Blog ブログ

社会保険料を下げる方法|標準報酬・賞与・選択制DCの設計

財務設計

社会保険料は「会社の隠れた固定費」——正しく下げられる

社会保険料は、会社と従業員が折半で負担する、報酬のおよそ3割にのぼる大きな固定費です。利益を圧迫しているのに、「決まったもの」として見直されないまま放置されている会社は少なくありません。

実は、仕組みを正しく理解すれば、合法的な範囲で社会保険料を最適化できる余地があります。ただし、実態を伴わない極端な報酬操作は否認・遡及のリスクがあるため、「合法の範囲」と「やってはいけない線」をセットで押さえることが大切です。この記事では、標準報酬月額の仕組みから、賞与設計・選択制DCまで、正しい下げ方を整理します。

💡 この記事でわかること:

  • 社会保険料が「標準報酬月額」で決まる仕組み
  • 合法的に最適化できる3つの切り口(4〜6月の報酬・賞与設計・選択制DC)
  • やってはいけない「実態を伴わない報酬操作」の線引き
  • ケース別|自社ならどこを見直せるか

社会保険料は、利益が出ていなくても発生します。法人税と違って赤字でもかかり、人を増やし、給与を上げるほど自動的に増えていく。だからこそ、決算期の節税より先に、毎月の設計そのものを見直す価値があります。

社会保険料はどう決まる?カギは「標準報酬月額」

社会保険料(厚生年金・健康保険など)は、毎月の給与そのものではなく、「標準報酬月額」という等級に当てはめた額をもとに計算されます。厚生年金の保険料率は18.3%、健康保険などとあわせて報酬のおよそ3割を、会社と本人で折半します。

この標準報酬月額は、原則として毎年4月・5月・6月に支払った報酬の平均で決まり(定時決定)、その年の9月から翌年8月まで使われます。つまり、この3か月の報酬が1年間の社会保険料を左右するわけです。ここに、最適化の余地があります。

もう一つ押さえておきたいのが、標準報酬月額が「等級」という幅で刻まれている点です。同じ等級の中なら報酬が多少増えても保険料は変わりませんが、境目を超えると一段上の保険料になります。手当を少し足したつもりが等級をまたぎ、会社と本人の負担が同時に上がる、ということが起こります。

決まるタイミングも4〜6月だけではありません。基本給や役職手当のような固定的な賃金が変わり、その後3か月の平均で2等級以上の差が出れば、年の途中でも改定されます(随時改定)。昇給や手当の新設は、変わった月から3か月分の平均をみて判定されるため、数か月後の保険料に跳ね返ると考えてください。

参考(日本年金機構):標準報酬月額厚生年金保険料額表

合法的に最適化できる3つの切り口

実態を伴う範囲で、社会保険料を抑えられる代表的な切り口は次の3つです。

切り口 内容
① 4〜6月の報酬を平準化 標準報酬月額を決める4〜6月に残業が集中すると、1年間の社会保険料が上がる。繁忙期の調整や残業の平準化で、実態の範囲で抑えられる
② 賞与の回数設計 年3回以下の賞与は「標準賞与額」(上限あり)で計算される。年4回以上支給すると標準報酬月額に算入されるため、回数の設計が効く
③ 選択制の企業型DC(確定拠出年金) 給与の一部を退職金(DC掛金)に振り替えると、その分が報酬から外れ、社会保険料の対象が下がる。国が用意した正式な制度

特に③の選択制DCは、従業員の将来の退職金を作りながら、会社・本人の社会保険料も下げられる正攻法として注目されています。制度導入の手間はありますが、実態を伴う恒久的な仕組みです。

3つとも「社会保険料が下がる」という結論は同じですが、下がる理由も、効き始める時期も違います。判断の前に、それぞれが何をしている制度なのかを押さえておきます。

① 4〜6月の平準化は、1年分の「値札」を決め直す話

4月・5月・6月に支払った報酬の平均が、その年9月から翌年8月までの等級になります。この3か月に年度末の追い込みや期初の繁忙が重なって残業代が乗ると、7月以降まったく残業がなくても、高い等級のまま1年間払い続けることになります。逆に業務の山そのものを均せば、その年の9月から会社の法定福利費と本人の給与天引きが同時に下がります。手を打ってから効き始めるまで数か月の時間差がある点も押さえてください。

