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シフトを20時間未満に抑えるべきか|人手とコストのどちらを取るか
目次
同じ「週19時間」でも、素直に成り立つ会社と、隠れた負担を生む会社があります
同じ「シフトを週19時間に抑える」という判断でも、それで本当に得をする会社と、削った時間の分だけ別のコストが膨らむ会社があります。分かれ目は「その19時間で現場が回るか」と「本人がそれを望んでいるか」の2つです。この2つが揃っていれば、抑える判断は素直に成り立ちます。どちらかが欠けていると、保険料を払わずに済んだ代わりに、増員・残業・社長自身の稼働という形で負担が静かに戻ってきます。
「パートさんの社会保険料まで負担するのはきつい。それなら週19時間までに抑えればいい」——加入の判定ラインが「週の所定労働時間20時間以上」だと知って、そう考える社長は少なくありません。理屈は分かります。ただ、削った仕事は誰かが埋めなければならない、という当たり前が抜けやすいのです。
ですから、「保険料を避けるためにシフトを抑える」判断は、保険料の増加額と、人手を確保できないことによる損失を並べて比べてから決めてください。抑えるほうが合理的な場面もあれば、加入させて時間を伸ばすほうが得な場面もあります。そして順番として、会社が一方的にシフトを決める前に、まず本人の希望を確認することが欠かせません。
💡 この記事でわかること:
- ●社会保険の加入判定は「週20時間以上」で行われ、契約書だけ19時間にしても実態で判断されること
- ●シフトを抑えることで生まれる、見えにくい4つのコスト
- ●「保険料の増加額」対「人手の損失」を数字で並べる判断の型
- ●本人の希望を先に確認し、現場の人手と掛け合わせて打ち手を分ける方法
そもそも「20時間未満に抑える」とは
社会保険(厚生年金・健康保険)にパート・アルバイトを加入させるかどうかは、いくつかの要件で判定されます。その中心にあるのが「週の所定労働時間が20時間以上かどうか」という労働時間の基準です。「20時間未満に抑える」とは、この基準の手前、つまり週19時間程度までにシフトを設計し、加入対象から外そうとする考え方を指します。
なお、加入要件のうち賃金に関する部分(いわゆる月額の賃金要件)は2026年10月に撤廃される予定ですが、労働時間の要件そのものは維持されます。つまり「週20時間以上」という線は今後も判断の軸として残ります。ここは変わらない前提として押さえておいてください。
ただし、これは「保険料を払わないためのテクニック」ではありません。あくまで働き方の設計の一つであり、後述のとおり実態が伴わなければ意味をなさない点に注意が必要です。制度の詳細は改正されることがあるため、実際の判断の前には必ず公式情報または社会保険労務士へ確認してください。
契約書だけ19時間にしても意味がない|実態で判断される
まず押さえるべき最も大事な点は、所定労働時間は「契約上の時間」で判定されるものの、契約と実態が食い違えば実態で判断されうるということです。契約書に「週19時間」と書いておけば安心、という話ではありません。
たとえば契約は19時間なのに、繁忙で毎週のように21時間、22時間と働く状態が数か月続いていれば、それは「実質的に週20時間以上の働き方」と見なされる可能性があります。書面の数字と現場の実態が離れているほど、後になって「本来は加入対象だった」と指摘されるリスクが高まります。ここは断定できる領域ではありませんが、契約と実態は一致させておくのが原則だと考えてください。
つまり「19時間で契約して、あとは臨機応変に」という運用は、いちばん危ういやり方です。19時間に抑えると決めたなら、現場も本当に19時間で回る設計にする。回らないなら、抑えるという判断そのものを見直す。書面のつじつま合わせではなく、働き方の実態から考える必要があります。
参考(厚生労働省):社会保険適用拡大特設サイト|社会保険加入の要件 / 「年収の壁」への対応
進め方|4ステップ
「抑えるか、加入させるか」は感覚ではなく、順番を追って判断します。実際に手を動かす流れで整理します。
STEP1:本人の希望を先に確認する
会社がシフトを決める前に、まず本人がどう働きたいかを聞きます。「扶養の範囲内に収めたい人」と「もっと働いて収入を増やしたい人」とでは、最適なシフトが正反対になるからです。全員を一律に19時間へ寄せると、増やしたい人の不満と離職を招きます。一人ひとりの希望を、加入を望むか望まないかで仕分けするところから始めます。
STEP2:現場に必要な人手を数字で出す
次に、その業務が週あたり何時間分の労働を必要としているかを洗い出します。「なんとなく足りない」ではなく、必要総時間から逆算します。ここが曖昧なままだと、抑えた結果どれだけ穴が空くのかが見えず、判断ができません。
STEP3:保険料の増加額と人手の損失を並べる
加入させた場合に増える会社負担の保険料と、抑えた場合に発生する損失(残業代・増員にかかる採用と教育のコスト・人手不足による機会損失)を、同じ土俵に並べます。どちらの金額が大きいかで判断します。抑えたほうが安く済むこともあれば、逆に人手の損失のほうが大きいこともあります。
並べるときは、次の項目を年額でそろえてください。月額だと差が小さく見えて、判断を誤ります。
