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パートの社会保険加入でコストはいくら増える?|試算の手順
目次
18.3%。この数字の半分が、パート一人ひとりに会社が負担する厚生年金です
18.3%。厚生年金の保険料率です。平成29年9月を最後に引上げが終わり、この率で固定されています。労使折半なので、会社が持つのはこの半分。ここに健康保険(都道府県・年度で変わります)と、40歳以上なら介護保険が乗ります。
つまり会社負担は「標準報酬月額 × 会社負担分の料率 × 人数」という掛け算でしかありません。料率そのものは毎年確認が要りますが、構造は変わらないので、対象者さえ確定すれば自社で年額の輪郭までつかめます。「いくら増えるか読めない」まま判断が止まっている会社の多くは、この掛け算の3つのうちどれかが未確定なだけです。
適用拡大で自社のパートのうち何人が対象になりそうかは、すでに見えてきた——という段階の会社が多いはずです。止まるのはその次で、「では年間いくら増えるのか」がはっきりしないと、賃上げの原資も、設備投資のタイミングも、採用計画も決められません。
以下では、対象者の洗い出しから年額・月額まで、自社で計算するための5ステップと、見落としやすい負担を整理します。
💡 この記事でわかること:
- ●会社負担がどんな要素で決まるのか、計算の「構造」
- ●自社で試算する5つのステップ
- ●給与計算に出てこない「見落としやすい4つの負担」
- ●増えた負担を「単なるコスト」で終わらせない考え方
そもそもパートの社会保険コストとは
パートの社会保険コストとは、パート従業員が健康保険・厚生年金保険などに加入したときに、会社が負担する保険料と付随コストの合計を指します。ここで大事なのは、保険料が本人と会社の「労使折半(労働者と事業主で半分ずつ負担すること)」である点です。増えるのは会社が持つ半分だけ、ではありません。
会社負担は、保険料の折半分に加えて、事業主だけが払う拠出金や、手続き・給与計算の手間まで含めた「トータルの人件費増」で捉える必要があります。単に「保険料の半分」とだけ考えると、実際の負担を小さく見積もってしまいます。
一方で、これは「払って終わり」のコストではありません。本人の年金や保障が手厚くなり、求人票では加入が訴求材料になります。負担の性質を正しく理解することが、試算の出発点です。
会社負担はどう決まるか|3つの掛け算で決まる
会社負担の保険料は、複雑に見えても、突き詰めると「標準報酬月額 × 会社負担分の料率 × 人数」という掛け算の組み合わせです。ここを分解できれば、自社でも輪郭がつかめます。
(1)標準報酬月額は、月々の給与をもとに区分された金額です。実際の給与そのものではなく、決められた等級にあてはめた「目安の月額」で保険料を計算します。まずは対象パート一人ひとりについて、この目安を出します。
(2)会社負担分の料率は、健康保険・厚生年金・介護保険(40歳以上65歳未満が対象)の3つに分かれます。ここが最も注意すべき点です。保険料率は、都道府県・年度・健康保険の種別(協会けんぽか健康保険組合か)によって変わり、毎年見直されます。 特定の%を暗記して当てるのは危険です。協会けんぽに加入している会社なら「都道府県別の保険料率表」、厚生年金は所定の保険料率で、必ず最新の数字を確認してください。
(3)人数は、STEP1で洗い出した対象者数です。
3つの保険を、変わるもの・変わらないもので整理すると次のようになります。
| 保険 | 会社負担分の料率 | 変わるか | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 厚生年金 | 18.3%の半分 | 変わらない(平成29年9月以降18.3%で固定) | 日本年金機構「厚生年金保険料額表」 |
| 健康保険 | 都道府県ごとの率の半分 | 毎年変わる(都道府県・健保組合ごとに違う) | 協会けんぽ「保険料額表」または加入する健保組合 |
