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問題社員の退職勧奨|記録と面談で進める実務3ステップ

「この社員、何とかしたい。でも、動けない」——問題社員対応で中小企業が陥るジレンマ

欠勤が多い社員がいる。
感情の起伏が激しく、周囲との関係を悪化させる社員がいる。
現場から「もう限界です」という声が届いているのに、経営者としてなかなか動けない——そんな状況に悩む中小企業の経営者は少なくありません。

「強く言って辞められたら困る」「後でもめるのが面倒だ」「この人数で誰かが抜けたら現場が回らない」——こうした懸念が重なると、問題は後回しになりがちです。
古参社員や問題社員への対応に悩む経営者ほど、「わかってはいるが、踏み切れない」という状態が長引く傾向があります。

この記事では、製造業・従業員40名のP社様の事例をもとに解説します。
欠勤過多の社員と職場の雰囲気を乱す古参社員、2つの問題を同時に抱えた状況から、退職勧奨を含む具体的な対応を進めるまでのプロセスが対象です。

感情論や温情で動いている限り、問題は前に進みません。
出勤率の数値・就業規則・退職金の概算という客観的な根拠を揃えてはじめて、経営者は毅然とした対応を取ることができます。

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この記事でわかること:
・問題社員の放置がなぜ組織の崩壊につながるのか、そのメカニズム。
・パート転換(短時間・有期雇用への契約変更)と諭旨退職、それぞれの実務的な進め方と使い分け。
・退職金の考え方と、懲戒解雇より諭旨退職が会社にとって合理的な理由。
・外部の第三者を活用することで、経営者の負担と法的リスクを同時に下げる方法。

「一緒に働きたくない」——現場から届いたクレームが示すもの

P社様では、2人の社員をめぐる問題が同時に起きていました。

1人目のAさんは、自己都合の欠勤・早退を繰り返す正社員です。
有給の範囲を超えた欠勤が続いており、就業規則の服務規程に定めた基準を下回る状態が続いていました。
P社様の就業規則では、正社員としての勤務継続の要件として「月間・年間を通じた出勤率が9割以上であること」が定められています。
この基準を継続的に下回る場合は、雇用形態の見直しを含む対応を会社が検討できるという規定も設けられており、今回の対応はその条項に基づいたものです。
会社側は「特別な事情があるから」とそのつど黙認してきましたが、Aさんが休むたびに周囲が業務を肩代わりする状況が常態化し、現場の疲弊は少しずつ積み上がっていました。

2人目のYさんは、感情の起伏が大きく、自分の不満を周囲に吹聴することで人間関係のトラブルを引き起こしてきた古参社員です。
特定の社員との関係が悪化し、最終的に「もうYさんとは一緒に働けない」というクレームが経営者に届きました。

P社様の社長も「こっちもやめてもらいたいぐらいなんだけど」と率直に話してくれました。
それでも動けなかった背景には、人手不足への不安や、対応が長引くことへの面倒さがありました。「わかっているが、動けない」という状態が長く続いていたのです。

なお、現場からクレームが届いているということは、それ以前からすでに多くの社員が不満を抱えていたことを意味します。
声が上がった時点では、水面下でかなりの不満が積み上がっていると考えた方が現実に近いです。

問題社員を放置し続けると何が起きるか——組織崩壊のメカニズム

なぜ経営者は動けないのか——放置を生む3つの心理

問題社員への対応が進まない理由は、だいたい3つのパターンに集約されます。

1つ目は、人手不足への不安です。
「この人数でさらに欠員が出たら現場が回らない」という懸念は、特に製造業や現場系の会社では切実です。
ただ、「問題社員を残すことで真面目な社員が辞めていく」というリスクと天秤にかける必要があります。

2つ目は、紛争を避けたいという心理です。
問題社員ほど感情的な反発が強く、「ハラスメントだ」と逆に訴えられるかもしれないという不安を感じる経営者は少なくありません。
ただ、これは事実をデータとして記録しておくことで、大幅にリスクを下げることができます。

3つ目は、長年の付き合いへの温情です。
P社様の社長も、この感情ゆえに対応が後手に回ってきました。
人として理解できる気持ちですが、その温情が本来向けられるべき相手は、黙って耐えている周囲の社員の方です。

