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固定残業代とは?|「残業代込み」が違法になる3要件と正しい設計
目次
「残業代は基本給に含んでいる」——その一言が、後で未払いに変わる
「うちは残業代込みの給料だから」「みなし残業を入れているから、残業代は別で払っていない」——中小企業の経営者から、私たちはこの言葉をよく聞きます。ところが実際に給与の内訳を確認すると、固定残業代として有効になる条件を満たしていないケースが少なくありません。
固定残業代(みなし残業)は、正しく設計すれば毎月の残業代計算を簡素化できる便利な仕組みです。しかし条件を外すと、「固定分を払っていたつもり」がまるごと無効になり、過去にさかのぼって残業代を請求されるリスクがあります。金額が大きくなりやすく、退職者からの請求で表面化することも多い論点です。
この記事では、固定残業代が有効になる条件、中小企業がやりがちな落とし穴、そして正しく導入・運用する手順を、厚生労働省の情報をもとに整理します。まず押さえるべきは次の4点です。
💡 この記事でわかること:
- ●固定残業代は「一定時間分の残業代を先に固定額で払う」仕組み。残業代を払わなくてよい制度ではない
- ●有効になるには3要件(明確区分性・対価性・差額精算)をすべて満たす必要がある
- ●固定分を超えた残業には、別途“差額”を必ず支払う(超えても固定額のみ、は違法)
- ●求人票・雇用契約書・給与明細での「分けて明示」が必須。曖昧だと丸ごと無効になりうる
そもそも固定残業代(みなし残業)とは
固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の時間外労働を見込んで、その残業代を固定額で支払う仕組みです。「みなし残業」「定額残業代」とも呼ばれます。たとえば「固定残業手当3万円(20時間分)」のように、時間数と金額をセットで定めます。
メリットは、毎月の残業時間が固定分の範囲内であれば、計算と支払いがシンプルになること。従業員側も、残業が少ない月でも一定額が保証されます。一方で、「固定残業代を払っているから、それ以上は払わなくてよい」という誤解が、最大のトラブル源になります。
💡 大前提
固定残業代は「残業代の前払い」であって、残業代の支払いを免除する制度ではありません。固定分を超えて働かせれば、その超過分の残業代は当然に発生します。
固定残業代が有効になる「3つの要件」
裁判例や厚生労働省の考え方をふまえると、固定残業代が有効と認められるには、次の3つをすべて満たす必要があります。
| 要件 | 意味 | 満たさないと… |
|---|---|---|
| ① 明確区分性 | 通常の賃金(基本給)と固定残業代が、金額としてはっきり区別できる | 「基本給に含む」だけでは、いくらが残業代か判別不能=無効と判断されやすい |
| ② 対価性 | その手当が「時間外労働の対価」として支払われている | 職務手当・役職手当など別目的の手当を残業代の代わりにできない |
| ③ 差額精算 | 固定分を超えた残業には、別途その差額を支払う | 「何時間残業しても固定額のみ」は違法。超過分は未払い残業代になる |
特に見落とされがちなのが③の差額精算です。「固定20時間分」と定めていても、実際に25時間残業させたなら、超過した5時間分は別途支払わなければなりません。この運用が抜けていると、固定残業代そのものの有効性まで疑われることがあります。
⚠️ 注意
固定残業代の金額が、労働基準法37条にもとづく割増賃金(時間外は25%以上、月60時間超は50%以上)の計算額を下回ってはいけません。「固定3万円=20時間分」と書いていても、実際の時給換算で20時間分に足りていなければ、その差も未払いになります。
中小企業がやりがちな3つの落とし穴
① 基本給と一体で、いくらが残業代か分からない
「基本給25万円(残業代込み)」という書き方が典型です。これでは通常の労働の対価と残業の対価が区別できず、①明確区分性を満たしません。結果として、固定残業代の主張が認められず、支払った25万円を base に、あらためて残業代を計算し直される——という最悪のケースになりえます。
② 「何時間分」かを決めていない/書いていない
固定残業手当という名目はあるのに、それが何時間分なのかを就業規則にも雇用契約書にも書いていない、という会社は多いです。時間数が定まっていないと、差額精算の基準(何時間を超えたら追加払いか)も存在しないことになり、制度として機能しません。
時間数と金額は、労働条件通知書にも明示しておく必要があります。2024年4月の改正で何が明示事項に加わったかは、労働条件通知書とは?|2024年4月改正内容と正しい書き方でまとめています。
③ 固定分を超えても、追加を払っていない