| 介護保険 | 全国一律の率の半分 | 毎年変わる(40歳以上65歳未満のみ対象) | 協会けんぽ「保険料額表」 |
実務では「会社負担はおおむね給与の15%前後」という感覚値がよく使われます。ざっくりした規模感をつかむには便利ですが、健康保険と介護保険の率は変動するため、正式な試算では必ず最新の料率表で当て直す——この前提を崩さないことが、後の判断のブレを防ぎます。
参考(日本年金機構):厚生年金保険料額表(保険料率18.3%固定の根拠)
進め方|試算の5ステップ
金額を断定する前に、まずは「どの順番で手を動かすか」をそろえます。以下の順で進めれば、社内の給与データだけでおおよその輪郭がつかめます。
STEP1:加入見込みのパートを一覧に洗い出す
まず、加入対象になりそうなパート全員を名簿にします。労働時間・月給・年齢(介護保険の該当有無に効きます)を横に並べておくと、以降の計算がそのまま進みます。「対象かどうか微妙」な人も、いったんグレーとして載せておきます。判断が変わったときに後戻りしないためです。
STEP2:一人ずつ標準報酬月額の目安を出す
名簿の一人ひとりについて、月々の給与から標準報酬月額の目安を当てます。残業や通勤手当など、月給に含める範囲は決まりがあるため、実務ではここで漏れが出やすい部分です。まずは概算でよいので、全員分の「目安の月額」をそろえます。
STEP3:会社負担分の料率を、最新の料率表で当てる
健康保険・厚生年金・介護保険それぞれの会社負担分を当てます。前述のとおり料率は都道府県・年度・種別で変わるため、必ず最新の料率表を参照してください。介護保険は年齢で該当が変わる点にも注意します。
STEP4:人数分を合計し、年額と月額の両方で見る
一人分が出たら人数分を合計します。このとき、月額だけでなく年額でも見ることが大切です。月額だと小さく感じても、年額にすると賃上げや設備投資の判断に効く規模になることがあります。
STEP5:賞与分を織り込む
最後に、賞与を出している会社は賞与分も上乗せして見ます。賞与にも保険料がかかるため、月給ベースの試算だけだと負担を小さく見積もってしまいます。年間の賞与見込みに会社負担分の料率を当て、STEP4の年額に足し込んでおくと、賃上げや投資と同じ土俵で比べられる「本当の年間負担」に近づきます。
見落としやすい4つの負担
STEP1〜5で出るのは「保険料の会社負担分」が中心です。実際には、給与計算の表に出てこない負担が別にあります。ここを見落とすと、試算が甘くなります。
特に見落とされやすいのが、事業主だけが負担する子ども・子育て拠出金と、加入によって本人の手取りが減ることへの対応です。手取りが下がる分、「その手当をどうするか」「賃上げでどう調整するか」という話は必ず持ち上がります。ここを試算に織り込んでおくと、後の労使のやり取りが穏やかになります。
なお、標準報酬月額の設計そのもので負担の出方は変わります。設計面の工夫は社会保険料を下げる方法|標準報酬・賞与・選択制DCの設計で詳しく解説しています。この4つは、どれが自社に重く効くかが会社によって違います。ここを見極めると、試算の精度が一段上がります。
参考(厚生労働省):「年収の壁」への対応 / 社会保険適用拡大特設サイト
活用事例|業種別に見る試算の進め方(ケース別)
数字を断定はできませんが、進め方は業種や人員構成で具体的にイメージできます。ここでは一般化した4つの想定で、試算がどう進むかを描きます。
まず4名を名簿にし、一人ずつ月給から標準報酬月額の目安を出します。会社負担の料率を最新の表で当て、4名分を合計。「月額でいくら、年額でいくら」を出したうえで、賞与を出している会社なら賞与分も上乗せします。4名規模でも年額にすると設備投資の判断に効くまとまった金額になることが多く、「増える負担」と「賃上げ・投資」を同じ土俵で比べられるようになります。
人数が増えると、料率の当て違いや標準報酬月額のズレが、そのまま10名分に膨らみます。この規模では、まず全員を一覧化して「確実に対象」「グレー」を分け、確実な層から試算を固めるのが現実的です。手続きと給与計算の事務工数も10名分となると無視できません。誰が・いつ手を動かすかまで含めて見積もります。
