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幹部が動かない根本原因|理念を行動規範に変える設計

組織マネジメント

「あの人の挨拶が小さかったから」——採用コンペで知った、本当の敗因

「どうしても取りたい子がいたんです。5年、10年と一緒にやっていける、右腕になってくれそうな人で」。フェルト素材を扱う、ある製造業の3代目社長は、そう話し始めました。

その候補者は、同業の一社との間で迷っていたそうです。両社の工場見学を終えて、最後の最後で他社を選びました。社長が後から人づてに聞いた理由は、本人にとっても受け止めがたいものでした。「工場見学のとき、うちの幹部の挨拶が小さかった」。本当に僅差で、最後の決め手がそこだったというのです。

挨拶。たったそれだけ、と思うかもしれません。けれど社長にとっては、何年も言い続けてきたテーマでした。「挨拶しよう」「歩くときは歩行帯を通ろう」。それでも幹部はなかなか動かない。歩行帯を徹底させるだけでも「何回もくどくどくどくど言って、ようやく歩いてくれた」というレベルです。たまらず、評価制度の項目にまで「挨拶」を入れました。それでも、しない。

あなたの会社でも、似たことが起きていないでしょうか。社長が言えば言うほど、なぜか現場との距離が広がっていく。良かれと思ってルールを増やすほど、誰も守らなくなる。この記事では、「何度言っても幹部が動かない」という悩みの裏にある構造を解き明かします。

結論から言えば、原因は幹部のやる気でも能力でもありません。会社の理念と、そこから導かれる「行動の基準」が、社長の言葉として言語化されていないことにあります。そして解決の鍵は、社長一人で決めて配ることではなく、守る当事者である幹部自身に、その基準を作らせることです。

💡 この記事でわかること:

  • 「何度言っても幹部が動かない」会社で、実際に何が欠けているのか
  • 経営理念を「現場の行動」まで落とすための三つの層の考え方
  • 社長が言い続ける構造から、当事者が自ら守る構造へ変える具体的な進め方

「みんな年上の部下」という、口に出しにくい構造

幹部が動かない会社には、たいてい言葉にしづらい事情が一つあります。この会社の場合は、幹部が全員、社長より年上だということでした。

「みんな年上の部下なんで。あの人一人を説得するだけで、めちゃめちゃ大変なんですよね」。社長はそう漏らしました。創業から続く会社を3代目として継ぎ、現場をずっと支えてきたベテランたちに囲まれて経営をする。技術も人望も、自分より上かもしれない人たちに、「挨拶をしてください」とは、なかなか正面から言えるものではありません。

だから社長は、正面突破ではなく、根気強い個別対話を選んできました。喫煙所で一人ひとりに声をかけ、少しずつ伝える。熱量も行動力もある社長です。それでも、足元の小さな変化を一つ起こすだけで、相当なエネルギーを使い果たしていました。話の端々から、消耗のにじむ瞬間がありました。

ここで見落とされがちなのは、これが「人材」の問題であると同時に「経営」の問題でもある、という点です。年上の部下が動かないのは、性格の問題ではありません。社長の指示に従う以外の「拠りどころ」を、幹部自身が持っていないからです。社長がその場にいなければ、何を基準に動けばいいのか分からない。だから工場見学のような、社長の目が届かない場面でこそ、ほころびが出ます。

「評価に挨拶を入れた」のに変わらない、その理由

ルールを作っても守られないとき、足りないのは罰則ではありません。「なぜそれをやるのか」という理由です。

社長は評価制度に挨拶の項目を入れました。これは正しい一手のように見えます。けれど、評価に入れても現場が動かなかったのには、はっきりした理由があります。評価制度が「何を評価すべきか」を定めるためには、その手前に「この会社は何を大切にし、だから現場でどう振る舞うのか」という土台が要ります。その土台がないまま評価項目だけを足しても、幹部にとっては「社長がまた何か言い出した」以上の意味を持ちません。

この会社の場合、その土台にあたる経営理念が、宙に浮いていました。理念そのものは存在します。けれど社長自身、「曾祖父の言葉のままか、どこかの本の受け売りで、自分の言葉になっていない」と正直に話していました。「キラーフレーズが浮かばない」「どうしても真似事になってしまう」。言語化への苦手意識を、自分でも自覚していたのです。

私たちが第三者の視点で状況を整理すると、こういう構造が見えてきました。経営理念が社長の言葉になっていない。だから「なぜその行動が必要か」という事業理念も、「具体的に何をすべきか」という行動規範も生まれない。土台がないところに評価制度だけが乗っているので、幹部は結局「社長の感覚」に従うしかない。そして社長がいなければ、従う相手すら消えてしまう。挨拶ができないのは、規律の問題ではなく、設計の問題だったのです。

経営理念・事業理念・行動規範、三つの層でつなぐ

理念を現場の行動まで届けるには、間に「橋」が要ります。私たちが設計図として示したのは、三つの層で考える組織の骨組みでした。

一番上に経営理念があります。「私たちは何のために存在するのか」という、会社の根っこです。その下に事業理念を置きます。これは「だから、私たちの仕事ではこれを大事にする」という、理念を事業の言葉に翻訳した層です。そして一番下に行動規範を置きます。「だから現場では、具体的にこう振る舞う」という、毎日の動作に落とした層です。挨拶も、歩行帯も、報告・連絡・相談も、本来はこの一番下の層に位置します。

この三層がつながって初めて、評価制度は「行動規範を守れているか」を測る道具として機能します。逆に言えば、上の二層が抜けたまま行動だけを評価しても、現場には「やらされ感」しか残りません。

