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カスハラ対策の義務化とは?|2026年10月から全企業がやる10の措置

労務・法務

2026年10月1日。この日から、従業員を雇うすべての会社が対象になります

2026年(令和8年)10月1日。この日から、カスハラ(顧客からの著しい迷惑行為)防止のための措置が、従業員を雇うすべての事業主の義務になります。パワハラ防止法のときにあった「中小企業は数年後から」という猶予期間は、今回は設けられていません。従業員が3名でも300名でも、同じ日からです。

日付が法律で決まっている以上、「うちはまだ様子見でいい」という選択肢はありません。とはいえ、身構える必要もありません。やることの中身はすでに10項目に決まっていて、しかも「規模なりの形でよい」とされています。

従業員が十数名で、専任の相談窓口も法務担当もいない——そういう会社を前提にした答えが、厚生労働省の資料にきちんと書かれています。相談窓口を他のハラスメントと分けずに1つにまとめても構いませんし、上司が相談担当を兼ねても差し支えありません。従業員1名の店舗のような小規模な体制でも、規模に応じた進め方が想定されています。

施行日が決まっている以上、逆算で動けます。全体の流れはこうです。

2026年10月1日に間に合わせるための逆算
1
いま
何が自社にとってのカスハラかを3要素で線引きし、方針を決める
2
3〜2か月前
方針と対処の内容を全員に周知。顧客対応のない部署も対象
3
2〜1か月前
相談先と初動対応を決めて周知。窓口は兼任・共用でよい
4
施行まで
特に悪質な場合の対処方針を定める(カスハラ特有の項目)
5
2026年10月1日
措置義務の適用開始。以後は運用と見直しを回す

この記事は、カスハラ義務化の全体像を示す「地図」です。何が義務で、誰が対象で、会社は何をすればいいのか。細かい進め方は各テーマの記事に譲り、まずは「うちは何をどこから始めればいいか」の見取り図をつかんでください。

💡 この記事でわかること:

  • カスハラ対策は2026年10月から全事業主の義務(中小企業も猶予なし)であること
  • そもそも何が「カスハラ」に当たるのか(3つの要素)
  • 事業主が講じる「10の措置」を4つのグループで整理
  • 社長が進める「4段階」と、各論のスポーク記事への道案内

そもそもカスハラの義務化とは

カスハラの義務化とは、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)から従業員を守るために、会社が一定の措置を取ることを法律で義務づけるものです。根拠は、労働施策総合推進法などを改正する法律(令和7年法律第63号、2025年6月11日公布)で、具体的にやるべきことを定めた「防止指針」も告示されています。

大切なのは、これが「事業主に措置を義務づける」法律であって、会社にカスハラ客を排除する新しい権限を与えるものではないという点です。あくまで「従業員を守る体制を整える」義務であり、対応そのものは行政の指導などを通じて求められます。罰金がすぐ科される、という性質のものではありません。

なお、同じ改正で、就職活動中の学生などへのセクハラ(就活セクハラ)を防ぐ措置も、同じ2026年10月1日から義務になります。本記事の主題はカスハラですが、採用活動を行う会社は別途この対応も必要になる点だけ、頭の隅に置いておいてください。

何が「カスハラ」に当たるのか|3つの要素と会社がやること

カスハラかどうかは、次の3つの要素をすべて満たすかで判断します。①顧客等の言動であって、②業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③従業員の就業環境が害されるもの——この3つです。正当なクレームや要望まで拒む話ではなく、「社会常識を超えた」言動が対象だと押さえてください。

ここでいう「顧客等」は、いま取引のある相手だけではありません。これから商品を買ったりサービスを使ったりする可能性がある人も含みますし、電話やSNSなどインターネット上のやりとりも含まれます。窓口に来る人だけの話ではない、という点は見落としがちです。

では、会社は具体的に何をすればよいのか。指針は事業主が講じる措置を10項目に整理しています。細かく見ると多く感じますが、大きくは4つのグループにまとまります。

事業主が講じる「10の措置」を4グループで整理
方針を決めて伝える(①②)
カスハラには毅然と対応し従業員を守る方針を明確にし、対処の内容(一人で対応させない・警察へ通報・本部へ共有など)とあわせて全員に周知する
相談を受け止める体制(③④)
相談窓口をあらかじめ定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにする
起きたあとの対応(⑤⑥⑦)
事実関係を迅速・正確に確認し、被害を受けた従業員に配慮し、再発防止の措置を講じる
悪質例への備えと配慮(⑧⑨⑩)
特に悪質なカスハラへの対処方針をあらかじめ定める(カスハラ特有)。相談者のプライバシーを守り、相談を理由に不利益な扱いをしない

