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補助金採択率を上げる大切なポイント|合否を分ける加点項目の整備

ものづくり補助金の採択率34.1%という現実——「計画書を書き直す」だけでは届かない

「次の公募に合わせて、まずは申請書を仕上げよう」

600万円から700万円規模の3D CADや自動化設備の導入を検討している製造業の経営者であれば、こう考えるのは自然なことです。しかし部品加工業を営むK社(従業員15名)の専務が直面していたのは、その前提そのものが揺らいでいるという現実でした。

ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)の第21次公募には1,872社が申請し、採択されたのは638社。採択率は34.1%でした。
採択率が年々低下しているのは、応募数が増えたからだけではありません。
審査の「軸」が変わってきているからです。

計画書の内容がいかに精緻であっても、それだけでは届かない時代になっています。
では何が採否を分けているのか。その答えは、多くの経営者が後回しにしている「社内体制の整備」にあります。

💡 この記事でわかること:

  • ものづくり補助金の採択率が低下している本当の理由
  • 採択を左右する「加点項目」の仕組みと、社内体制整備との直接的な関係
  • 申請書を書き始める前に着手すべき3つのステップ

採択の合否を分けているのは、計画書の文章力ではなかった

補助金の申請書といえば、事業の革新性・具体性・収益性をいかに説得力を持って書くか——そういう文章力の勝負だと思われがちです。しかし現在のものづくり補助金では、それだけでは不十分です。

審査において、加点項目の取得状況が採否を大きく左右するようになっています。加点項目とは、申請企業が「国の推進する取り組みを実施しているか」を評価するもので、該当する認証や制度への適合が確認できれば、審査の過程でプラスの評価が加わります。国が推進する方式にのっとった取り組みをしている会社に「下駄を履かせる」——そのように表現されるほど、加点の影響は無視できないレベルになっています。

K社の専務がこの仕組みを聞いたとき、「今後やらなあかん。ちょっと挑戦してもいいか」とすぐに前を向きました。
経営の実態を正確に把握した上で、やるべきことを整理しようとする姿勢が、最初からある方です。

6つの加点を積んだ会社が「七〜八割通っている」という事実

加点項目は複数存在し、それぞれの取得状況によって審査上の評価が変わります。補助金申請支援の実務で共有されている目安として、加点を6つ積んでいる会社はおおむね七〜八割の確率で採択されています。
一方、加点がゼロあるいは1〜2項目しかない会社は、どれほど精緻な計画書を書いても厳しい状況に置かれるのが実情です。この差こそが、採択率34.1%という数字の中に確実に反映されています。
「良い計画書を書いたのに落ちた」という経験をしている経営者は、加点の差が影響していた可能性があります。

加点項目の本質——「外部対応」ではなく「内部体制の整備」

ここが多くの経営者に見落とされがちな点です。

加点項目として評価される認証・制度の多くは、外部の専門家に書類を依頼すれば取れるものではありません。
自社の情報管理や働き方の実態が、一定の基準を満たしているかどうかが問われます。つまり、加点を取るためには社内のルールや体制を実際に変える必要があります。書類の体裁を整えるのではなく、現場の実態から変えていく作業です。

補助金の採択率を上げるためのアプローチが、実は社内の情報管理体制や労働環境の改善と直結している。
遠回りに見えますが、これが現在の補助金審査の構造です。

ものづくり補助金の採択率を上げる3ステップ——申請書より先に整える「内部準備」

K社の専務が最初に望んでいたのは「次の公募に向けた申請書の作成」でした。
しかし、いきなり文章を書き始める前に、足場を固める準備フェーズを先行させることにしました。以下の3ステップが、その骨格です。

STEP1:TICS(技術情報管理認証制度)の取得に向けた体制整備

TICS(技術情報管理認証制度)は、経済産業省が所管する産業競争力強化法(国が産業の競争力強化を目的に定めた法律)に基づく認証制度です。企業の情報セキュリティ対策を、国の認定を受けた認証機関が国の策定した基準に基づいて審査・認証します。

一般的な情報セキュリティ認証と大きく異なる特徴があります。
電子データにとどまらず、金型・試作品・製造装置・製造プロセス情報・製造設計図・CAD・業務マニュアルなど、ものづくりの現場で扱う技術情報のほぼ全体が管理対象となっています。K社のような部品加工業にとって、自社の強みそのものである製造ノウハウを守る仕組みを整えることが、そのまま審査上の加点に繋がります。

TICSを取得すると、ものづくり補助金をはじめとする複数の補助事業で審査上の加点の対象となります。加えて、日本政策金融公庫のIT活用促進資金(ITの活用や業務改善のための設備資金・長期運転資金を対象とする政府系融資制度)においては、TICS取得事業者の設備資金について特別利率①(基準利率より有利な利率)が適用される点も見逃せません。

取得にかかる期間は早ければ1〜2ヶ月、費用は数十万円程度が目安です。ただし、認証機関や審査対象の範囲によって費用・期間は大きく変動するため、複数の認証機関に見積もりを取った上で判断することをお勧めします。
何から手をつければよいか迷う場合は、経済産業省が公開している自己チェックリストを使って、現在の自社の情報管理レベルを把握するところから始めるのが現実的でしょう。

