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労務・法務

最低賃金の引き上げにどう備える?|賃金表の見直しと原資のつくり方

「今年もまた、全員の時給を上げ直すのか」——毎年10月のその作業に、根本の手を打てていますか

パートやアルバイトの時給が最低賃金ぎりぎりで、毎年10月が近づくと全員分を横並びで上げ直す。今年もまた上がると聞いたけれど、いくらになるのか、いつからなのか、はっきりしない。上げた分の原資をどこから持ってくるかも、正直まだ決まっていない。——あなたの会社では、こうなっていませんか。

2026年7月28日に国が示したのは「引き上げの目安」であって、あなたの県の確定額でも発効日でもありません。実際の金額は各都道府県ごとにこれから決まります。だから今の段階でやるべきは、「いくらになるか」を待つことではなく、時間額を正しく確認する準備と、賃金表そのものの見直しです。

そしてもう一つ。最低賃金に張り付いた人だけを機械的に上げると、社内の給与バランスが毎年少しずつ崩れます。この記事では、確定前の今できる備えと、上げた分の原資をどうつくるかまでを、順を追って整理します。

この記事でわかること

  • 2026年7月28日に決まったのは「目安」で、確定額でも発効日でもないこと
  • 時間額に換算するとき、最低賃金に算入しない手当があること(実務の落とし穴)
  • 地域別とは別に「特定(産業別)最低賃金」があり、製造業は要注意なこと
  • 最低賃金対応を「賃金表全体の引き直し」として設計する理由と、原資のつくり方

そもそも最低賃金とは

最低賃金とは、国が「これ以下で人を働かせてはいけない」と定めた時間あたりの賃金の下限です。正社員かパート・アルバイトかを問わず、すべての労働者に例外なく適用され、下回ると罰則の対象になります。「うちは小さいから」「本人が納得しているから」は通用しません。

一般によく使われるのが、都道府県ごとに定められた地域別最低賃金です。毎年、国の審議会が引き上げの「目安」を示し、それを参考に各都道府県で審議したうえで、各都道府県労働局長が実際の金額を決定します。つまり「目安を示す人」と「金額を決める人」は別で、目安イコール確定額ではありません。ここを取り違えると、確定していない数字で人件費を組んでしまうことになります。

2026年7月28日に示されたのは「目安」であって、確定額ではありません

2026年(令和8年)7月28日、国の第75回中央最低賃金審議会(会長 藤村博之)が、令和8年度の地域別最低賃金の改定について目安を答申しました(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」2026年7月28日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html )。

示された引き上げ額の目安は、都道府県をランク分けしたうえで、Aランク(6都府県)54円/Bランク(28道府県)56円/Cランク(13県)56円。すべての都道府県が目安どおりに引き上げた場合、全国加重平均は1,176円、引き上げ額は55円、引き上げ率は4.9%になる計算です(前年度は引き上げ額66円・6.3%)。

ただし、繰り返しになりますがこれは「目安」です。厚生労働省も、各地方の審議会が地域の賃金実態などを踏まえて改めて審議し、各都道府県労働局長が最終的な金額を決定するとしています。前年度は、Cランクの県で目安を大幅に上回る引き上げが相次ぎました。発効日も都道府県ごとに違い、近年は10月前後で分散しています。ですから「うちの県は◯◯円になる」「◯月◯日から」と、今の段階で断定はできません。

兵庫県はBランク(目安56円)です。現在の兵庫県最低賃金は時間額1,116円(令和7年10月4日発効、兵庫労働局 https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/banner_link/hyogo_mw_itiran.html )。目安どおりなら1,116円+56円で1,172円という計算にはなりますが、これはあくまで「目安どおりならこうなる」という試算で、確定額ではありません。実額と発効日は、兵庫労働局の公表を必ずご確認ください。

見落としやすい2つの落とし穴|算入しない賃金と特定(産業別)最低賃金

金額が確定する前に、社内で先に確認しておきたい落とし穴が2つあります。どちらも「知らないまま計算すると、気づかず下回っている」タイプの見落としです。

1つ目は、時間額に換算するときに算入しない賃金があること。 最低賃金の対象になるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。次のものは算入しません——臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、時間外割増、休日割増、深夜割増分、そして精皆勤手当・通勤手当・家族手当(最低賃金法・同法施行規則で算入しないものと定められています)。月給者の場合は「月額 ÷ 1か月の平均所定労働時間」で時間額に換算して比べますが、このとき上記の手当は差し引いて計算します。「基本給に諸手当を足せば足りているはず」という思い込みが、そのまま違反につながります。