このうち「特に悪質なカスハラへの対処方針をあらかじめ定めておく」(⑧)は、パワハラやセクハラ対策にはないカスハラ特有の項目です。線を越えた相手にどう向き合うかを、その場の判断任せにせず、事前に会社として決めておく——ここが今回の対策の肝になります。

「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の例は、指針で内容と手段・態様の2面から示されています。現場に伝えるときは、この表をそのまま配ると早いです。

該当し得る言動の例
要求の内容 理由のない要求/商品・サービスと全く関係のない要求/契約等で想定するサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難または不可能な要求/不当な損害賠償要求
要求の手段・態様 身体的な攻撃/精神的な攻撃(脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言・土下座の強要)/威圧的な言動/継続的・執拗な言動/拘束的な言動(不退去・居座り・監禁)/無断での撮影

厚生労働省の解釈事項(令和8年4月24日)問4では、内容と手段・態様の一方のみが範囲を超える場合でも該当しうるとされています。同時に、事業主・労働者側の不適切な対応が原因や背景になっている場合もあることに留意するようにも書かれています。何でもカスハラ認定してよい、という話ではありません。

参考(厚生労働省):ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(令和8年4月24日・PDF)(問4) / 職場におけるハラスメントの防止のために

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進め方|社長が押さえる4ステップ

やることは決まっていて、規模なりの形で構いません。社長が押さえるべきは、次の4段階です。

STEP1:何が「カスハラ」かを自社で決める

まず、自社にとって何が「社会常識を超えた迷惑行為」なのかの線を、業種の実態に合わせて具体化します。対面の暴言、長時間の電話拘束、SNSでの中傷など、実際に起こりうる場面を洗い出しておくと、現場が迷いません。3つの要素(顧客等の言動・許容範囲を超える・就業環境が害される)を物差しにして、「これは正当な要望」「これはカスハラ」と社内で共有できる形にします。

STEP2:方針を決めて全員に伝える

「当社はカスハラに毅然と対応し、従業員を守る」という方針を明確にし、全従業員に周知します。ここで見落としやすいのが、顧客対応のない部署の社員にも周知が必要な点です。指針でいう「労働者」は、所属部署や雇用形態を問わず雇用するすべての人を指します。総務も製造も、パートも含めて全員に伝えます。

STEP3:相談先と初動対応を決める

相談窓口を決め、「誰に・どう相談すればいいか」を全員が分かる形にします。他のハラスメント窓口と分ける必要はなく、上司が相談担当を兼ねても構いません。 あわせて初動、たとえば「一人で対応させない」「悪質な言動は警察へ通報する」「本部へ共有して指示を仰ぐ」といった対処の内容も決めておきます。相談したことで不利益を受けない旨も、必ず伝えます。

STEP4:特に悪質な場合の「線」を決める

最後に、特に悪質なカスハラにどう対処するかの方針を、あらかじめ定めます。どこからを「特に悪質」と見なし、どう動くか。この線を事前に決めておくことが、現場の従業員を守る最後の砦になります。就業規則や社内ルールとの整合も出てくるため、規程への落とし込みは就業規則の作り方|中小企業が最低限そろえる項目と届出の手順もあわせてご覧ください。

✓ あわせて読みたい就業規則の作り方|中小企業が最低限そろえる項目と届出の手順就業規則は常時10人以上で作成・届出が義務。必ず書く絶対的記載事項とモデル就業規則(令和7年12月版)の記載例、作成〜意見聴取〜届出〜周知の…
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活用事例|カスハラ対策の進め方(ケース別)

「うちの規模でどこまでやるのか」は、業種や顧客との接し方で変わります。一般化した4つの想定で、進め方の温度感をつかんでください。

ケース1|従業員十数名の小売・サービス業(対面のクレームが日常的)

STEP1(線引き)とSTEP3(初動)を厚めにします。「一人で対応させない」「バックヤードで店長に代わる」といった動きを、シフトの中で回せる形に落とすのが現実的です。従業員1名で回す店舗についても、その場は毅然と対応しつつ本部へ共有して指示を仰ぐ進め方が想定されており、一人だから対策できない、ということにはなりません。

