人事考課とは?|人事評価との違いと、考課者訓練が必要な理由
目次
「あの課長は評価が甘い」——研修を入れても差が埋まらない理由
寛大化傾向やハロー効果といった評価の癖を管理職に教えれば、評価のばらつきは収まる。考課者研修を入れるとき、多くの会社がこの前提に立っています。ところが研究の世界では、誤差の少ない評価が、必ずしも正しい評価になるわけではないと整理されています。よく知られた誤りをしなくなっても、別の誤りを含んだ評価のしかたに移っただけ、ということが起きるためです。
では何が効くのか。答えは「基準の摺り合わせ」です。評価基準の言葉が具体的にどんな行動を指すのかを、評価者どうしが実例を持ち寄って話し合い、合意をつくる。手間はかかりますが、この方法が考課者訓練としてもっとも効果的だと多くの研究者に認められています。
この記事では、人事考課とは何かという定義から、人事評価との呼び分け、使用者に認められる裁量とその限界、そして中小企業が何から手をつければいいかまでを順に整理します。評価者が数人しかいない会社ほど、実は取り組みやすい領域です。
この記事でわかること
- 人事考課の中身と、人事評価という言葉との使い分け(民間の法令に定義はありません)
- 人事考課がどこまで会社の裁量で、どこから違法になりうるか
- 評価エラーを教える研修だけでは評価が正確にならない理由
- 評価者が数人の会社でも回せる、基準の摺り合わせの手順
そもそも人事考課とは|3つの考課からなる評価の仕組み
人事考課とは、従業員の働きぶりを一定の基準にそって評価し、処遇に反映させる仕組みのことです。日本に広まった伝統的な人事考課制度は、成績考課・能力考課・情意(態度)考課の3つの考課から構成されると整理されています(神戸大学大学院・高橋潔教授、2011年)。
それぞれが具体的に何を見るのかは、下のとおりです。ただし各考課の定義や配点は法令で決まっているわけではなく、会社が自社の基準として設計するものだという点は押さえておいてください。
伝統的な人事考課を構成する3つの考課
もうひとつ押さえておきたいのは、人事考課が「評価制度のすべて」ではないことです。関西学院大学の柳屋孝安教授は、企業の評価制度には人事考課以外にもさまざまな手法が使われてきたと整理しています。挙げられているのは次の手法です(右の列は、読みやすさのために当社で補った説明です)。
| 手法 | 主に見るもの |
|---|---|
| 人事考課 | 期間内の成績・能力・態度(最も多く使われている) |
| 試験(筆記試験・論文等) | 知識や思考力 |
| 各種適性試験 | 職務への適性 |
| 自己申告制度 | 本人の希望・自己認識 |
| 多面評価制度 | 上司以外の視点から見た働きぶり |
| キャリアカウンセリング | 中長期のキャリア形成 |
原典はこれらを「キャリアカウンセリングその他、さまざまな手法が利用されてきている」と開いた形で列挙しており、ここに挙げたものがすべてというわけではありません。この表から読み取れるのは、人事考課は数ある手法のひとつにすぎないのに、実務では最も多用されているという事実です。裏を返せば、多くの会社で「評価制度=人事考課」になっており、考課の質がそのまま評価制度の質になっているということでもあります。
参考(労働政策研究・研修機構):高橋潔「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」日本労働研究雑誌 No.617(2011年) / 柳屋孝安「人事考課の裁量性と公正さをめぐる法理論」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
人事考課と人事評価の違い|民間の法令に定義はない
民間企業に適用される労働関係法令には、人事考課・人事評価どちらの定義もありません。労働基準法にも労働契約法にも、この2語を定義した条文はありません。どちらの語をどう使うかは、会社や書き手によって変わります。
ただし、この2つは法令上の扱いが対称ではありません。「人事考課」は法令用語としては存在しない一方、「人事評価」は公務員については法律に定義があります。国家公務員法第18条の2第1項と地方公務員法第6条第1項が、人事評価を「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」と定め、「職員の人事評価は、公正に行われなければならない」とも規定しています(国家公務員法第70条の2、地方公務員法第23条)。ただしこれは公務員の制度であって、民間企業に直接適用されるものではありません。
