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カスハラ対策の方針の作り方|就業規則と社内周知の進め方
目次
「何か文書を作らないといけないらしい」——でも、就業規則の全面改訂は必要ありません
カスハラ(顧客や取引先からの著しい迷惑行為)への対応が、企業に求められるようになりました。「うちも何か文書を用意しないといけないらしい」と耳にして、就業規則を一から作り直すのかと身構えている社長も多いのではないでしょうか。
先に結論をお伝えします。多くの中小企業では、就業規則を全面的に作り直す必要はありません。 作るべき文書はおおむね3つに絞られ、しかもその3つは1枚の紙にまとめても構いません。既存の就業規則に懲戒の規定があるなら、カスハラ専用の条文を新しく足さずに済む場合もあります。
つまり、この課題の入り口は「大量の規程づくり」ではなく、「何を、どこに、誰へ向けて書くか」を整理することにあります。あなたの会社で本当に必要な文書はどれなのか。ここを見極めれば、作業はぐっと軽くなります。
この記事では、作る文書を3つに絞り込み、社内へどう周知するかまで、中小企業が実際に回せる形で順を追って解説します。
💡 この記事でわかること:
- ●カスハラ対策で本当に作るべき文書は3つだけということ
- ●悪質な場合の対応は、別規程にせず同じ文書に併記できること
- ●就業規則にカスハラ専用の条文を必ず新設しなくてよい場合があること
- ●周知の相手は「雇用する労働者すべて」で、顧客対応のない部署も含むこと
そもそもカスハラ対策の「方針」とは
ここでいう「方針」とは、会社としてカスハラにどう向き合うかを言葉にした、社内向けの意思表明のことです。具体的には「カスハラには毅然と対応し、働く人を守る」という会社の姿勢を明確にし、それを社員に伝えることを指します。
大切なのは、これは「立派な規程集を作ること」ではないという点です。求められているのは、いざカスハラが起きたときに、現場の社員が「どう動けばよいか」「会社は自分を守ってくれるのか」を迷わずに判断できる状態をつくることです。分厚い文書があっても現場で使われなければ意味がなく、逆にA4 1枚でも社員に浸透していれば役割を果たします。
このあと見ていく「3つの文書」は、その姿勢を形にするための最小限のパーツだと考えてください。
作るべき文書は3つだけ
カスハラ対策として会社が用意すべき文書は、大きく次の3つです。この3つを押さえれば、まず土台はできます。
1. カスハラには毅然と対応し、労働者を保護するという「方針」(会社の基本姿勢を示すもの)2. カスハラの内容と、あらかじめ定めた「対処の内容」(どんな行為が対象で、起きたら誰がどう動くかを決めておくもの)3. 特に悪質と考えられるカスハラへの「対処の方針」(度を越えた事案にどう構えるかを示すもの)
3つの文書は、それぞれ書く場所も分量も違います。まとめると次のとおりです。
| 作るもの | 何を書くか | どこに書くか | 分量の目安 |
|---|---|---|---|
| ①方針 | カスハラには毅然と対応し、働く人を守るという会社の姿勢 | 独立した文書でも、②と同じ紙でもよい | 1〜2文 |
| ②対処の内容 | どんな行為が対象か。起きたら誰がどう動くか | A4 1枚で足りることが多い | 箇条書きで10行前後 |
| ③悪質な場合の方針 | 度を越えた事案への構え(退店を求める・警察へ通報など) | ②と同じ文書に併記でよい(別規程不要) | 数行 |
このうち3つめの「悪質な場合の方針」は、別の規程として独立させる必要はありません。2つめの「対処の内容」を社内に明確化して周知するときに、併せて定めて周知することができます(厚生労働省のQ&A問17)。「もう1つ規程を作らなければ」と思い込む必要はない、ということです。
「対処の内容」には、たとえば次のような対応例が指針で示されています。管理監督者(現場の責任者)にその場の対応方針を確認する/可能な限り社員を一人で対応させない/犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する/本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐ、といったものです。加えて、社員が十分に説明したうえでなお同じ要求が繰り返される場合には、一定の時間が過ぎた時点で退店を求めたり電話を切ったりする、という対応もQ&Aで例示されています。自社の現場で無理なく実行できる範囲で、これらを具体的に書き込んでいきます。
参考(厚生労働省):ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(令和8年4月24日・PDF)(問8・問9・問17・問19) / 職場におけるハラスメントの防止のために
進め方|4ステップ
文書づくりは、次の4ステップで進めると迷いません。いきなり完成形を目指さず、A4 1枚から始めるのが現実的です。
STEP1:会社の「方針」を1〜2文で言葉にする
まず「当社はカスハラに毅然と対応し、社員を守ります」という基本姿勢を、短くはっきり書き出します。ここは長文にする必要はありません。社員が読んで「会社は自分の側に立ってくれる」と感じられる一文があれば十分です。この1文が、あとに続く対処ルールの土台になります。
STEP2:「対処の内容」を現場目線で決める
どんな言動をカスハラとして扱うか、起きたときに誰へ相談し、どう動くかを決めます。前章の対応例(責任者に確認する/一人で対応させない/悪質なら警察・本部へ、など)を、自社の体制に合わせて具体化します。ここで、特に悪質な事案への構えも同じ文書に併記しておきます。