理念は三つの層を通って、現場の行動になる

大切なのは、これを「きれいな図」で終わらせないことです。三層ピラミッドの図は、世の中にいくらでもあります。それを資料にして社長に渡し、説明して帰る——それだけでは、現場は一ミリも変わりません。アドバイスをして資料を置いていくだけでは、本当の意味での改善は進まないのです。現場の中に入り、泥臭く一緒に手を動かしてこそ、組織は動き始めます。問われるのは、図の美しさではなく、この骨組みを「誰が、どう作るか」でした。

理念を中長期の計画に落とし込む進め方は、中期経営計画の作り方|続けられる3〜5年計画で取り上げていますので、あわせてご一読ください。

「お前たちが作ったんだから、逃げられない」——幹部5人との個別面談

行動規範は、社長が一人で決めて配ってはいけません。守る当事者である幹部自身に作らせる。これが、何度言っても変わらなかった構造を反転させる、唯一のやり方です。

私たちが取った方法は、幹部5人を一人ずつ、それぞれ1時間かけて面談することでした。「あなたは現場で、何を大事にすべきだと思いますか」。そう問いかけ、一人ひとりの言葉を引き出していきます。狙いははっきりしています。出来上がった行動規範を「社長が決めたルール」ではなく「自分たちが一緒に考えた規範」にすること。平たく言えば、「お前たちが作ったんだから、お前たちは逃げられない」状態に持っていくことです。

この進め方には、別の会社で実際に起きた手応えがありました。ある製造業で同じように幹部を集めたとき、全員が「挨拶は大事だ」「報連相は大事だ」と口を揃えました。そこで「では、皆さんは今それができていますか」と尋ねた瞬間、場が静まり返ったのです。必要だと分かっている。でも、できていない。その落差を本人たちが自覚した先で、「周囲に変化を求めるのではなく、自分から変わろう」という言葉が、幹部の側から自然に出てきました。

人は、人前では良い格好をしたがります。一人で考えれば言い訳もできますが、仲間の前で「自分が大事だと言った」ことは、簡単には引っ込められません。複数人を巻き込むことの本当のメリットは、ここにあります。

このやり方が、社長が一人で抱えてきた構造とどう違うのか。整理すると、次のようになります。

項目 社長が言い続ける構造 当事者が作る構造
ルールの出どころ 社長の感覚 幹部自身の言葉
守る理由 言われたから 自分で決めたから
社長が不在のとき 基準が消える 基準が残る
変化のきっかけ 注意・指摘 自発的な「自分から変わろう」

行動規範ができたら、就業規則の服務規程も、その規範に沿って整えていきます。理念から行動規範、そして就業規則までを一本の線でつなぐと、評価制度もようやく意味を持ち始めます。こうした中小企業の人事評価制度の設計は、評価項目を足すことではなく、この土台づくりから始まるのです。

「自分ができていなかった」——動き出した幹部たち

仕組みが変わり始めると、まず変わるのは人の言葉です。この会社でも、キックオフの段階で、すでに小さな、けれど確かな変化が生まれていました。

幹部5人は、全員が「ぜひ協力します」と参加に同意しました。何より社長を驚かせたのは、面談の中で出てきた言葉です。「自分が部下に求めていたことを、自分ができていなかった」。ある幹部は、そう口にしました。これまで社長が何百回言っても動かなかった人たちが、自分の言葉で、自分の課題を語り始めたのです。

ここから、「社長が言い続ける」から「幹部が自分で気づく」へと、会社の構造そのものが動き出しました。半年後、一年後に見えてくる景色は、これまでとは違うはずです。社長が喫煙所で一人ずつ説得して回らなくても、現場が自分たちの基準で動く。工場見学で誰かが見ていなくても、当たり前に挨拶ができる。あの採用コンペで逃した右腕のような人材を、次は「あの会社の空気はいい」と選んでもらえる。そういう未来が、ようやく射程に入ってきました。

社長が背負ってきた「自分が言い続けなければ回らない」という重荷は、当事者がルールを持った瞬間に、少しずつ下ろせるようになります。

まとめ

理念が現場に浸透しない、幹部が動かないという悩みは、根性論では解けません。構造を変えることでしか変わりません。要点を三つに整理します。

① 「動かない幹部」は、規律ではなく設計の問題

何度言っても変わらないのは、本人のやる気の問題ではありません。理念から行動規範までが言語化されておらず、幹部が「社長の感覚」以外に拠りどころを持てていないからです。土台のないところに評価項目だけを足しても、現場は動きません。

評価項目の前に整える役割定義から始める評価制度は、中小企業の評価制度の作り方|等級と評価基準で解説していますので、そちらもご覧ください。

② 理念は、三つの層を通して初めて行動になる

経営理念・事業理念・行動規範という三層をつなぐことで、抽象的な理念が毎日の動作にまで落ちます。挨拶も報連相も、この一番下の層に位置づけて初めて、評価制度が機能します。

③ ルールは「作らせる」と守られる

社長が決めて配るルールは守られません。守る当事者である幹部自身に、仲間の前で考えさせ、言葉にさせる。「自分たちが作った」という当事者意識が、外からの注意では決して生まれない「自分から変わろう」を引き出します。

最後に

もし今、「何度言っても幹部が動かない」「理念はあるのに現場に落ちていない」と感じているなら、それは社長のリーダーシップが足りないからではありません。理念を行動に変える設計図と、当事者を巻き込むプロセスが、まだ手元にないだけです。

私たちTalent Partnerは、設計図を渡して帰るのではなく、幹部一人ひとりとの面談から就業規則の見直しまで、現場の中に入って一緒に手を動かします。年上の部下にどう向き合うか、自分の言葉で理念をどう語るか——同じような壁の前で立ち止まっている経営者の方は、一度ご相談ください。御社の構造を一緒に整理するところから、お手伝いします。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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