そのうえで実務での使われ方を見ると、傾向はあります。人事考課は、賃金や賞与の決定といった労働者にとって重要な処遇にもっとも多く利用されており、それゆえに法的な紛争も多いと整理されています(柳屋、2011年)。つまり人事考課という語は、処遇の決定に直結する評価を指して使われる場面が多い、ということです。一方、人事評価という語がどこまでを指すのかは、文献上も定まっていません。
ただし、これは言葉の使われ方の傾向であって、定義ではありません。「考課は査定のため、評価は育成のため」といった説明を見かけることがありますが、この区別を裏づける一次情報はなく、厚生労働省の資料はむしろ逆を書いています。職業能力評価基準の導入マニュアルは、人事考課を「社員が職務遂行の上で貢献してくれたことを公平かつ客観的に把握することにより、人材育成や処遇に活かして社員の労働意欲を高めようというもの」と説明し、人事考課表の例には「能力開発目標」の欄を置いています。自社の規程で両方の語を使っているなら、どちらが何を指すのかを社内で定義し直しておくほうが、用語論争より実益があります。
言葉の整理より優先度が高いのは、評価の中身と運用です。制度そのものをこれから設計する段階であれば、等級と評価基準の組み立て方を中小企業の評価制度の作り方で解説していますので、そちらから読み進めてください。
参考(労働政策研究・研修機構):柳屋孝安「人事考課の裁量性と公正さをめぐる法理論」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
参考(厚生労働省):職業能力評価基準導入マニュアル(令和3年)
人事考課は会社の裁量。ただし無制限ではない
「評価に不満だと言われたら、どこまで説明責任があるのか」。経営者からよく出る問いです。
判例は、人事考課を使用者が人事権行使の一環として行う裁量行為として捉えてきました。基本的には使用者の総合的・裁量的な判断が尊重されるべきものであり、原則として違法と評価されることはない、と説明されています。ただし同じ論文は、判例が詳細な事実認定を通じて人事考課の「公正さ」をより細かくチェックする傾向が見られるようになった、とも指摘しています。裁量が広いという一面だけを見て判断すると、足をすくわれます。ここで注意していただきたいのは、これが2011年時点での判例整理だという点です。以降の判例の動きまでは本記事では確認していませんので、実際の紛争局面では最新の状況を弁護士に確認してください。
一方で、裁量は無制限ではありません。不当な人事考課にもとづく処遇は、使用者の裁量権の逸脱ないし濫用の問題として構成されます。そして濫用等は「社会通念に照らして著しく不合理である場合に」限って不法行為になる、と整理されています。
ここで誤解しやすいのですが、この「著しく不合理」という限定は、損害賠償(不法行為)が認められる場面についてのものです。降格や降給、解雇そのものが有効かどうかは別の枠組みで判断され、降格前の地位の確認や昇格請求まで認めた裁判例もあります。
「著しく不合理でなければ何をしても問題にならない」という話ではありません。不法行為の場面で侵害されたと考えられる利益は、適正な人事考課による処遇に対する労働者の「期待的利益」ないし「期待権」だとされます。
では「公正さ」とは具体的に何を指すのか。学説がほぼ共通して挙げるのは、①合理的な評価基準の設定と開示、②適正な評価、③評価内容の開示と苦情処理、の3点です。何を評価するか・誰がいつ評価するか・結果をどう処遇に反映するかは一次的に会社の裁量に委ねられるため、③の手続き面からのチェックが強調される、という整理になっています。なお、苦情処理の手続きが制度化されておらず、評価者が口頭で説明しただけという場合でも、それだけで濫用にあたるとは判断されていません。
ここが実務でいちばん効くところです。人事考課制度の詳細を就業規則などに具体的に定めておくと、会社の裁量はその定めに縛られる代わりに、評定が制度に則って適切にされていれば合理的なものと推定されるとした判例があります。制度を明文化することは会社の手を縛るだけに見えますが、同時に会社を守る側にも働くということです。
経営の実務としてこの整理から読み取るべきことは、ひとつです。会社には広い裁量がある。だからこそ、その裁量が「著しく不合理」と見られない状態——つまり基準が定まっていて、評価者がその基準どおりに運用している状態——を自前でつくっておく必要がある、ということです。ばらつきを放置した評価は、法的なリスクである以前に、従業員の納得を確実に失わせます。
なお、労務・法務の最終判断は個別事情に大きく左右されます。実際のトラブル対応は、社会保険労務士や弁護士に事案ごとに相談してください。
参考(労働政策研究・研修機構):柳屋孝安「人事考課の裁量性と公正さをめぐる法理論」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
