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社会保険の適用拡大とは?|今後どう変わるかと自社への影響

労務・法務

「パートの社会保険が変わるらしい」——自社が対象なのか、まず全体像から

「パートの社会保険が変わるらしい」。取引先や顧問先からそう聞いて、気にはなっているものの、自社が対象なのか、いつから何をすればいいのかが分からない。そんな社長は少なくありません。人手は足りていないので働く時間は減らしたくない、でも保険料が増えるのも困る——この板挟みが、話を先送りにさせている本当の理由ではないでしょうか。

まず結論からお伝えします。先に動くのは「賃金要件(月額の賃金8.8万円以上)」の撤廃で、厚生労働省は2026年(令和8年)10月を予定時期として案内しています。ただし法律が定めているのは「公布から3年以内の政令で定める日」なので、日付はまだ確定していません。一方、よく見かける「2026年10月から51人未満の会社も対象になる」という説明は正確ではありません。会社の人数による基準(企業規模要件)が変わるのは、そのあと2027年10月から段階的で、こちらは日付まで法律で決まっています。

この記事は、社会保険の適用拡大の全体像を一枚の地図として示すことを目的にしています。細かい論点は個別の記事に譲り、ここでは「自社がいつから対象で、社長として何を準備すればいいか」の見取り図をつかんでください。

なお、制度は改正されることがあります。金額や要件は本記事執筆時点の枠組みであり、実際の手続きの前には日本年金機構・厚生労働省の公式情報、または社会保険労務士への確認を前提にお読みください。

💡 この記事でわかること:

  • 先に撤廃されるのは「賃金要件」で、時期は2026年10月「予定」(政令待ち)だということ
  • 企業規模要件(51人以上)が2027年10月から2035年10月にかけて段階的になくなるスケジュール
  • 今回の変更で影響が大きい会社と、その理由
  • 社長が今から進めておくべき4つの準備の順番

そもそも社会保険の「適用拡大」とは

社会保険の適用拡大とは、パート・アルバイトなど短時間で働く人を、厚生年金・健康保険の加入対象に広げていく一連の制度改正のことです。かつては「正社員のためのもの」という色合いが濃かった社会保険を、働く時間や規模の条件を段階的に下げることで、より多くの人が加入できるようにしてきました。

流れとしては2016年以降、対象となる会社の人数基準が「501人以上」から「101人以上」、そして現在の「51人以上」へと段階的に引き下げられてきました。今回の変更も、この延長線上にあります。

ここで押さえたいのは、適用拡大は「加入できる範囲を広げる」ものであって、「保険料を上げる」制度ではないという点です。加入対象になれば会社にも本人にも負担は生じますが、その背景には、働く人の年金や医療の保障を厚くするという目的があります。損得だけでなく、この趣旨を理解しておくと、社内への説明がぶれません。

この流れは一時的な措置ではなく、働き方の多様化と年金財政の持続性という、後戻りしない方向づけの中にあります。いずれ順番が来る前提で構えておく姿勢が、遠回りに見えて近道になります。

先に変わるのは「賃金要件」だけ|ただし時期は確定していない

社会保険にパートが加入するかどうかは、いくつかの条件で判定されます。このうち撤廃が予定されているのは「月額の賃金8.8万円以上」という賃金要件のみです。根拠は2025年(令和7年)6月に成立した年金制度改正法(令和7年法律第74号)で、この法律は撤廃時期を「公布から3年以内の政令で定める日」と定めています。厚生労働省の説明資料も「全国の最低賃金の引上げの状況を見極めて、3年以内に廃止します」としており、社会保険適用拡大特設サイトが「2026年10月に撤廃予定」と案内している状況です。つまり「2026年10月に撤廃される見込みだが、正式な期日は政令で決まる」が現時点の正確な言い方で、社内やパートさんへの説明でも「予定」であることを添えてください。

撤廃の理由はシンプルです。月8.8万円を週20時間で働いて得ようとすると、時給はおよそ1,016円必要になります。ところが2025年度の最低賃金は、全国どの都道府県でもこの水準を上回りました。つまり週20時間働けば自動的に月8.8万円を超えるため、賃金要件は判定として意味を持たなくなったのです。

