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どこからがカスハラ?|3要素の判断基準と現場での線引き

労務・法務

同じ「返品させろ」でも、向き合うべき正当な声と、カスハラに当たるものがあります

同じ「返品させろ」という一言でも、向き合うべき正当な要求と、カスハラに当たるものがあります。分かれ目は「要求の内容」と「伝え方(手段や態様)」の2つで、どちらか一方だけが度を越えた場合でも該当しうる、というのが国の考え方です。逆に言えば、声が大きいというだけでも、要求が厳しいというだけでも、それだけでカスハラにはなりません。

顧客からの強い言葉に社員がすり減っていく。電話を切ったあとの沈んだ表情や、遠回しな退職のサイン。そんな場面に心当たりがありながら、「クレームは宝だ、逃げずに向き合え」と教えてきた手前、線を引けずにいる——多くの中小企業の経営者が抱える悩みです。

線引きには、ちゃんと物差しがあります。国(厚生労働省)の指針は、カスハラを3つの要素で定義し、しかもその3つをすべて満たすものに限っています。そして許容範囲を超えているかは、上の2軸で総合的に判断します。

つまり、線引きには物差しがあります。この記事では、その3要素と2軸を整理し、現場が「これはどっちだ」と迷ったときに立ち返れる判断基準を示します。カスハラ対策の全体像(何をすべきか)についてはカスハラ対策の義務化とは?|2026年10月から全企業がやる10の措置で扱っているので、本記事は「線引き」だけに絞って掘り下げます。

✓ あわせて読みたいカスハラ対策の義務化とは?|2026年10月から全企業がやる10の措置カスハラ対策は2026年10月から全事業主の義務に。中小企業も猶予はありません。義務化の全体像、対象、事業主が講じる10の措置、社長が進める…

なお、制度や指針の解釈は改正・更新されることがあります。判断に迷う具体的な事案は、最後に専門家へ確認することを前提にお読みください。

そもそもカスハラとは

💡 この記事でわかること:

  • カスハラは3つの要素をすべて満たすものだけ、という国の定義
  • 「要求の内容」と「伝え方」の2軸で、片方だけ超えても該当しうること
  • 「自社側の対応が原因になっていないか」という歯止めの視点
  • 第三者が判定してくれない以上、自社で物差しを持つ意味

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為を指します。ポイントは、国の指針が次の3つの要素をすべて満たすものだけをカスハラと位置づけていることです。

①顧客等の言動であること。②その言動が、業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること。③その結果、労働者の就業環境が害されること。この3つが揃って初めてカスハラに当たります。逆に言えば、強い口調のクレームであっても、内容が正当で伝え方も常識の範囲なら、それはカスハラではなく「向き合うべき声」です。商品やサービスへの改善の申し出、品質への指摘は、むしろ事業を良くする糧になります。カスハラと正当なクレームを分ける線は、この定義の中にあります。

カスハラの3要素と、2軸で見る判断基準

判断のカギは、3要素の②「社会通念上許容される範囲を超えたか」をどう見るかです。指針は、これを「言動の内容」と「手段や態様」の2つに着目して総合的に判断するとしています。大切なのは、どちらか一方だけが範囲を超えている場合でも、カスハラに該当しうるという点です。

範囲を超える具体例は、指針で示されています。言動の内容が超えるものとは、そもそも要求に理由がない/商品・サービスと全く関係のない要求/想定しているサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難または不可能な要求/不当な損害賠償要求など。一方、手段や態様が超えるものとは、身体的な攻撃(暴行・傷害)/精神的な攻撃(脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言・土下座の強要)/威圧的な言動/継続的・執拗な言動/拘束的な言動(不退去・居座り・監禁)などです。

そしてもう一つ、必ず押さえたい歯止めがあります。指針は、事業主または労働者の側の不適切な対応が、その言動の原因や背景になっている場合もあることに留意すべき、としています。何でもカスハラ認定してよいわけではない、という視点です。ここを飛ばすと現場の納得感を失います。判断では、言動の目的、労働者側の問題行動の有無を含む経緯や状況、業種・業態、言動の頻度や継続性、当事者の関係性なども考慮します。