真に被害を受けるのは、黙って耐えている社員たち

問題が放置されている間、周囲の社員は「真面目にやっても、サボっても、同じ扱いをされる」という現実を毎日見ています。
黙認が続けば続くほど、問題社員本人は「この程度は許されるのだ」という認識を深めていきます。
一方で周囲の不満は蓄積していき、やがて最も失いたくない社員から会社を離れていく結果につながりやすくなります。

問題社員への対応を決断することは、その社員に厳しくすることではなく、黙って働き続けている多くの社員の環境を守るための判断です。
P社様でも、クレームが届く段階まで状況が悪化しており、早期の対応が必要な状態でした。

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ポイント:
問題社員の放置は「何もしない」選択ではありません。
真面目な社員のやる気を削ぎ続けるという、組織へのダメージを積み重ねる行為です。
先送りにはコストがかかっています。

感情論を排除した二択提示——パート転換か諭旨退職か

P社様への提案の核心は、「感情ではなく事実を根拠にする」という点に集約されます。
経営者の主観や印象に基づいた対応は、後から「不当解雇」や「ハラスメント」として争われるリスクにつながります。
出勤率・就業規則・労働契約書という客観的な根拠に基づいた対応は、会社の立場を法的に守るためには必要不可欠です。

Aさんへのアプローチ——欠勤が多い社員へのパート転換の提示

Aさんへの対応として提示したのは、パート(短時間・有期の雇用形態)への契約変更です。
正社員の雇用契約は、フルタイムで働くことを前提にしています。
有給の範囲を超えた欠勤が繰り返されている場合、それは労働契約上の義務を果たさない状態(債務不履行)に相当する可能性があります。
勤怠データとして記録されている事実を正面から示す——それが、この交渉の起点です。

手順としては、まず出勤率を数値で出します。
P社様のケースでは、年間の欠勤日数・早退回数を集計し、就業規則で定めた基準を下回っていることを数値として確認しました。
この数値を根拠に「正社員としての勤務実態が満たされていない」ことを会社として明示し、パートタイムへの転換を提案します。

なお、パート転換はあくまで提案であり、本人の同意が前提です。
本人が拒否した場合は、正社員としての改善を求める書面(業務改善指示書)を交付するプロセスに移ります。
どちらに転んでも、「会社として事実に基づいた対応をした記録」が残ることが重要です。

Yさんへのアプローチ——古参社員への諭旨退職の設計

Yさんへの対応は、より段階的な設計が必要でした。
問題行動が複数回あり、他の社員への影響が具体的に確認できている状況です。
まず誓約書を提出させ、再度同様の行為があった場合の処分を明示した上で、諭旨退職の方向を提示するという流れを取りました。

ここで重要なのは、懲戒解雇ではなく諭旨退職を選ぶ実務的な理由です。
懲戒解雇の場合、就業規則や退職金規程の定め次第で退職金が支給されないケースがあります。
一方、諭旨退職は退職を促す形式をとりながらトラブルリスクを下げる手段であり、退職金の扱いは規程の内容によって異なります(全額支給・減額・不支給のいずれもあり得ます)。
懲戒解雇は手続きや記録の不備があると不当解雇として争われる可能性がある一方で、諭旨退職はそのリスクを抑えやすい方法です。

P社様では、今までの勤続年数などを考慮してYさんへの退職金概算を約100万円と試算し、その金額を提示した上で諭旨退職を進める方針を固めました。
「退職金を払うのは損だ」と感じるかもしれませんが、その社員が在籍し続けることで真面目な社員が辞めた場合の採用・教育コストと比べると、十分に合理的な判断といえます。

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ポイント:
諭旨退職と退職金の扱いは、退職金規程の有無・内容によって大きく変わります。
規程がない場合でも、長年の支払い慣行があれば支払い義務が生じることがあります(判例あり)。
実際の対応前に、社会保険労務士や弁護士への確認を強くお勧めします。