金額よりも先に効いてくるのが事務工数です。加入手続き、毎月の計算、年次の見直しを社長が抱えると、本業の時間がそのまま削られます。この規模では「保険料がいくら増えるか」と同じ重さで「誰がこの事務をやるのか」を決めてください。外注に出す前提で、その費用も試算に入れておくと判断がぶれません。
試算そのものより、本人の手取り減への対応が重くなるタイプです。加入で手取りが下がる層が厚いと、手当や賃上げの相談が同時多発します。人数と金額を出したら、そのまま「本人にいくら戻すか」の原資まで並べて見てください。ここを織り込まない試算は、あとで必ず上振れします。
どのケースにも共通する落とし穴は、「保険料の会社負担分だけ」で判断してしまうことです。前章の4つの負担を必ずセットで見てください。
まとめ
パート社会保険のコスト試算は、次の3点で整理できます。
① 正確な料率を追う前に「型」を持つ。 会社負担は「標準報酬月額 × 料率 × 人数」の掛け算。まず5ステップで輪郭をつかむ。
② 料率は断定せず、最新の料率表で当てる。 都道府県・年度・健保の種別で変わり、毎年見直される。「15%前後」は感覚値にとどめる。
③ 保険料の半分だけで判断しない。 子ども・子育て拠出金、事務工数、本人の手取り減への対応まで含めてこそ、賃上げや投資と正しく比べられます。
なお、そもそも誰が対象になるかを整理したい場合は社会保険の適用拡大とは?|今後どう変わるかと自社への影響を先に読むと、この試算がスムーズに進みます。
最後に
ここまで試算の型をお伝えしてきましたが、実際に手を動かすと「標準報酬月額の当て方が合っているか」「この人はグレーのままでいいのか」と、細かい判断で止まる場面が必ず出てきます。そして、増えた負担をどう受け止めるかは、労務の話であると同時に、財務と採用の話でもあります。
私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)がこの課題に向き合うとき、大切にしているのは、労務の変化を財務の数字に翻訳し、採用戦略まで繋げることです。パートの社会保険加入は、放っておけば「増えたコスト」で終わります。けれど、加入は求人票では確かな訴求になり、本人にとっては年金や傷病手当金といった保障が手厚くなる。この一手を、定着と採用力に変える設計まで一緒に考えます。増える負担をどう賃上げの原資と両立させるか、資金繰りにどう織り込むかまで、隣に座って数字を組み立てていきます。
たとえば、賃金の引き上げや設備投資には業務改善助成金など、使える制度があることもあります。ただし金額や要件、助成率は制度や年度で変わるため、ここでは踏み込みません。自社に合うかどうかは、別途しっかり確認したうえで判断する必要があります。
また、2026年10月からは「保険料調整制度」が始まります。従業員50人以下の会社が労使の合意で任意特定適用事業所になった場合に、対象となる従業員の保険料の負担割合を変え、本人の手取り減をやわらげられる仕組みです。会社が一時的に多く負担しますが、その分はあとで支払う保険料から控除されるため、最終的に会社が納める保険料は増えません。ただし対象となる会社の規模や従業員の賃金水準に条件があり、適用拡大で加入した従業員すべてに自動的に及ぶわけではありません。自社が該当するかどうかは、公式情報や専門家への確認が必要です。こうした新しい仕組みも、使えるものは使いながら、無理のない形に整えていきます。
なお、本記事は一般的な考え方を整理したものです。保険料率や制度の要件は改正されることがあり、労務・税務の最終判断には専門家の確認が必要です。申請や手続きの前には、必ず公式情報または専門家にご確認ください。「うちの場合はいくらで、どう進めればいいのか」を具体的に整理したい方は、無料相談で一緒に試算するところから始めましょう。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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