2つ目は、地域別とは別に「特定(産業別)最低賃金」があること。 兵庫県には、地域別とは別枠で、特定の産業に働く人向けの最低賃金があります。兵庫労働局の最低賃金一覧表によれば、いずれも令和7年12月1日発効で次のとおりです。

産業 時間額
輸送用機械器具製造業 1,188円
鉄鋼業 1,180円
塗料製造業 1,158円
はん用機械器具・生産用機械器具・業務用機械器具製造業 1,150円
電子部品・デバイス・電子回路、電気機械器具、情報通信機械器具製造業 1,117円
計量器・測定器・分析機器・試験機・測量機械器具・理化学機械器具製造業 1,117円

地域別と特定の両方が適用される場合は、高いほうが適用されます。 製造業の会社が地域別だけを見ていると、実は足りていなかった、ということが起こり得ます。金額と発効日は改定されるため、対象業種にあたるかどうかも含め、必ず同じ一覧で最新をご確認ください。

参考(厚生労働省・兵庫労働局):令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会報告(PDF)兵庫県の最低賃金一覧表

この記事の内容を、社内で共有できる資料にまとめています。

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本当の課題は「賃金表の見直し」です

ここがこの記事の核心です。最低賃金が上がったとき、それに張り付いている人だけを機械的に上げる——多くの会社が毎年こうしています。ですが、この対応を続けると社内の給与バランスがじわじわ崩れます。

たとえば、入社1年目の新人と、3年頑張ってきた先輩の時給が、どちらも最低賃金に引っ張られて同じ水準に近づいていく。差がほとんどなくなり、「自分は何のために続けてきたのか」と先輩の不満が出る。これが賃金の圧縮です。毎年これを繰り返すと、等級や勤続年数の意味が薄れ、評価制度そのものが形だけになっていきます。

ですから、これは「最低賃金対応」ではなく「賃金表全体の引き直し」として設計するのが本筋です。やることは4つ。①いま誰がどの時給・月給なのかを一覧にして可視化する ②時間額に換算して、最低賃金を下回る人を洗い出す ③下回った人だけでなく、その上の層との差をどう保つかを決める ④来年以降も上がる前提で、上げ幅のルールを先に決めておく。こうしておくと、毎年10月に慌てて全員を横並びで上げる作業から抜け出せます。

最低賃金に張り付いた人だけ上げる/賃金表ごと引き直す

張り付いた人だけ上げる

下回った人だけを機械的に上げる
毎年10月に慌てて横並びで上げる作業になる

新人と3年目の差がなくなる
どちらも最低賃金に引っ張られ、賃金が圧縮される

等級や勤続年数の意味が薄れる
評価制度そのものが形だけになっていく

賃金表ごと引き直す

誰がどの時給・月給かを一覧にして可視化する
まず自社の現在地を把握する

時間額に換算し、下回る人を洗い出す
算入しない手当があるため、額面のままでは判断できない

その上の層との差をどう保つかを決める
下回った人だけを見ない

来年以降の上げ幅のルールを先に決める
上がる前提で設計しておく

上げた分の原資をどうつくるか|3つの道

「見直すのは分かった。でも、上げる原資がない」——ここで止まってしまう会社がほとんどです。ですが、原資のつくり方は「値上げか、我慢か」の二択ではありません。実は、国の審議会自身が、賃上げ原資を確保するための支援策を政府に要望しています。

目安と同じ日に公表された中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会報告(令和8年7月28日)の「公益委員見解及びその取扱い」は、業務改善助成金の充実と周知徹底、キャリアアップ助成金・働き方改革推進支援助成金・人材確保等支援助成金の賃上げ加算等の充実、令和8年1月から施行された取適法・振興法の着実な執行による価格転嫁・取引適正化の徹底、中小企業省力化投資補助金・デジタル化AI導入補助金等の活用促進を、政府に対して要望すると明記しています。そこから逆算すると、道は大きく3つです。