この記事の内容を、社内で共有できる資料にまとめています。
考課者が陥る評価エラーと、伝統的な「評価誤差訓練」
考課者訓練という言葉は聞くけれど、実際にやっている会社はどれくらいあるのか。厚生労働省が2014年に中小企業(従業員30〜300人・2,808社)へ行った調査では、「人事評価者に対して人事評価のやり方に関する研修を行う」と答えた企業は28.2%でした。同じ設問の6項目のうち、これが最も低い数字です(目標管理の実施70.6%、複数の評価者による評価・調整70.4%、結果と理由の本人へのフィードバック51.1%)。制度は作っても、評価する側を訓練するところまでは手が回っていない——それが平均的な姿だということです。
評価のばらつきを生む要因として、古くから知られている評価エラーがあります。考課者研修でまず教えられるのは、たいていこの部分です。
| 評価エラー | 何が起きるか |
|---|---|
| 寛大化傾向 | 全体的に甘い点をつけてしまう |
| 中心化傾向 | 差をつけず、真ん中の評価に寄せてしまう |
| ハロー効果 | ひとつの目立つ長所・短所が、他の項目の評価まで引きずる |
この表が示しているのは、ばらつきの多くが評価者本人の意図しないところで生じるということです。悪意があって甘くつけているわけではないので、本人に自覚がありません。
こうしたエラーやバイアスの知識をレクチャーで教えるのが、評価誤差訓練(rater error training)と呼ばれる伝統的なメソッドです。シナリオや映像で部下の職務活動を見せる模擬評価実習を行ったり、各評価者の偏りを数値やコメントでフィードバックしたりすることもあります。
このメソッドが立っている前提は、「知っていれば行動につながる」というものです。エラーの存在を知れば、評価者は自分でそれを避けるようになるはずだ、という考え方です。多くの会社の考課者研修が、いまもこの形をとっています。
参考(労働政策研究・研修機構):高橋潔「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
参考(厚生労働省):働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査 報告書(平成26年5月)
エラーを教えるだけでは足りない|「誤差が少ない=正しい」ではない
ここがこの記事の核心です。評価誤差訓練によって誤差を低めることはできる。しかし、誤差の少ない評価を行ったとしても、必ずしも評価の正確さが高まるとはかぎらない——研究ではそう整理されています。「誤差の少ない評価イコール正しい評価」というわけではない、ということです。
さらに踏み込んだ指摘もあります。寛大化やハロー効果といったよく知られた誤りをしないようになったとしても、それは単に、別の誤りを含んだ評価戦術をとるようになっただけということがある、というものです。
これは中小企業の現場でも思い当たる話ではないでしょうか。「甘くつけるなと言われたから、とりあえず全員を3にしておこう」。「ハロー効果に注意と言われたから、良い点と悪い点を無理に半々にしておこう」。エラーの名前を教わった評価者が、指摘されない付け方を覚えただけの状態です。点数の散らばりは整いますが、その点数が実際の働きぶりを写しているかどうかは別の話です。
考課者研修を入れたのに、翌年も部下から「評価がおかしい」と言われる。原因は研修の回数不足ではなく、エラーを教えるという方法そのものの限界にあるのかもしれません。
参考(労働政策研究・研修機構):高橋潔「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
効くのは「基準の摺り合わせ」|評価枠組み訓練という第2のメソッド
では何をすればいいのか。考課者訓練にはもうひとつのメソッドがあります。評価枠組み訓練(frame-of-reference training)——ひとことで言えば「基準の摺り合わせ」の訓練です。
やることは、評価基準の定義的な意味内容を評価者が理解し、効果的な仕事上の行動・効果的でない行動やコンピテンシーについて、評価者どうしの話し合いでコンセンサスを醸成することです。そのうえで模擬評価実習を行い、フィードバックと強化を重ねます。エラーの名前を覚えるのではなく、「この基準の『主体性がある』とは、具体的にどの行動を指すのか」を評価者全員で合意する作業だと考えてください。
2つのメソッドは、狙っているものが違います。
考課者訓練の2つのメソッド
エラーの知識をレクチャーで教える
寛大化・中心化傾向・ハロー効果を知る
「知っていれば行動につながる」が前提
誤差は下がるが、正確さが高まるとはかぎらない
評価基準の意味内容を評価者どうしで摺り合わせる
効果的・非効果的な行動について合意をつくる
