの事例を並べると、その効き方が見えます。

譲渡額 手数料の総額(税込) 手元に残る額
3,000万円(事業譲渡・4か月) 429万円 2,571万円
5,000万円(株式譲渡・10か月) 1,100万円 3,900万円
1億円(株式譲渡・6か月) 660万円 9,340万円
5億円(株式譲渡・1年・負債5億円) 4,950万円 4億5,050万円

譲渡額5,000万円の事例を見てください。レーマン方式で計算すると成功報酬は5,000万円×5%×110%=275万円です。ところがこの業者の最低手数料は1,000万円(税込1,100万円)でした。計算式より最低手数料のほうが高いので、請求されるのは1,100万円になります。譲渡額1億円のケースが660万円ですから、譲渡額が半分なのに手数料は倍近い、という逆転が起きています。

ですから、契約前に確かめるのは率だけでは足りません。最低手数料はいくらか、基準となる価額に何を使うか、着手金は成約しなくても返らないのか——この3点を書面で確認してください。ガイドラインも、複数の仲介者・FAを比較検討することが望ましいとしています。

参考(中小企業庁):中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月/手数料はP63〜68)

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相談先の選び方と、おかしいと思ったときの窓口

費用の話が分かると、次は「誰に頼むか」です。順番があります。

まず、無料の公的窓口から

事業承継・引継ぎ支援センターは47都道府県に48か所あり、相談は無料です。親族内・従業員・第三者のどの承継でも受け付けています。ガイドラインも、どの窓口に相談するか迷うときはまずここに相談するよう案内しています。民間の仲介者に依頼する前にここで全体像をつかんでおくと、あとで示される条件を判断する軸ができます。

M&A支援機関登録制度を確認する

令和3年8月に、国がM&A支援機関登録制度を作りました。中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した仲介者・FAが登録できる制度です。

注意したいのは、登録がなくても仲介・FA業務そのものは行えるという点です。登録は営業の許可ではありません。ただし、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)で仲介・FAの手数料について補助を受けるには、あらかじめ登録を受けた支援機関の支援であることが条件になります。補助金を使うつもりがあるなら、依頼する前に登録の有無を確認してください。

セカンド・オピニオンを取る

ガイドラインは、他の支援機関に意見を求めること(セカンド・オピニオン)を2種類に分けています。同じ業務を提供する別の仲介者に聞くのが狭義、弁護士・公認会計士・税理士や事業承継・引継ぎ支援センターに聞くのが広義です。契約書の内容や合意した条件が正しく反映されているかは、広義のほう——特に弁護士に見てもらうのが確実です。

進めてから「おかしい」と思ったら

相談先は用意されています。いずれも紛争の解決を目的とする窓口ではありませんが、記録として残ります。

窓口 何を受け付けるか
事業承継・引継ぎ支援センター 中小M&A全般の相談。迷ったらまずここ
M&A支援機関登録制度 情報提供受付窓口 登録された仲介者・FAの不適切事例の情報提供
M&A仲介協会 苦情相談窓口 協会の会員である仲介者に関する苦情
日本弁護士連合会 ひまわりほっとダイヤル 法的な観点からの助言を求めたいとき

参考(中小企業庁):中小M&Aガイドライン(第3版/相談窓口はP76)M&A支援機関登録制度

活用事例|第三者承継、どう考えるか(ケース別)

ケース1|後継者不在で廃業を考えていた会社

「継ぐ人がいないから廃業」と決める前に、第三者承継の可能性を検討するケース。まず事業承継・引継ぎ支援センターに相談し、自社に引き継ぎ手がいそうかの感触をつかみます。従業員の雇用と取引先を守りながら事業を残す道が見えることも少なくありません。

同じ第三者承継でも、いまどの段階にいるかで考えることは変わります。よくある4つの形で見てみましょう。

ケース2|数年後の引退を見据えて準備を始めたい会社

まだ現役だが、将来に備えたい会社。今から会社の磨き上げ(決算の整備、業務の仕組み化、社長依存の解消)を進めておくことで、いざM&Aを検討する際の選択肢と条件が大きく変わります。準備期間の長さが、そのまま有利さにつながります。

ケース3|M&Aで事業を伸ばしたい会社(買い手側)

自社の成長のために、他社の技術・顧客・人材を引き継ぎたい会社。買い手としてM&Aを戦略に組み込むケースです。相手先の選定、条件交渉、そして引継ぎ後の統合(PMI)まで、支援者とともに慎重に進めます。“買って終わり”ではなく、統合を成功させることが成果を左右します。

ケース4|譲渡額が数千万円規模になりそうな会社

最低手数料がいちばん効いてくる範囲です。複数の仲介者・FAから見積もりを取り、率だけでなく最低手数料の金額まで並べて比べてください。手元にいくら残るかは、そこで決まります。

参考(中小企業庁):事業承継中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)

まとめ

事業承継には、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つの型があります。後継者が親族や社内にいなくても、第三者承継によって、事業・雇用・取引先を守りながら会社を残す道があります。

M&Aは相手あってのもので、準備から引継ぎまで時間がかかります。だからこそ、早めに会社を“引き継げる状態”に磨き上げ、事業承継・引継ぎ支援センターなどの信頼できる相談先とともに進めることが大切です。支援業者は、中小M&Aガイドラインに沿った対応かを確認しましょう。

「継ぐ人がいない」は、廃業と同義ではありません。早く動くほど、会社と、そこで働く人たちの未来の選択肢は広がります。

最後に

事業承継は、経営者にとって最後にして最大の意思決定です。第三者承継という選択肢を知っているかどうかで、これまで築いてきたものの行き先が変わります。廃業を選ぶ前に、一度は「継いでもらう」道を検討する価値があります。

私たちは、承継に向けた会社の磨き上げ(財務の整備、業務の仕組み化、社長依存の解消)から、相談先の選定、承継後の体制づくりまで、経営者に伴走します。「まだ先の話だが、そろそろ考え始めたい」という段階からで大丈夫です。まずはお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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