ケース2|従業員20名ほどの製造業(直接の消費者接点は薄い)

消費者接点が薄くても対象外にはなりません。取引先とのやりとりや、電話・SNSでの理不尽な要求は起こり得ます。STEP2(全員への周知)を軸に、営業や事務など外部と接する担当を中心に方針を共有します。あわせて、自社の従業員が取引先の社員にカスハラをしてしまい、相手先から事実確認への協力を求められたときは、これに応じるよう努める(努力義務)という点も、社内教育に含めておくと安心です。

ケース3|従業員8名ほどの建設・工事業(発注者が実質的な「顧客」)

「顧客等」には取引の相手方も含まれるため、元請や施主からの理不尽な要求も対象になり得ます。ただし、通常の仕様変更の要請や工程の相談まで身構える必要はありません。線引きの軸は「契約等で想定するサービスを著しく超える要求か」「手段や態様が度を越えていないか」の2つです。ここを現場に伝えておくと、判断が過剰にも過小にもぶれません。

ケース4|従業員30名ほどの医療・福祉(利用者とその家族が相手)

施設の利用者も「顧客等」に含まれます。難しいのは、障害や疾患による言動と、社会通念上許容される範囲を超えた言動の切り分けです。厚生労働省も、対策にあたっては消費者の権利や障害者差別解消法(不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務)に留意するよう求めています。線引きの基準を現場任せにせず、迷ったら誰に相談するかまで決めておいてください。

今から進める4段階チェックリスト
何が「カスハラ」かを自社で決めた(3要素で線引き)
方針を決めて全員に伝えた(顧客対応のない部署も含む)
相談先と初動対応を決めて周知した(窓口は兼任・共用でよい)
特に悪質な場合の対処方針をあらかじめ定めた(カスハラ特有)

まとめ

①カスハラ防止の措置は、2026年10月1日から、従業員を雇うすべての事業主の義務です。中小企業向けの猶予期間はなく、規模の大小を問いません。

②会社がやることは、方針の明確化・相談体制・事後対応・悪質例への備えと配慮という10の措置に整理できます。中でも「特に悪質なカスハラへの対処方針をあらかじめ定める」ことが、カスハラ特有のポイントです。

③やることは決まっていて、規模なりの形で構いません。社長が押さえるのは、線引き・周知・相談窓口・悪質時の対処という4段階。この見取り図を先に持っておけば、あわてずに準備を進められます。なお、制度の細部や規程の整備は改正が入ることもあるため、厚生労働省・都道府県労働局の公表資料を確認し、社内規程は社会保険労務士に相談しながら進めるのが安全です。

最後に

カスハラ対策は、一見すると「面倒なクレーマーへの対応マニュアルづくり」に見えます。けれど本質は、従業員が安心して働ける職場をどう守るかという話です。理不尽な言動に一人で耐えさせない仕組みがあるかどうかは、定着率にも、採用のときの「この会社は社員を守ってくれる」という印象にも、静かに効いてきます。ハラスメント対策全体をどう整えるかは、パワハラ防止法とは?|中小企業に義務化された措置と3要件とあわせて考えると、抜け漏れが見えてきます。

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とはいえ、専任の担当がいない会社で、方針づくりから相談窓口の設計、悪質時の線引き、就業規則への反映までを社長一人で回すのは、現実には重い作業です。日々の経営をしながら、指針を読み込み、規程に落とし、全員に周知して——となると、どうしても後回しになりがちです。

私たちは、こうした「人・労務まわりの整備」を、資料を置いて帰るのではなく、隣に座って一緒に手を動かす立場でお手伝いしています。何がカスハラに当たるかの整理、方針文書と相談フローの設計、就業規則への反映、そして現場が本当に回せる形への落とし込みまで、御社の規模とやり方に合わせて組み立てます。高価なシステムを無理に入れる必要はありません。今ある体制の中で、最小限そろえるべきものから整えていきます。

「何から手をつければいいか分からない」「うちの規模でどこまでやればいいのか知りたい」——その段階からで大丈夫です。2026年10月の施行までに、あわてず一つずつ準備を進めていきましょう。まずはお気軽に、無料相談でお聞かせください。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

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