② 賞与は「どちらの計算ルールに乗るか」が分かれ目

前提として、賞与にも社会保険料はかかります。ただし月給とは別に「標準賞与額」として支給のつど計算され、そこに上限が設けられています。一方で年4回以上支給すると、その賞与は「報酬」とみなされ、毎月の標準報酬月額に組み込まれます。つまり回数によって、乗る計算ルールそのものが切り替わる。これが「回数設計が効く」の中身です。

③ 選択制DCは、会社の持ち出しではなく給与の「組み替え」

選択制の企業型DCは、給与の一部を掛金に回すか、これまで通り給与で受け取るかを、従業員本人が選ぶ制度です。会社が新たに原資を出すのではなく、既存の給与を組み替える形が基本になります。掛金に回した分は報酬から外れるため、社会保険料の対象額も、所得税・住民税の対象額も下がります。その掛金は本人の年金資産として積み立てられ、原則60歳以降に受け取ります。効き始めるのは組み替え後の給与からで、制度が続く限り毎月効き続けます。

💬 無料相談を受け付けています「自社の場合はどうなるか」を、御社の状況に当てはめて一緒に整理します。無料相談はこちら

やってはいけない「線」を知っておく

一方で、ネット上には「月額報酬を極端に下げ、賞与を年1回に集中させる」といった"裏技"も見かけます。しかし、実態を伴わない極端な報酬操作は、否認されたり、過去にさかのぼって保険料を徴収されたりするリスクがあります。

大切なのは、「働き方や報酬の実態」と「制度上の扱い」が一致していることです。実態のある賞与設計・選択制DC・報酬の平準化は合法ですが、数字だけを操作する手法は避けるべきです。最適化は、必ず社会保険労務士など専門家と、実態を伴う形で進めてください。

そのうえで、3つの切り口は「効き方」も「痛み」も違います。自社にどれが向くかは、ここで分かれます。

3つの切り口は、効き方も痛みも違う
① 4〜6月の平準化
費用ゼロで着手できる。ただし下がるのは、業務の実態を動かした分だけ
② 賞与の回数設計
賞与にも保険料はかかる。月給を下げて寄せると、月々の手取りと給付が減る
③ 選択制DC
続く限り効き続ける。代わりに60歳まで引き出せず、将来の給付も下がる

① 4〜6月の平準化:やりやすいが、効くのは実態を動かした分だけ

メリットは、新しい制度も費用も要らないことです。業務の山を均すだけで、会社の法定福利費と本人の天引きが同時に下がります。一方で、4〜6月だけ機械的に残業を止めるのは実態に反します。動かすべきは受注時期や人員配置であって、数字ではありません。繁忙期が春に固定している会社ほど効果が大きい切り口です。落とし穴は、4月の昇給と、通勤定期の一括支給がちょうどこの3か月に重なりやすいこと。気づかないうちに平均を押し上げていないか、まず確認してください。

② 賞与設計:「賞与に寄せれば得」という単純な話ではない

賞与には支給ごとの上限があるため、報酬水準の高い層では、同じ額を月給に上乗せするより負担が軽くなる場合があります。ただし月給を下げて賞与へ寄せると、本人の月々の手取りが減り、傷病手当金のように月額の報酬をもとに計算される給付も下がります。業績連動で賞与を出している会社には馴染みますが、実態のない減額でつじつまを合わせるだけの会社には向きません。落とし穴は、年4回以上にすると賞与が報酬扱いになり、毎月の等級ごと上がってしまう点です。