① 価格転嫁(取引先との交渉)。 人件費の上昇は、取引の適正化を定める取適法(旧・下請法)でいう「費用の変動」に当たり得るもので、取引先に協議を求める根拠になります。「上がったコストを価格に反映させてもらう」交渉は、我慢の対極にある正攻法です。交渉に使う資料の作り方は価格転嫁の交渉資料の作り方|「協議に応じない」は取適法違反ですで詳しく解説しています。

② 助成金の活用。 事業場内の最低賃金を引き上げて設備投資などをした場合に使える助成金があります。代表例は業務改善助成金で、詳しくは業務改善助成金とは?|最低賃金の引き上げと設備投資に使える助成金にまとめています。支給額・上限・要件は年度で変わるため、申請前に厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークで最新をご確認ください。

③ 省力化への投資。 人手のかかる作業を機械やシステムで巻き取り、そもそも必要な労働時間を減らす。設備によっては補助金の対象になることもあります。「賃上げに耐えられる筋肉質な体制をつくる」という、いちばん前向きな原資のつくり方です。

ここまでが、この制度の話です。2026年度の法改正は、ほかに6つあります。御社に関係するものが、いくつあるかご存じですか。

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進め方|4ステップ

確定額を待つあいだにこそ、手を動かしておきたい順番があります。

確定額を待つあいだに進める4ステップ

全員を一覧にする雇用形態・時給または月給・所定労働時間を1枚に
時間額に換算する通勤・家族・精皆勤手当は算入しない。下回る人を洗い出す
上の層との差を決める引き上げで詰まる先輩との差をどう保つか
ルールと原資を決める連動のルールと、価格転嫁・助成金・省力化のどれで賄うか

STEP1:いまの時給・月給を一覧にする

まず、パート・アルバイト・正社員を問わず、全員の現在の賃金を一枚の表にします。名前・雇用形態・時給または月給・所定労働時間を並べるだけで構いません。エクセルでもスプレッドシートでも十分です。誰がどの水準にいるかが見えないと、上げるべき人も、崩れているバランスも判断できません。この可視化が、すべての起点になります。

STEP2:時間額に換算し、下回る人を洗い出す

月給者は「月額 ÷ 1か月の平均所定労働時間」で時間額に換算します。このとき賞与・通勤手当・家族手当・精皆勤手当・各種割増は算入しない点に注意してください。そのうえで、地域別最低賃金と、対象業種なら特定(産業別)最低賃金と照らし、下回る人・ぎりぎりの人を全員リストアップします。目安どおりに上がった場合の水準でも試算しておくと、慌てずに済みます。

STEP3:上の層との差をどう保つか決める

下回った人を引き上げると、その上にいる先輩との差が詰まります。ここで「先輩をいくら上げれば納得感が保てるか」を先に決めます。全員を同じ額だけ上げるのか、勤続や役割に応じて差をつけるのか。ここが賃金表の引き直しの中心で、評価制度や等級の考え方とも直結する部分です。

STEP4:上げ幅のルールと原資を先に決める

最低賃金は今後も上がる前提で考えます。「最低賃金が◯円上がったら、各層はこう連動させる」というルールを先に決めておくと、毎年ゼロから悩まずに済みます。同時に、上げ幅に見合う原資(価格転嫁・助成金・省力化のどれで賄うか)の当ても決めておきます。ここまでやって、はじめて「備えた」と言えます。

上げ幅のルールを決めたら、就業規則と賃金規程の記載も合わせて直します。賃金の決め方・計算・支払の方法は、就業規則に必ず書かなければならない項目だからです。表だけを直して規則が古いままだと、書面と実際の運用が食い違います。どこまで書き、どう届け出るかは、就業規則の作り方で手順としてまとめています。

引き上げ前に確認する5項目

  • 時間額換算で算入しない手当(賞与・通勤・家族・精皆勤・割増)を除いて計算したか
  • 特定(産業別)最低賃金の対象業種にあたらないか
  • 地域別(と対象なら特定)の最低賃金を下回る人を全員洗い出したか
  • 下回った人の上の層との差をどう保つか決めたか
  • 上げた分の原資の当て(価格転嫁・助成金・省力化)を決めたか