模擬評価実習・フィードバック・強化を重ねる
手間はかかるが、もっとも効果的と多くの研究者が認める
評価枠組み訓練は手間がかかります。半日の座学で済むものではなく、実例を持ち寄って議論する時間が要ります。それでも、評価者訓練としてもっとも効果的だと多くの研究者から認められているのはこちらです。
そして経営者にとって見逃せないのは、その先の効果です。評価が正確になれば、評価される側の従業員にとっても納得度が高いものになります。しかも、事後的な部門間調整よりは、事前のコンセンサスのほうがベターだと整理されています。評価が出そろってから「あの部署は点が高すぎる」と調整会議で削るより、つける前に基準を揃えておくほうがいい、ということです。調整で下げられた評価は、部下に説明できません。
もうひとつ、訓練とは別に覚えておきたいことがあります。評価面接そのものにも効果があるという報告です。上司が評価結果を伝えながら部下と相談する機会をもつと、その後の部下の業績が有意に向上した、という研究があります。しかも、そこで示される評価情報が正確でなかったとしても、上司が部下と席を交えて仕事のあり方を話し合えば、それ自体が業績を向上させるプロセスとして働くとされています。基準の摺り合わせと並行して、面談の場そのものを設けることにも意味があります。
参考(労働政策研究・研修機構):高橋潔「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
制度の当てはめから社内への落とし込みまで、右腕として伴走します。
進め方|中小企業が基準の摺り合わせを始める4ステップ
評価の質を高める施策は、大きく2つに分けられます。ひとつは評価システムを作り込むこと——評価要素の見直し、具体的な評価基準の設定、評価表の精緻化、わかりやすい指示書の整備です。もうひとつが評価者訓練です。この2つを別々のプロジェクトにせず、ひとつの流れとして回すのが、人事部のない会社での現実的なやり方です。
全体の流れは次のとおりです。
基準の摺り合わせを回す4ステップ
STEP1:評価表の抽象語が指す行動を書き出す
まず、いま使っている評価表を開いて、「積極性」「責任感」「協調性」といった抽象的な言葉に印をつけてください。そのうえで、その言葉が自社ではどんな行動を指すのかを、評価者それぞれに書き出してもらいます。ここで重要なのは、答え合わせをせずに一度バラバラのまま集めることです。同じ言葉に対して評価者ごとにまったく違う行動が挙がってくるはずで、その食い違いこそが甘辛の差の正体だからです。この作業は経営者が一人で下書きせず、実際に点をつける管理職の言葉で集めてください。
STEP2:同じ部下の事例で、評価者全員が仮採点する
次に、実在の従業員1〜2名分の直近半年の働きぶりを、事実だけを並べた資料にまとめます。誰がどう評価したかを伏せたうえで、評価者全員に同じ資料で仮採点してもらってください。研修用の架空シナリオでも構いませんが、自社の実例のほうが議論が具体的になります。点数は集計して一覧にし、誰が甘く誰が辛いかを個人攻撃にしないよう、名前を伏せて散らばりだけを見せるのがコツです。この時点では、まだ正解を示しません。
STEP3:点差が出た理由を話し合い、行動レベルで合意する
ここが訓練の本体です。同じ材料を見たのに点が割れた項目を取り上げ、「なぜその点にしたのか」を評価者どうしで説明し合います。目的は誰が正しいかを決めることではなく、その基準で何を見るのかについて全員が同じ絵を持つことです。議論の結論は「4をつけるのは、自分の担当範囲を超えて改善提案を出し、実行まで持っていった場合」というように、行動の水準で文章化して残してください。1回で全項目は終わりません。項目を絞って複数回に分けるほうが続きます。
STEP4:合意内容を評価表に反映し、次の考課で検証する
合意した行動水準を評価表そのものに書き込み、次の考課で実際に運用します。運用後は、評価者が迷った項目・部下から質問が出た項目を拾い、翌期のSTEP3に持ち込んでください。この往復を繰り返すことで、評価基準は自社の言葉に育っていきます。一度作って終わりにせず、年1回は摺り合わせの場を設けることを前提に設計してください。5〜50名規模なら、評価者は多くても数名です。全員が同じ部屋に集まれるという点で、この方法は中小企業のほうがむしろ回しやすい取り組みです。
なお、そもそも5段階の点数をどんな行動で線引きするかという設計そのものに迷いがあるなら、評価基準の決め方|5段階評価の点数を”感覚”でなく行動で線引きで具体的な組み立て方を解説しています。STEP1に入る前に目を通しておくと、書き出す言葉の粒度が揃います。