一方で、会社の人数による「企業規模要件(現在は厚生年金の被保険者51人以上)」が変わるのは、賃金要件の撤廃と同じタイミングではありません。この点が「51人未満の会社も2026年10月から対象」と混同されやすいところです。しかも企業規模要件のほうは、賃金要件と違って施行日が法律で決まっています。規模要件は下の図の通り、2027年10月から2035年10月にかけて段階的に撤廃されます。そして週20時間以上働く/学生でない/2か月を超えて雇う見込み、という3つの条件はこれまで通り維持されます。自社の被保険者数から順番がいつ回ってくるかは、社会保険の適用拡大はうちの会社もいつから対象?|企業規模要件のスケジュールで判定表にまとめています。

✓ あわせて読みたい社会保険の適用拡大はうちの会社もいつから対象?|企業規模要件のスケジュール社会保険の適用拡大は企業規模要件がいつから対象になるのかを、2027年〜2035年の段階的な人数基準のスケジュールと、自社の順番の数え方まで…
社会保険の適用拡大 施行スケジュール
1
2026年10月(予定)
賃金要件(月8.8万円)を撤廃予定。判定は労働時間などに寄る
2
2027年10月
企業規模の基準が「36人以上」へ
3
2029年10月
「21人以上」へ。個人事業所の非適用業種も解消
4
2032年10月
「11人以上」へ
5
2035年10月
企業規模要件を撤廃(規模を問わず全企業が対象)

「加入対象になる」とは、実際に何が起きることか

条件を満たして加入対象になると、そのパートは厚生年金と健康保険の被保険者になります。保険料は会社と本人が半分ずつ負担する「労使折半」が原則で、本人分は給与から天引きされ、会社分は会社の実費として新たに発生します。効き始めるのは対象になった月からで、過去にさかのぼって払うわけではありません。「いつ・誰の負担が・どれだけ増えるか」は、対象者が確定した時点でおおよそ見通せます。この“お金の流れ”を先に押さえると、次の準備が具体的になります。

見るところ 賃金要件 企業規模要件
何の基準か 月額の所定内賃金が8.8万円以上か(いわゆる106万円の壁) 会社の被保険者数が何人以上か
どうなるか 撤廃される(判定は労働時間へ寄る) 51人→36人→21人→11人と下がり、最後は撤廃
いつか 2026年10月に撤廃予定。法律上は公布から3年以内の政令で定める日で未確定 2027年10月から2035年10月まで段階的(日付は法律で確定)
自社への効き方 すでに51人以上の会社に先に効く いま50人以下の会社に、順番が回ってくる

賃金要件がなくなると、月8.8万円という金額の線引きが消え、判定は週20時間という労働時間に寄ります。「壁がなくなる」と「判定が変わる」は同じことではありません。ここは誤解の多いところなので、「106万円の壁」はいつなくなる?|賃金要件の撤廃と週20時間の判定で詳しく整理しています。

✓ あわせて読みたい「106万円の壁」はいつなくなる?|賃金要件の撤廃と週20時間の判定106万円の壁の撤廃は2026年10月から。賃金要件がなくなる理由と、週20時間の判定への変わり方を中小企業の社長向けに整理します。130万…

参考(厚生労働省):年金制度改正法の法律説明資料(概要版・PDF)「年収の壁」への対応社会保険適用拡大特設サイト

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進め方|4ステップ

適用拡大への対応は、順番に進めれば難しくありません。社長がやることは、大きく4段階です。それぞれの詳しい手順は個別の記事で解説しますが、まずは全体の流れをつかんでください。

STEP1:自社がいつから対象になるかを確認する

最初に、自社の順番がいつ来るかを確定します。すでに従業員51人以上なら、2026年10月に予定されている賃金要件の撤廃が最初の節目です。50人以下なら、上のスケジュールで自社の人数がどの年月に当たるかを見ます。法人の場合は同じ法人番号のすべての事業所の人数を合算して数えるため、境界線上にある会社は年金事務所や社会保険労務士に確認しておきましょう。

STEP2:対象になりそうな人を洗い出す

次に、加入対象になりそうな人を一覧にします。週の所定労働時間・雇用の見込み期間・学生かどうかを、パート一人ひとりについて並べてみてください。ここで見落としやすいのが、契約書上の時間と実際の働き方がずれているケースです。実態が繰り返し週20時間を超えているなら、そこも含めて洗い出しておきます。