K社では、TICS取得に向けた認証機関との接点を作ることを初動の目標として設定し、その接点づくりから実務的に関わっています。
「まず何をすべきか」という段階から動くのが、タレントパートナーとしての基本的なスタンスです。

STEP2:健康経営の体制整備——労務改善が補助金審査の加点に直結

健康経営の取り組みもまた、ものづくり補助金の加点項目の一つです。健康経営に関する計画・体制の整備が、審査上の評価対象となります。

「健康経営」と聞くと、大企業向けの話のように思えるかもしれません。
しかし実態は、有給休暇の取得率改善、残業時間の見直し、社員が相談しやすい窓口の設置といった、規模の小さな会社でも着手できる内容が中心です。

K社のケースでは、有給や育休が「制度としては存在するが、実際には取りにくい」という状況が残っていました。これを改善することは、社員の定着という人材面での効果と同時に、補助金審査での加点という財務面での効果も生みます。
労務の整備が補助金採択に繋がるという構造は、「人・金・組織」を別々に考えずに横断的に設計することで初めて見えてきます。

K社では、就業規則の現状確認から始め、有給休暇の取得実態の把握と目標水準の設定を一緒に整理しました。社員へのヒアリングや現場の状況確認も含め、制度の形だけでなく、実際に機能する運用に落とし込む作業を並走して進めています。

就業規則の見直しや労務管理の基準整備は、単独では「いつかやること」として後回しになりがちです。
しかし補助金採択という具体的なゴールと紐づけることで、「今期中にやること」として優先順位が明確になります。労務改善を財務戦略の一部として位置づけることが、この局面では有効です。

💡 ポイント:

労務の整備は社員定着の改善と補助金加点の双方に効きます。
「どうせいつかやること」を補助金の申請スケジュールと連動させて前倒しすることで、組織と財務の両面に効果をもたらします。

STEP3:認証・体制を根拠として申請書に組み込む——内部準備が計画書の質を上げる最終工程

STEP1・STEP2で整えた体制は、申請書の「加点欄」を埋めるためだけに使うのではありません。
事業計画書の本文においても、「自社がどのような体制で事業に取り組んでいるか」という裏付けとして機能します。

たとえばTICS認証の取得は、「自社の製造ノウハウや顧客情報を適切に管理しており、補助設備を導入した後も技術情報が外部に流出するリスクへの対策が整っている」という説得力を計画書に与えます。3D CADのデータや加工ノウハウが詰まった製造プロセス情報を守る体制が整っているからこそ、高額な設備投資が事業の継続的な競争力に繋がるという文脈が成立するのです。

健康経営の取り組みは、「人材確保・定着の見通し」という側面で計画書を補強します。
補助設備を導入しても、それを使いこなす人材が定着しなければ投資効果は生まれません。有給取得率の改善や働きやすい環境づくりを進めているという事実は、「設備投資の効果が持続的に発揮される組織体制が整っている」という根拠になります。製造業の補助金審査では、設備そのものの革新性だけでなく、それを活かす人的・組織的な基盤への言及が計画書の説得力を左右することは少なくありません。

技術情報の管理体制が整い、社員が働き続けやすい環境を維持している会社が、新しい設備で生産性を高めようとしている——。その文脈の一貫性こそが、審査員に伝わる計画書の土台になります。
「根拠のある申請書」と「根拠のない申請書」の差は、まさにここに生まれます。

計画書の「文章力」の前に、「根拠となる実態」を作ること。それがSTEP1・STEP2を先行させる理由に尽きます。

まとめ

ものづくり補助金の採択率を上げることを目標に置くとき、最初に着手すべきなのは申請書の作成ではなく、社内体制の整備です。

  • TICS(技術情報管理認証制度)の認証取得を目指し、自社の技術情報を守る管理体制を整える
  • 健康経営の体制整備を通じて、有給取得率の改善や労務管理の基準を実態として作る
  • 上記の体制を根拠として、一貫性のある申請書の構成を組み立てる

第21次公募での採択率は34.1%(申請1,872社・採択638社)でした。加点を6項目積んだ企業の採択率がおおむね七〜八割に達するという実態を踏まえると、「内部体制の整備→加点取得→申請書作成」という順番で動くことが、採択に向けた最も現実的なアプローチと言えます。

また、TICS取得に向けた情報管理の体制整備と、健康経営に向けた労務の改善は、補助金採択だけを目的にしたものではありません。
自社の製造ノウハウを守る仕組みを作ること、社員が働き続けやすい環境を整えることは、下請けからの脱却や事業の継続性という、より大きな経営課題にも直結します。補助金という切り口から始めた整備が、情報管理体制と働く環境の両方を実態として底上げする——そのような経営の基盤を積み上げる機会になります。

最後に

「まず申請書から」という判断を否定したいわけではありません。
ただ、今のものづくり補助金の審査構造を正確に理解した上で動くと、その順番が逆になることが多いのも事実です。

K社の専務が「ちょっと挑戦してもいいか」と言ったのは、新しい設備への投資に対してではなく、会社の体制を整えることへの覚悟でした。
その覚悟こそが、採択率を上げるための本当のスタートラインです。補助金活用を見据えた設備投資の計画、あるいは社内体制の整備についてお悩みの方は、まず現状の棚卸しからご相談ください。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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