ゼロから基準の言葉を作るのが難しい場合は、厚生労働省の職業能力評価基準を土台に使う方法があります。仕事に必要な「知識」「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を業種別、職種・職務別に整理したもので、平成14年度から策定が進み、現在56業種が公開されています。
56業種のほかに、経理・人事等の業種横断的な事務系9職種もあります。自社の業種が一覧に無くても、事務系職種の基準なら使えます。人材育成・採用・人事評価などの場面で、企業内の標準的な基準として、また自社版にカスタマイズして活用することが想定されています。自社の職種に近いものを引き、STEP1の叩き台にするという使い方ができます。
参考(厚生労働省):職業能力評価基準について / 職業能力評価基準導入マニュアル(令和3年)
活用事例|体制別に見る、どこから手をつけるか(ケース別)
人事評価への不平には、大きく2つの要素があると整理されています。「基準がバラバラ」であることと、「評価者の評価能力に問題がある」ことです。自社の不満がどちらに寄っているかで、着手点が変わります。会社の体制別に、現実的な始め方を挙げます。以下の3つは、実在の企業の事例ではなく、体制ごとに整理した想定例です。
評価者が一人なので、他人との甘辛の差は生じません。問題になるのは、同じ社長のなかでの時期による揺れと、部下に理由を説明できないことです。STEP1で基準の言葉を書き出し、判断した根拠を短くメモに残すところから始めてください。摺り合わせの相手は、幹部候補を一人巻き込むと成立します。
この記事の内容がそのまま当てはまる規模です。STEP2の仮採点で点の散らばりを可視化すると、議論の出発点が一気に具体的になります。ここで大事なのは、甘い評価者を名指しで正すのではなく、基準の解釈をそろえる場として設計することです。個人の資質の問題にすると、次から本音が出なくなります。
制度の設計と考課者訓練を分けず、同時に進めるほうが早く落ち着きます。基準の文章を作る段階から、実際に点をつける管理職を議論に入れてください。作ってから研修で教える順番だと、現場が使えない基準がそのまま残ります。
共通する判断軸はひとつです。評価者が2人以上いるなら、基準の摺り合わせが先。評価者が1人なら、判断の根拠を残すことが先。研修を何回やるかより、評価する側が同じ絵を持てているかどうかで結果が決まります。
参考(労働政策研究・研修機構):高橋潔「人事評価を効果的に機能させるための心理学からの論点」日本労働研究雑誌 No.617(2011年)
まとめ
- 人事考課は、成績考課・能力考課・情意(態度)考課の3つからなる評価の仕組みで、企業の評価制度のなかでもっとも多く使われている
- 民間の労働法令には人事考課・人事評価どちらの定義もない(公務員については人事評価に法律の定義がある)。実務では、人事考課は賃金・賞与など処遇の決定に直結する評価を指して使われることが多い
- 判例は人事考課を使用者の裁量行為として捉えてきたが、裁量権の逸脱・濫用は違法になりうる(2011年時点の整理)
- 寛大化・中心化傾向・ハロー効果を教える評価誤差訓練では、誤差は下がっても評価が正確になるとはかぎらない。別の誤りに移るだけということがある
- 効果が認められているのは、評価者どうしが基準の意味を話し合って合意をつくる評価枠組み訓練。事後の調整より事前のコンセンサスがよい
- 人事考課の詳細を就業規則などに定めておくと、制度に則った評定は合理的と推定されるとした判例がある。明文化は会社を守る側にも働く
- 不平の2大要素は「基準がバラバラ」と「評価者の評価能力」。厚生労働省の職業能力評価基準(56業種と事務系9職種)を基準づくりの土台に使える
最後に
評価のばらつきは、管理職の努力不足で起きているわけではありません。基準の言葉が具体的な行動に結びついていないまま、それぞれが自分の解釈で点をつけているだけです。だからこそ、研修を増やすより、評価する側が同じ材料を見て話し合う場を一度つくるほうが効きます。
とはいえ、この場を社内だけで開くのは簡単ではありません。上司と部下、部門長どうしという関係のなかで「あなたの評価は甘い」とは言いにくいからです。私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、この摺り合わせの場に第三者として入り、基準の文章化から仮採点の設計、議論の進行、評価表への落とし込みまで一緒に手を動かします。制度の設計図を置いて帰るのではなく、実際に運用が回るところまで並走するのが役割だと考えています。
評価制度は作ったのに甘辛の差が埋まらない、部下に評価の理由を説明できない——そうした状態が続いているなら、まずは現状の評価表を見ながらお話しください。何から手をつけるべきかの整理までは、無料相談の範囲でお手伝いします。