活用事例|ケース別の考え方

具体的な進め方は、会社の形によって少し変わります。特定の企業の話ではなく、一般化した想定として4つ挙げます。

ケース1|パート20名ほどを抱える食品加工業(多くが最低賃金ぎりぎり)

引き上げの影響が人件費に直撃するタイプです。時給が近い人が固まっているはずなので、単に全員を横並びで上げるのではなく、シフトの中心を担うベテランと新人の差をどう残すかを先に決めておくのが得策です。上げ幅は、繁忙期の値付け(価格転嫁)とセットで検討します。

ケース2|兵庫県で特定(産業別)最低賃金の対象になる製造業

地域別だけを見て「うちは足りている」と判断すると危険です。自社の業種が特定最低賃金の対象かどうかを兵庫労働局の一覧で確認し、対象なら地域別と特定の高いほうで全員をチェックします。設備投資と絡めれば、省力化や助成金という原資の道も開けます。

ケース3|月給制の若手社員がいる会社

時間額に換算すると下回りそうな一人が、諸手当込みでは足りて見えている、というケースが起こります。通勤手当・家族手当・精皆勤手当は最低賃金の算入対象になりません。これらを差し引いて計算し直すと、思わぬところで最低賃金を割っていた、という事態を防げます。月給者ほど、この換算の確認を丁寧に行ってください。

ケース4|賃金表そのものがない会社(その都度の判断で時給を決めてきた)

毎年10月に個別対応を繰り返している会社です。引き上げのたびに全員分を見直す作業が発生し、しかも根拠がないため上下の差が説明できなくなっていきます。今年の改定を機に、職務や習熟度で3〜4段階の簡単な賃金表を作るところから始めてください。表があれば、次からは下限を動かすだけで全体が整います。

まとめ

  • 2026年7月28日に示されたのは「目安」であって、確定額でも発効日でもない
  • 実額は各都道府県労働局長がこれから決め、発効日も県ごとに異なる
  • 時間額に換算するときに算入しない手当がある
  • 製造業では特定(産業別)最低賃金の見落としが起こりやすい
  • 対応は「張り付いた人だけ上げる」で終わらせず、賃金表全体の引き直しとして設計する
  • 上げた分の原資は価格転嫁・助成金・省力化の3つで組み立てる
  • 数字が確定してから動くのではなく、確定前の今こそ準備の好機

最後に

最低賃金の話は、つい「また上がる、どうしよう」という受け身の負担として語られがちです。ですが、ここまで見てきたとおり、これは賃金表を整え、価格交渉に踏み出し、業務そのものを見直すきっかけにもなります。上がることそのものは止められませんが、どう備えるかは選べます。

とはいえ、賃金表の引き直しは労務の話であり、価格転嫁は取引先との交渉の話であり、助成金は申請実務の話であり、省力化は投資判断の話です。本来はばらばらの専門領域で、社労士は労務、税理士は税金、と縦割りになりがちです。私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)が向き合うのは、まさにこの横串の部分です。賃金表の設計から、価格転嫁の交渉資料づくり、使える助成金の見極め、省力化投資の検討までを、ひとつながりの「原資づくり」として一緒に組み立てます。

そして、綺麗な資料をお渡しして終わりにはしません。時給の一覧づくりのような地味な作業から、取引先との協議の場、労働局への確認まで、必要なら隣に座って手を動かします。中小企業の現場が本当に回せる形を大事にしているので、高価なシステムを無理に入れることもしません。エクセルや紙も織り交ぜて、今の体制で続けられるやり方に落とし込みます。

なお、最低賃金の実額・発効日、特定(産業別)最低賃金の対象や金額、助成金の要件は、いずれも改定されます。制度の最終判断は必ず公式情報や専門家の確認を前提にしてください。そのうえで、「うちの場合はどう動けばいいのか」を一緒に整理したい方は、経営に関する無料相談をご利用ください。賃金表の現状を一枚の表にするところから、ご一緒します。

「自社の場合はどうなるか」を、御社の状況に当てはめて一緒に整理します。

ご相談は無料です。その場で売り込みはいたしません。

この記事を書いた人

金井 春樹株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

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