「要求の内容」×「伝え方」で見る4象限
← 要求の内容は妥当か
内容も伝え方も妥当=正当なクレーム。向き合うべき声
内容は妥当でも伝え方が過剰。該当しうる
伝え方は穏やかでも内容が理不尽。該当しうる
内容も伝え方も範囲外。カスハラの典型
伝え方(手段・態様)は妥当か →

よくある場面を、この2軸で並べるとこうなります。現場に配るなら、この形が使いやすいはずです。

よくある場面 該当しうるか 判断のポイント
「責任者を出せ」と求められた 単独では該当しない 通常の要求の範囲。対応の仕方の問題
同じ苦情の電話が連日続く 該当しうる 内容が正当でも、継続性・執拗さで手段が線を越える
土下座を強要された 該当しうる 指針が精神的な攻撃の例として挙げている
店内で無断撮影された 直ちには該当しない やめるよう言ってもやめない場合(問5)
SNS上で中傷された 該当しうる 電話・インターネット上の言動も「顧客等の言動」に含まれる
自社のミスへの厳しい指摘 慎重に判断する 自社側の対応が原因・背景にある場合に留意(問4)

「該当しうる」は「即カスハラ確定」ではありません。あくまで3要素をすべて満たすかで最終判断します。

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進め方|4ステップ

現場が迷わないために、判断は次の順番で行うと整理しやすくなります。声の大きさや第一印象ではなく、この手順に沿って一つずつ確かめます。

迷ったときに立ち返る判断の順番
3要素をすべて満たすか顧客等の言動/範囲を超える/就業環境が害される
内容と伝え方を分けるどちらか一方だけでも該当しうる
自社側の原因を確かめる案内ミスや説明不足が背景にないか
記録して相談する事実を残し、迷う事案は専門家へ

STEP1:まず3要素をすべて満たすかを照らす

最初に、目の前の言動が「①顧客等の言動」「②社会通念上許容される範囲を超えている」「③就業環境が害されている」の3つをすべて満たすかを確認します。ひとつでも欠ければカスハラには当たりません。強い口調というだけで反射的に判断せず、この3点を毎回のチェックリストとして使うことが出発点です。まずは「3つ揃っているか」を口ぐせにします。

STEP2:「要求の内容」と「伝え方」の2軸に切り分ける

次に、②の判断を2軸に分けて見ます。要求の中身そのものが理不尽なのか(内容)、それとも中身は理解できるが言い方や態度が度を越しているのか(手段・態様)。どちらか一方だけでも範囲を超えていれば該当しうるので、両方を別々に評価します。「何を求めているか」と「どう伝えているか」を分けて記録すると、感情に流されず線を引けます。

STEP3:自社側に原因や背景がないかを確かめる

そのうえで、こちらの対応がきっかけになっていないかを振り返ります。案内ミス、説明不足、約束の行き違いなど、自社側の不適切な対応が言動の原因になっているなら、まず解決すべきは自社の落ち度です。この歯止めを挟むことで、現場の「何でもカスハラ扱いか」という反発を防ぎ、正当な指摘まで切り捨てる事態を避けられます。

STEP4:迷う事案は記録し、専門家に相談する

3要素・2軸・自社側の確認を経ても判断が割れる事案は、無理に社内だけで白黒つけないことが賢明です。いつ・どこで・どんな言動があったかを事実として記録に残し、社会保険労務士や弁護士など専門家の見解を求めます。カスハラに当たるかを労働局などの第三者が代わりに判定してくれるわけではないため、最終判断の質を上げる意味でも外部の目を活用します。

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活用事例|線引きの進め方(ケース別)

線引きで確認したい3つの観点
内容が範囲を超える例
要求に理由がない/無関係な要求/不当な損害賠償要求
手段・態様が範囲を超える例
暴言・侮辱・土下座の強要/威圧/執拗/不退去・居座り
自社側に原因はないか
案内ミスや説明不足がきっかけになっていないかを先に確認
ケース1|従業員20名ほどの小売業(返品を求めて土下座を強要し居座る)