③ 選択制DC:恒久的に効くが、「痛み」を説明できるかが分かれ目

掛金に回した分だけ会社と本人の負担が下がり、その分がそのまま本人の退職金原資になります。ここが最大のメリットです。同時に、痛みもはっきりしています。掛金は原則60歳まで引き出せず、選ぶ運用商品によっては元本割れもあり得ます。報酬が下がる以上、将来の厚生年金や傷病手当金など、報酬に連動する給付も下がります。利益が出ていて長く続けられる会社、退職金の仕組みがまだない会社に向きます。落とし穴は説明不足です。「給与を下げられた」と受け取られた瞬間に、この制度は動きません。

💬 実行まで一緒に動きます制度の当てはめから社内への落とし込みまで、右腕として伴走します。相談してみる

活用事例|自社ならどこを見直せるか(ケース別)

よくあるケースで、見直しの切り口を整理します。

ケース1|4〜6月に残業が集中している

定時決定の対象月に残業が偏ると、1年間の社会保険料が高止まりします。業務の平準化や繁忙期の調整で、実態の範囲で標準報酬月額を適正化できないか点検します。

ケース2|賞与の出し方を決めていない

賞与の回数(年3回以下か4回以上か)で保険料の扱いが変わります。実態に合わせて、賞与の回数と金額の設計を見直します。

ケース3|従業員の退職金づくりも課題

選択制の企業型DCを導入すれば、従業員の退職金を作りながら、会社・本人の社会保険料も下げられます。福利厚生と社保最適化を同時に進める王道です。

ケース4|社長個人の負担も見直したい

役員報酬そのものの水準が実態に合っているかを点検します。役員報酬の最適額とあわせて、法人税・所得税・社保をトータルで設計します。

決算前に手元資金を残す節税の打ち手は、決算前にやる節税チェックリスト|手元資金を残す打ち手で取り上げていますので、ぜひご覧ください。

共通するのは、「実態を伴う正攻法だけを使う」ことです。数字の操作ではなく、報酬・賞与・退職金の設計を実態に合わせて整えることが、安全で持続する社会保険料の最適化になります。

たとえば社員20名ほどの製造業では、年度末の納期対応で3月から残業が伸び、そこに4月の昇給と、6月の通勤定期の一括支給が重なります。4〜6月の平均だけが跳ね上がり、仕事が落ち着く秋も冬も、高い等級のまま払い続ける。ケース1は、こういう形で起きています。

着手の順番は、効果の大きさではなく「いつ手を付けられるか」で並べると迷いません。ケース1は今期の業務の組み方を見直すところから始められます。ケース2は次の賞与から設計を変えられます。ケース3の選択制DCは、規程の整備や運営管理機関の選定に時間がかかるため、いま検討して来期から、という時間軸になります。

まとめ

① 社会保険料は「標準報酬月額」で決まる

報酬そのものではなく等級で計算され、原則4〜6月の報酬で1年間が決まります。ここに最適化の余地があります。

② 合法の切り口は「報酬の平準化・賞与設計・選択制DC」

実態を伴う範囲で、社会保険料を抑えられます。特に選択制DCは、退職金づくりと社保最適化を両立できる正攻法です。

③ 「実態を伴わない操作」は避ける

極端な報酬操作は否認・遡及のリスク。数字ではなく実態を整える形で、専門家とともに進めることが大前提です。

社会保険料は毎月の固定的な支出なので、削れた分はそのまま資金繰りに効きます。返済条件の見直しなど他の打ち手と合わせてどれだけ動くかは、中小企業の資金繰り改善でまとめています。

✓ あわせて読みたい中小企業の資金繰り改善|返済を半分にした交渉と原資の作り方中小企業の資金繰り改善は、打ち手の順番で結果が変わります。資金繰り表で3か月先を見る方法、借入の一本化と銀行交渉の進め方、単価と回収の見直し…

最後に

社会保険料の見直しや、役員報酬・退職金とあわせた設計について、「自社ならどこを合法的に最適化できるか」とお悩みであれば、お気軽にご相談ください。実態を伴う正攻法の範囲で、社会保険労務士とも連携しながら、無理のない見直しをご一緒に整理します。

無料相談・お問い合わせはこちら

この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

CONTACT お問い合わせ

日々全力で事業に取り組む経営者の想いに寄り添い、目標に向かって伴走させていただきます。
まずはお気軽にご連絡ください。