問題社員対応を「感情」から「事実」に切り替える実践3ステップ

対応が進まない最大の理由は、「感情対感情」の構図になってしまうことです。
経営者が「あなたの行動は問題だ」と言えば、本人は「それはハラスメントだ」と返す——このやりとりを断ち切るのが、客観的なデータと手順の整備です。
P社様での対応を通じて有効だったプロセスを、3ステップで整理します。

STEP1|勤怠データの記録と可視化

まず取り組むのは、事実の記録です。
タイムカードや勤怠システムから、対象社員の直近1年分の出勤日数・有給使用日数・欠勤日数・早退回数を集計し、出勤率を計算します。
計算式はシンプルで、出勤率(%)=実出勤日数 ÷ 所定出勤日数 × 100 です。
就業規則に出勤率の基準が定められているかを確認し、数値と照らし合わせます。
該当条項がない場合は、規則の整備も並行して検討してください。

また、問題行動(感情的な発言・他者への不満の吹聴など)については、発生した日時・場所・内容・目撃者を「事実記録シート」として残しておくと、面談や法的手続きの際の根拠になります。
ExcelやGoogleスプレッドシートで十分です。
記録を積み重ねることが、会社の立場を守ることにつながります。

STEP2|選択肢の整理と退職金概算の準備

記録が揃ったら、会社として取れる選択肢を整理します。
①業務改善指示(改善期間の設定)→②パート転換の提案→③諭旨退職の提示、という段階的な流れが基本です。

諭旨退職を視野に入れる場合、退職金の概算を事前に出しておくことが重要です。
就業規則または退職金規程に定められた計算方法(基本給×支給率×勤続年数など)をもとに金額を準備しておき、面談の場で示せる状態にしておきます。
退職金は規程が整備されている場合に支払い義務が生じるのが原則ですが、規程がなくても長年の支払い慣行があれば義務が生じる場合もあります。
対応前に専門家へ確認しておくことが安全です。

STEP3|期限を切った面談設定と第三者の活用

データと選択肢が揃ったら、日程を固めた面談を設定します。
「いつか話し合わなければ」ではなく、「○月○日に面談を行い、会社の方針を伝える」と決めることが、対応を前進させる重要なポイントです。

この面談では、経営者が一人で対応するよりも、社会保険労務士や外部の経営コンサルタントを同席させる方が有効です。
第三者が「労務の専門家として事実を確認しに来た」という形をとることで、感情的な対立に発展しにくくなります。
「社長が言った」ではなく「客観的な事実として通達された」という形にするだけで、社内の人間関係への影響を抑えることができます。

P社様のケースでも、次回の面談には客観的な事実(出勤率・就業規則・会社の方針)を直接伝える役割を、こちらが担うことになりました。
「言いにくいことを代わりに言ってもらえる」という仕組みを整えることが、決断を実行に移す上での現実的な一手です。

💡
ポイント:
「記録→選択肢と退職金の準備→期限付き面談」という3ステップは、経営者の心理的な負担を下げながら、法的リスクを管理して対応を進めるための基本的な流れです。

まとめ——問題社員対応は「人事」ではなく「経営の意思決定」の問題

P社様の事例を通じて見えてきたのは、問題の本質は「問題社員が存在すること」ではなく、「その状況を放置してきた構造」にあるということです。
経営者の優しさは組織の温かさにつながる一方で、毅然とした判断を遅らせるリスクにもなります。

問題社員への対応を先送りにすると、最終的な代償は採用コストとして表れます。
真面目に働いていた社員が一人辞めれば、求人費用・採用期間・教育コストがそのまま損失になります。
製造業においては、現場の技術や手順を知る社員が辞めることで業務の属人化(特定の人だけに知識が集中する状態)が進み、生産現場のリスクにもなります。

問題社員への対応は、人事の課題に留まらず、財務・組織・現場の生産性を横断的に守る経営判断です。
「感情ではなく事実で動く」「外部の力を借りて負担を分散する」——この2点が、対応を前に進めるための基本的な考え方です。
判断が早ければ早いほど、組織へのダメージは小さくなります。

最後に

「わかっているが、踏み切れない」という状況は、感情論ではなくデータと手順を整えることで必ず前に進められます。
記録の整理から面談の設計、第三者としての同席まで、実務的なサポートが必要な場面があれば、ぜひ当社へお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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