返品自体は正当な相談でも、土下座の強要と不退去は「手段や態様」が明らかに範囲を超えます。要求の入り口は正当でも、伝え方が度を越せばカスハラに該当しうる——2軸で見れば線は引けます。この場合、対応するのは「返品の可否」であって、土下座の要求には応じない。ここを分けて考えるのが現場の助けになります。

ケース2|従業員10名ほどの飲食業(客が従業員をスマートフォンで撮り続ける)

無断での撮影は、指針で精神的な攻撃に当たり得る例として挙げられています。ただし厚生労働省の解釈事項(令和8年4月24日)の問5は、これを「撮影をやめるように言われたにもかかわらず撮影し続ける」といった行為を指すものと説明しており、店内の無断撮影がすべて直ちにカスハラになるわけではないとしています。当たるかどうかは、あくまで3要素をすべて満たすかで判断します。

ケース3|従業員15名ほどの工務店(自社の説明不足が発端になっている)

最も判断を誤りやすいケースです。同じ資料の問4は、事業主・労働者側の不適切な対応が原因や背景になっている場合もあることに留意するよう求めています。案内ミスや説明不足がきっかけなら、まず自社側の事実確認が先です。ここを飛ばして「カスハラだ」と処理すると、正当な指摘を封じることになり、かえって信用を失います。

ケース4|従業員25名ほどのサービス業(「もう出入り禁止にしていいのか」と迷う)

同じ資料の問18は、改正法は事業主に雇用管理上必要な措置を義務づけるものであって、事業主に何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではないと明記しています。「法律ができたから即出入り禁止にできる」という理解は誤りです。対応はあくまで事実に基づいて進め、契約や施設管理権の話として別途整理してください。

参考(厚生労働省):ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(令和8年4月24日・PDF)(問4・問5・問18) / 職場におけるハラスメントの防止のために

まとめ

カスハラの線引きは、次の3点に集約できます。①国の定義では、3つの要素をすべて満たすものだけがカスハラであり、強い口調というだけでは当たらないこと。②許容範囲を超えたかは「要求の内容」と「伝え方」の2軸で見て、どちらか一方だけ超えても該当しうること。③一方で、自社側の対応が原因になっていないかという歯止めを必ず挟むこと。第三者が判定してくれない以上、この物差しを自社で共有しておくことが、現場が迷わず動ける前提になります。制度の解釈は改正されることがあるため、難しい事案は専門家への確認を前提にしてください。

最後に

「クレームは宝」という言葉は、今も正しいと思います。ただ、その言葉を盾に社員が理不尽な言動まで抱え込む職場になっていたら、それは経営が守るべき一線を現場に丸投げしている状態です。どこまでが向き合うべき声で、どこからが守るべき対象なのか。その物差しを言葉にして全員で共有することは、社員を守ると同時に、社長自身が「その都度の判断」から解放されることでもあります。

とはいえ、3要素や2軸を頭で理解しても、実際の運用に落とすには手間がかかります。就業規則や社内ルールへの反映、相談を受けたときの対応フロー、記録の残し方、そして「どう伝えるか」を管理職に浸透させる研修まで、線引きの基準は仕組みとセットで初めて機能します。あなたの会社では、判断基準が社長の頭の中だけにあり、現場に渡されないままになっていませんか。

判断基準を社内のルールとして書き残すところまでが、対策のひと区切りです。方針や対処の手順をどこにどう載せ、どう届け出るかは、就業規則の作り方で、記載が必要な項目と手順に分けてまとめています。

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私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、こうした労務の課題に、方針づくりから現場での運用まで隣に座って一緒に進める立場です。「人・お金・組織」を横断して見るからこそ、カスハラ対応を単発のルール整備で終わらせず、評価制度や職場環境の改善にまでつなげて、社員が疲弊しない体制づくりを支えます。きれいな規程を置いて帰るのではなく、現場が本当に回せる形になるまで伴走することを大切にしています。

まずは自社の線引きが今どうなっているかを一度点検してみることをおすすめします。判断に迷う事案の整理から、ルールづくり、専門家(社会保険労務士・弁護士)との連携まで、経営に関する無料相談で気軽にご相談ください。孤独に抱え込まず、ともに整えていきましょう。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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