| 比べる項目 | 加入させて時間を伸ばす場合 | 19時間未満に抑える場合 |
|---|---|---|
| 保険料の会社負担 | 対象人数分だけ増える | 増えない |
| 不足時間を埋めるコスト | 発生しない | 他スタッフの残業代、増員の人件費 |
| 採用・教育の手間 | 増えにくい | 増員するたびに発生する |
| 社長・既存社員の稼働 | 変わらない | 穴埋めに回る分だけ増える(金額に置き換えて数える) |
| 本人の定着 | 収入が伸び、定着しやすい | 収入が頭打ちで、離職や掛け持ちの動機になりやすい |
社長自身の稼働を金額に置き換えて数えることが、この比較の勘所です。ここが帳簿に出てこないため、「抑えたほうが得」に見えてしまいます。
STEP4:決めた方針を合意と手順を踏んで運用する
方針が決まったら、契約と実態を一致させて運用します。とくにすでに働いている人のシフトを一方的に減らす場合は、労働条件の変更に当たりうるため、本人の合意と正しい手順が必要です。ここは自己判断せず社会保険労務士へ確認してください。就業規則との整合についてはパート・アルバイトの採用と定着|シフトと戦力化の設計もあわせてご覧ください。
運用に落とすときは、次の5つを順に潰していきます。とくに上の2つを飛ばすと、あとで揉めます。
活用事例|シフト判断の進め方(ケース別)
考え方を、一般化した想定で見てみます。特定の企業の話ではなく、「こういう条件ならこう考える」という型として読んでください。
年間を通せば19時間で足りるのに、数か月だけ時間が伸びるタイプです。繁忙期を短期の応援や別枠でまかない、通常期は無理に時間を伸ばさない設計が合理的なことがあります。本人も扶養内を望んでいるなら、抑える判断が素直に成り立ちます。ただし繁忙期に実態が20時間を超え続けると、契約と実態がずれる点には注意してください。
この人の時間を19時間で頭打ちにすると、不足分を他のスタッフの残業や増員で埋めることになり、教育とシフト調整の手間が増えます。本人も「もっと働きたい」と望んでいるなら、加入させて時間を伸ばし、戦力として育てるほうが、トータルでは安くつくことが多いのです。
最も判断が難しい組み合わせです。本人の希望を尊重して19時間に抑えるなら、その穴を増員で分散するか、業務そのものを切り出して減らすかを同時に決めてください。「本人の希望を通したが穴は埋めていない」という状態が、いちばん現場が疲弊します。工数が増えることを織り込んだうえで選ぶ判断です。
削った時間を社長自身の稼働で埋めている会社は、コストが帳簿に出てこないため「抑えたほうが得」に見えます。社長の1時間を仮に人件費に置き換えて並べると、判断が逆に振れることは珍しくありません。比べるときは、社長の稼働も必ず金額に置き換えてください。
まとめ
①社会保険の加入判定は「週20時間以上」の労働時間で行われ、契約書だけ19時間にしても実態で判断されうる。抑えると決めたなら、現場も本当にその時間で回る設計にすること。
②「保険料を避ける」ことを目的にせず、保険料の増加額と、人手を確保できない損失(残業代・採用・教育・機会損失)を並べて、金額の大きいほうで判断すること。抑えるのが正解のケースも、加入させて伸ばすのが正解のケースもある。
③会社が一方的に決める前に、本人の希望を先に確認する。すでに働いている人のシフトを減らす場合は合意と手順が要るため、社会保険労務士へ確認すること。
最後に
社会保険の企業規模要件は段階的に広がってきました。今は「うちはまだ対象外」だとしても、いずれ順番は回ってきます。だとすれば、シフトを削って先送りにするより、「人手・コスト・本人の希望」を並べて自社にとって一番いい形を今のうちに設計しておくほうが、結局は強い。抑えるという選択も、それが数字と本人の希望に照らして合理的なら、立派な経営判断です。問題は、保険料だけを見て反射的に時間を削り、気づかないうちに別のコストを増やしてしまうことです。
とはいえ、これを社長一人で、本業のかたわら詰めていくのは簡単ではありません。必要総時間の洗い出し、保険料と人手損失の試算、本人へのヒアリングと合意形成、契約と就業規則の整合——一つひとつは地味でも、つながると重い作業です。
私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、こうした判断を資料に落として一緒に決めるところから、本人との面談や書面の整備まで、隣で手を動かす立場でお手伝いします。労務は社労士、お金は税理士、と分かれてしまいがちな論点を、人・お金・組織を横断して一つの判断に束ねるのが役割です。制度の細かい適用や不利益変更の手順など、専門家の確認が要る部分は必ず押さえながら進めます。適用拡大そのものの全体像は社会保険の適用拡大とは?|今後どう変わるかと自社への影響で整理しています。
「うちの場合、抑えるべきか加入させるべきか」を具体的な数字で見てみたい方は、無料相談で一度ご相談ください。自社の状況に沿って、判断の材料を一緒に並べるところから始めます。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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