STEP3:既存の就業規則で足りるかを確認する
自社の社員が取引先などにカスハラを行った場合の処分は、多くの会社で既存の懲戒規定(服務規律違反や信用失墜行為への処分)でカバーできます。カスハラ専用の条文を必ず新設する必要はありません(Q&A問19)。ただし、自社の規定で本当に足りるかは実態次第なので、社会保険労務士(労務の専門家)に確認するのが安全です。
STEP4:全社員へ周知し、相談窓口を整える
作った文書を社員に周知します。あわせて「相談したことを理由に不利益な扱いはしない」旨と、相談者のプライバシーを守る措置も定めて伝えておくと、運用がぐっと楽になります。周知の相手は次章のとおり「雇用する労働者すべて」です。
周知は「配って終わり」にしないほうが定着します。作った文書が現場で使われる状態になっているか、次の順で確かめてください。
活用事例|方針づくりの進め方(ケース別)
考え方をつかみやすいよう、規模と業態の異なる4つの想定で見てみます。あくまで一般化した例で、自社への当てはめは専門家に確認してください。
「対処の内容」を厚めに書くのが向いています。責任者への確認ルート、一人で対応させない体制、悪質時に退店を求める・警察へ連絡する基準をA4 1枚に整理し、朝礼やチャットで全員に共有します。既存の就業規則に懲戒規定があれば、条文の新設は見送れることが多いでしょう。
顧客対応が少なくても、周知は全社員に必要です。取引先とのやり取りで理不尽な要求が起きる場面を想定し、「困ったら一人で抱えず責任者へ」という一文と相談窓口を明記します。顧客対応のない事務部門の社員にも同じ文書を配ることが、指針の求める周知にあたります。
その場に助けを呼べる人がいない前提で「対処の内容」を書く必要があります。訪問先で線を越えた言動があったとき、その場を離れてよいのか、誰にどう連絡するのか、後日どう対応するのか——この3つを先に決めておきます。現場で判断させると、断れずに一人で抱え込む結果になりがちです。
まず方針と対処の内容をA4 1枚で作り、就業規則の整備は別軸で進めるのが現実的です。方針の明確化と周知は就業規則がなくても始められます。順番を逆にして「まず就業規則から」と考えると、施行日までに何も形にならないまま時間が過ぎます。
周知の相手は、事業主が雇用する労働者のすべてです(Q&A問9)。所属部署や雇用形態を問わず、顧客対応が発生しない部署の社員も、パート・アルバイトも含みます。取引の相手方や施設の利用者なども「顧客等」に含まれるため、直接の接客がない部署でも対象になる、と理解しておくと安心です。
なお、方針を顧客等に向けて店頭やウェブサイトに掲示することは、被害の防止に効果的だと指針でも触れられています。ただしこれは「やってもよい打ち手」であって、義務ではありません(Q&A問8)。義務の周知(社内向け)と、任意の啓発(顧客向け)を混同しないよう気をつけてください。
まとめ
カスハラ対策の文書づくりは、身構えるほど大がかりではありません。押さえるべきは次の3点です。
① 作るべき文書は「方針」「対処の内容」「悪質時の方針」の3つで、1枚にまとめてよい。② 悪質時の対応は別規程にせず併記でき、就業規則も既存の懲戒規定で足りる場合がある。③ 周知の相手は雇用する労働者すべて。顧客対応のない部署やパート・アルバイトも含む。
まずはA4 1枚から始め、自社の規定で足りるかや文面の当てはめは社会保険労務士に確認する——この順番なら、無理なく整えられます。制度の詳しい全体像はカスハラ対策の義務化とは?|2026年10月から全企業がやる10の措置で、就業規則そのものの整え方は就業規則の作り方|中小企業が最低限そろえる項目と届出の手順で解説しています。
最後に
ここまで読んで、「作る文書は3つと分かったが、うちの就業規則で足りるのか」「対処の内容を、自社の現場でどう書けばいいのか」で手が止まっている社長も多いはずです。カスハラ対策でつまずくのは、多くの場合ルールの中身そのものより、「自社の実態にどう落とし込むか」の判断です。ひな型を丸写ししても、現場が動けなければ意味がありません。
私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、こうした場面で「文書を渡して終わり」にはしません。既存の就業規則や懲戒規定を一緒に確認し、専用条文の新設が要るのか、既存規定で足りるのかを見極めるところから伴走します。そのうえで、あなたの会社の現場が実際に回せる形——多くはA4 1枚から——で方針と対処の内容を組み立て、全社員への周知の段取りまで隣に座って整えます。
カスハラ対応は、労務だけの話にとどまりません。相談窓口の設計は評価や社内ルールとつながり、現場の負担は人の定着にも響きます。人・組織・労務を横断して全体を整えられるのが、領域ごとに専門家を個別に頼むのとは違う私たちの立ち位置です。もちろん、規程の最終的な文面や自社への当てはめには社会保険労務士の確認が欠かせません。その連携も含めて、迷わず進められるようお手伝いします。
「何から手をつければいいか」を整理するだけでも、負担はずいぶん軽くなります。就業規則の見直しやカスハラ方針づくりでお悩みなら、まずは気軽に無料相談からお声がけください。あなたの会社の実態に合わせて、最初の一歩を一緒に描きます。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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