STEP3:会社の負担がいくら増えるかを試算する

対象者が見えたら、会社の保険料負担がどれくらい増えるかを試算します。保険料率は都道府県や年度で変わるため、必ず最新の料率表で確認してください。人手不足の解消に効くパート・アルバイトの採用と定着|シフトと戦力化の設計の視点と合わせて考えると、単なるコスト増ではなく採用・定着への投資として整理できます。

この試算は、対象者リストと標準報酬月額の見込みがあれば自社で作れます。何を用意し、どの順で計算するかはパートの社会保険加入でコストはいくら増える?|試算の手順でまとめています。数字が出ていない状態で本人に説明を始めると、質問に答えられず不信につながります。

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STEP4:対象になる本人に説明する

最後に、加入対象になる本人へ説明します。本人にとっては「手取りが減る」という一点が最大の関心事です。いつから何が変わるか、代わりに得られる保障は何かを、ごまかさず順番に伝えます。全体説明と個別の金額の話は分けて進めるのがコツです。

説明でいちばん難しいのは、手取りが減る人にどう向き合うかです。制度の趣旨から入ると納得は得られにくく、その人にとって何が増えて何が減るのかを具体的に置くほうが伝わります。伝え方の順番と、よく出る質問への答え方はパートへの社会保険の説明はどう進める?|手取り減に向き合う伝え方で扱っています。

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この4段階の途中で多くの社長が立ち止まるのが「労働時間を20時間未満に抑えて加入を避けるか、加入させて戦力として活かすか」という分かれ道です。抑えれば当面の負担は増えませんが人手は細り、加入させれば負担は増える代わりに長く働ける前提が整います。どちらが向くかは、人手の逼迫度と一人あたりの粗利で判断します。

この判断を、シフトの実務に落とすとどうなるかはシフトを20時間未満に抑えるべきか|人手とコストのどちらを取るかで、抑えた場合に失うものまで並べて整理しています。

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「抑える」か「戦力化」か——2つの道の違い
20時間未満に抑えると
当面の負担は増えない
人手が細る
採用しにくさが残る
加入させて戦力化すると
会社負担は増える
長く働ける
定着につながる

4つのステップを、いつ何をやるかまで落とし込みたい場合は、社会保険の適用拡大に向けた準備|今から始める5つの手順をご覧ください。任意特定適用事業所として先行して加入するという選択肢もあわせて解説しています。

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活用事例|自社の立ち位置別の進め方(ケース別)

同じ「適用拡大」でも、会社の規模と立ち位置によって、今やるべきことは変わります。特定の実在企業ではなく、一般化した4つの想定で見てみましょう。

ケース1|従業員60名ほどのサービス業(すでに51人以上)

2026年10月に予定されている賃金要件の撤廃が最初の節目です。これまで月8.8万円未満に抑えて加入を避けていたパートも、週20時間以上働いていれば加入対象に入ります。影響が出るのが早いため、対象者の洗い出しとコスト試算を先に進め、本人への説明を計画的に始めるのが現実的です。

ケース2|従業員30名ほどの製造業(順番は2029年10月)

「51人以上の話だから、うちはまだ関係ない」と思いがちですが、2027年10月に「36人以上」、その後も基準が下がるため、いずれ順番が来ます。裏を返せば、今は準備期間があるということです。慌てて動く必要はありませんが、対象になる年月の1年ほど前から着手できるよう、下のチェックリストで段取りだけ押さえておきましょう。

ケース3|従業員49名前後の製造業(繁忙期だけ数名増える)

最も見落としが起きやすい立ち位置です。今は50人以下でも、法人番号が同じ複数拠点の人数を合算すると51人を超えることがあり、その瞬間に賃金要件の撤廃が効いてくる側へ回ります。自社の頭数だけで「まだ関係ない」と決めると、対象なのに準備が間に合いません。まず正確な人数の数え方を年金事務所や社会保険労務士に確認し、早めに立ち位置を確定させてください。

ケース4|従業員15名ほどの小売業(順番は2032年10月)

自社の番はかなり先ですが、労使の合意で自主的に加入対象になる「任意特定適用事業所」という選択肢があります。求人票に「社会保険加入」と書けるため、採用力を優先して先行する会社もあります。ただし一度適用されると簡単には戻せないので、人件費への影響と採用のメリットを並べて判断してください。

今から準備しておく4段階
対象時期の確認自社の人数がスケジュールのどこに当たるかを見る
対象者の洗い出し労働時間・雇用期間・学生かを一覧化する
コストの試算最新の料率で会社負担の増加額を見積もる
本人への説明手取りの変化と得られる保障を順番に伝える