最も多く、最も危険なのがこれです。「固定残業代を入れているから残業代は一律これだけ」と運用してしまう。固定20時間の会社で恒常的に40時間残業していれば、毎月20時間分が未払いとして積み上がります。退職時にまとめて請求されると、一人あたり数十万〜数百万円規模になることもあります。
固定残業代を正しく導入・運用する4ステップ
STEP1:固定する残業時間と金額を、実態から決める
まず、自社の平均的な残業時間を勤怠データから把握し、それに見合った時間数(例:月20時間)を設定します。実態より極端に多い時間数(例:月45時間)を設定すると、長時間労働を前提にした制度とみなされ、従業員の理解も得にくくなります。金額は、その時間数に対して労基法37条の割増額を満たすように計算します。
金額の妥当性は、固定手当額 ÷ 1時間あたりの割増賃金 = 何時間分かを逆算して確認します。ここで「実は15時間分にしかなっていなかった」というズレがよく見つかります。設定時にこの検算をしておくと、後の未払いリスクを大きく減らせます。
STEP2:就業規則・雇用契約書に「時間数と金額」を明記する
固定残業手当の名称、金額、それが何時間分の時間外労働に相当するか、そして固定時間を超えた場合は別途支払う旨を、就業規則と雇用契約書(労働条件通知書)の両方に明記します。口頭の説明や慣行だけでは足りません。求人票の段階でも、①固定残業代を除いた基本給、②固定残業手当の金額と対応時間数、③超過分は別途支給、の3点を明示することが求められています。
就業規則そのものに何を必ず書き、どこへ届け出るかは、就業規則の作り方で通してまとめています。固定残業代の条文だけを足しても、規則の土台が抜けていると運用で行き詰まります。
STEP3:給与明細で「基本給」と「固定残業代」を分けて表示する
毎月の給与明細で、基本給と固定残業代を別の項目に分けて記載します。明細上で金額が分かれていること自体が、①明確区分性を裏づける証拠になります。手当をまとめて「基本給」に押し込んでいると、いくら規程に書いていても実態が伴っていないと見られかねません。
STEP4:毎月、固定分を超えた残業がないかチェックし、差額を精算する
運用でいちばん大事なのがこのステップです。毎月の残業実績を集計し、固定した時間数(例:20時間)を超えた月は、超過分の残業代を追加で支払います。この差額精算の履歴が残っていることが、制度が適正に運用されている何よりの証拠になります。勤怠集計と給与計算をこの流れでルーティン化しておけば、「払っていたつもり」の穴を塞げます。
活用事例|自社の固定残業代、どこを確認するか(ケース別)
求人も契約書も「基本給25万円(みなし残業含む)」の一体表記。まず基本給と固定残業代を金額で分離し、何時間分かを明記した契約書へ巻き直します。あわせて、その金額が実際に何時間分になるかを検算し、不足があれば時間数か金額を調整。過去分のリスクが気になる場合は、社労士とあわせて対応範囲を確認します。
固定20時間に対し、実残業が月40時間前後で常態化している会社。この場合は制度の書き方以前に、超過分の差額精算を今すぐ始めることが最優先です。あわせて、そもそも固定時間の設定が実態に合っているか、業務量・人員配置の見直しが必要かを検討します。
新しく制度を入れるなら、実態の残業時間から無理のない時間数を設定し、就業規則・契約書・給与明細・差額精算までを最初からワンセットで設計します。“便利だから”と高めの時間数を置くより、実態に合った控えめな設定のほうが、運用も従業員の納得も安定します。
【参照】
厚生労働省「固定残業代を支払えば別途に残業代を払わなくてよいか」(スタートアップ労働条件)
厚生労働省「基本給に含めた割増賃金って何?」(確かめよう労働条件)
労働基準法(第37条 割増賃金ほか・e-Gov法令検索)
まとめ
固定残業代は「残業代の前払い」であって、残業代を払わなくてよくなる魔法ではありません。有効になるには、明確区分性・対価性・差額精算の3要件をすべて満たす必要があります。
とくに、①基本給と分けて金額を示す、②何時間分かを規程・契約書・明細に明記する、③固定分を超えたら差額を必ず払う——この3点が抜けると、払ってきたつもりの固定残業代がまるごと無効と判断され、過去にさかのぼって請求されるリスクがあります。
「うちの固定残業代は大丈夫だろうか」と少しでも不安があるなら、契約書・給与明細・勤怠の3点を突き合わせて確認するところから始めるのが安全です。
最後に
固定残業代は、設計を誤ると“便利な仕組み”が“未払いの温床”に変わります。逆に、時間数の設定から差額精算の運用までを整えれば、給与計算を簡素にしながらリスクも抑えられます。
私たちは、就業規則・雇用契約書・給与運用の整合を、実態の確認から設計・運用の定着までハンズオンで支援しています。「今のやり方が有効かどうか自信がない」という段階からで大丈夫です。まずはお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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