もう一つ迷いやすいのが、人数がちょうど境目にある会社です。たとえば従業員49名前後で、繁忙期だけ数名増える製造業。今は50人以下でも、法人番号が同じ複数拠点の人数を合算すると51人を超えることがあり、その瞬間に賃金要件の撤廃が効いてくる側へ回ります。自社の頭数だけで「まだ関係ない」と決めると、対象なのに準備が間に合わない事態になりかねません。境界線上の会社ほど、まず正確な人数の数え方を年金事務所や社会保険労務士に確認し、早めに立ち位置を確定させておくのが安全です。

まとめ

社会保険の適用拡大について、押さえるべき点を3つに整理します。

①先に撤廃されるのは「賃金要件(月8.8万円)」で、時期は2026年10月の「予定」(法律上は政令で定める日を待つ段階)です。「51人未満の会社も対象になる」という説明とは分けて理解すること。②企業規模要件(51人以上)は2027年10月から2035年10月にかけて段階的に撤廃され、50人以下の会社にもいずれ順番が来ること。③やるべきことは「対象時期の確認→対象者の洗い出し→コスト試算→本人への説明」の4段階で、早めに準備するほど選択肢が広がること。

手取り減をやわらげる「保険料調整制度」という受け皿

適用拡大の話が進まない最大の理由は、本人の手取りが減ることです。ここに対して、国は事業主を経由した緩和のしくみを用意しています。保険料調整制度です。

しくみは、事業主が従業員の保険料を一時的に肩代わりし、従業員の負担を通算3年間軽くするというものです。厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトが示す例では、月収8.8万円の場合、従業員の負担は約12,500円から約6,250円に軽くなり、その差額を事業主が一時的に追加で負担します。軽減の割合は月収に応じて変わり、制度を利用する3年目は割合が半分になります。

事業主から見ると負担が増えるように見えますが、追加負担分は一定期間の経過後に調整されるため、最終的に事業主が納付する保険料は増えません。対象になるのは、2026年10月1日以降または2027年10月1日以降に適用拡大の対象となる事業所です。

この制度を知らないまま説明会に臨むと、「手取りが減ります」で話が終わってしまいます。逆に、緩和のしくみとセットで伝えられれば、本人が働き方を選び直す余地が生まれます。手続きや対象者の条件を含めた詳細は保険料調整制度とは?|パートの社会保険料の本人負担を3年間軽くする仕組みでまとめています。

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なお、パート本人が気にしている「壁」は社会保険だけではありません。税の側の扶養の基準は別の制度で動いており、社会保険の壁と混同したまま説明すると話がかみ合わなくなります。両者の切り分けは103万の壁はいつから廃止?2026年は扶養136万・税178万で整理しています。

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制度の細部や金額は改正されることがあります。実際に動く前には、公式情報と専門家への確認を前提にしてください。

参考(厚生労働省):社会保険適用拡大特設サイト 支援制度について社会保険適用拡大特設サイト

最後に

社会保険の適用拡大は、制度としては年月と基準が決まっているだけの、一見すると単純な話に見えます。けれど中小企業の現場では、そう単純にはいきません。保険料の負担は財務に響き、シフトの組み替えは人手の確保に直結し、本人への説明の仕方は定着率を左右します。労務の変更ひとつが、財務・採用・組織のすべてに波及するのが、専任の担当者を置けない5〜50名規模の会社の難しさです。

私たちTalent Partnerが提供する「社長の経営参謀®」は、こうした横断的な課題を、領域を分けずにまるごとお預かりする立場です。就業規則の見直しは社労士、資金繰りは税理士、採用は別の会社——と個別に相談すると、判断がバラバラになり、調整の負担は結局すべて社長に返ってきます。私たちは「加入対象になる人を洗い出し、増える負担を財務の数字に翻訳し、本人への説明会に同席し、採用計画にまで繋げる」ところまで、隣に座って一緒に進めます。

きれいな提案書を置いて帰るのではなく、実際に手を動かす右腕として動くこと。感情論になりがちな社内の話し合いを、客観的な資料で整理して合意へ導くこと。高額なシステムを無理に入れず、今の現場が本当に回せる形にすること。私たちが大切にしているのは、この3つです。適用拡大への対応は、その入り口として取り組みやすいテーマでもあります。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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