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中小企業の資金繰り改善|返済を半分にした交渉と原資の作り方
目次
売上は落ちていないのに、月末になると資金が足りない
決算では利益が出ている。売上も前年並みを保っている。それなのに月末が近づくと通帳の残高が気になって仕方がない。支払いの順番を頭の中で組み替え、入金予定を何度も確認する——こうした状態が続いていませんか。
顧問税理士に相談しても、返ってくるのは終わった期の数字の説明です。決算書は過去の記録なので、来月の資金が足りるかどうかは教えてくれません。資金繰りは、利益とは別の仕組みで動いているからです。
結論から言えば、資金繰りの改善は打ち手の順番で結果が変わります。先に手をつけるべきは「出ていくお金」で、なかでも借入の返済です。売上を増やす取り組みは効果が出るまで時間がかかりますが、返済条件の見直しは交渉が通れば翌月から効きます。この記事では、当社が伴走した製造業・建設業の実例をもとに、どの順番で何をすると資金が残るのかを整理します。
💡 この記事でわかること:
- ●利益が出ているのに資金が足りなくなる3つの理由
- ●資金繰り表で3か月先を見る、最小限の作り方
- ●借入の一本化と返済条件の見直しで返済額を下げた実例
- ●銀行交渉に持っていく資料と、話す順番
- ●計画づくりの費用を3分の2まで補助する公的な制度
そもそも資金繰りとは|利益が出ていても現金は減る
資金繰りとは、会社に入るお金と出るお金のタイミングを合わせ、支払いに必要な現金を切らさないようにすることです。利益とは別物で、黒字でも資金が尽きれば会社は止まります。
利益と現金がずれる理由は3つあります。
このうち中小企業でいちばん重いのが、2番目の借入金の元本返済です。損益計算書に出てくるのは利息だけで、元本は現れません。「利益は出ているのに金が残らない」と感じるとき、その差の多くはここにあります。
年間の返済額が利益と減価償却費の合計を超えていれば、その会社は構造的に現金が減り続けます。まずこの数字を確かめてください。決算書のどこを見るかは資金ショートは事前に防げる?|経営者が見るべき決算書の3指標に3つの指標としてまとめています。
まず資金繰り表で3か月先を見る
資金繰りの改善は、現状を数字で見えるようにするところから始まります。ただし最初から精緻な表を作ろうとすると、たいてい途中で挫折します。
最小限、次の項目があれば3か月先の資金は見通せます。
大事なのは精度ではなく、元本返済を独立した行にすることです。ここを人件費や経費と混ぜてしまうと、資金が減っている原因が見えなくなります。
入金は「回収サイトごと」に分けて書く
資金繰り表でつまずきやすいのが、売上の入金をひとまとめに書いてしまうことです。同じ100万円の売上でも、末締め翌月末払いの取引先と、末締め翌々月末払いの取引先では、現金になる月が1か月ずれます。
取引先を回収サイト別に3つ程度のグループに分け、それぞれ別の行にしてください。手形で受け取っている取引があれば、それも独立させます。手元に現金として使えるようになるのは支払期日であって、売上を計上した月ではありません。
支払い側も同じです。仕入や外注費は、締めてから支払うまでに何日あるか。人件費と社会保険料は毎月ほぼ固定で出ていきます。賞与や税金のように年に1〜2回だけ大きく出るものは、その月に集中して書き、平準化しないでください。平らにならすと、いちばん危ない月が見えなくなります。
この粒度で3か月ぶん書けば、資金がどの月に細るかが分かります。エクセルで十分で、専用のソフトは要りません。
小売業の会社では、来店客数の減少と借入返済の負担が重なって資金繰りが苦しくなっていました。最初に着手したのがキャッシュフローの可視化です。毎月いくら入っていくら出ているのかを1枚にした時点で、社長自身が「返済の重さ」を初めて具体的な金額として認識しました。数字が見えると、次に何を交渉すべきかが決まります。
3か月先まで書いてみて、どこかの月でマイナスになるなら、その月の3か月前が交渉の期限です。残高が減りきってから銀行に相談に行くと、選べる手段が減ります。
打ち手の順番|出ていくお金から手をつける
資金繰りの相談を受けたとき、当社が確認する順番は決まっています。効果が出るまでの時間が短いものから着手するためです。
多くの会社は5番から手をつけようとします。売上さえ増えれば解決すると考えるからです。しかし新規開拓は成果が出るまでに時間がかかるうえ、売上が増えると仕入や人件費が先に出ていくため、短期的にはむしろ資金繰りが苦しくなります。
順番を逆にして、まず出ていくお金から止める。時間を稼いでから、単価と売上に取り組む。この順番だと、改善の実感が早く出るため社内も動きやすくなります。
固定費は「効果が大きい順」に3つだけ見る
固定費の見直しというと経費の細かい削減を思い浮かべがちですが、金額が動くのは限られた項目です。次の3つから順に確認してください。
1つ目は役員報酬です。社会保険料は会社と本人の折半なので、報酬を下げれば会社側の負担も同時に下がります。ただし年度の途中では原則として変更できず、事業年度開始から3か月以内という制約があります。決算の前に翌期の水準を決める、という段取りが必要です。
2つ目は法人保険です。返戻率の低い契約や、加入した経緯が思い出せない契約が残っていないか確認します。保障の必要性は変わっているのに、契約だけが当時のまま続いているケースは珍しくありません。解約すると解約返戻金が益金になるため、退職金の支給時期と合わせて設計します。
3つ目は継続契約です。使っていないシステムの月額、実態に合わない賃借、惰性で続いているリース。1件あたりは小さくても、年額に直すと無視できない金額になります。
建設業の会社では、この3つの見直しで年間400万円以上の改善につながりました。決算前の点検項目は決算前にやる節税チェックリスト|手元資金を残す打ち手と優先順位に一覧でまとめています。
借入を整理する|一本化と返済条件の見直し
複数の金融機関から借り入れていると、返済日も条件もバラバラで、全体としていくら返しているのかが把握しにくくなります。まず借入の一覧を作り、残高・金利・返済期日・保証の有無を1枚に並べてください。
複数の借入が重なり、年間の返済額は1,740万円。営業利益では返しきれない構造でした。借入を一本化して返済期間を組み直したことで、年間返済額は1,100万円まで下がりました。あわせてメイン取引先との価格交渉に取り組み、受注単価が5.4%改善して営業利益が黒字に転じています。返済の圧縮と単価の改善をあわせ、年間1,500万円以上の資金繰り改善につながりました。
一本化は万能ではありません。返済期間を延ばせば毎月の負担は下がりますが、支払う利息の総額は増えます。また、複数行との取引を1行にまとめると、その1行の方針に自社の資金調達が左右されます。判断の基準は借入の一本化で資金繰り改善|借りまとめの判断基準と交渉手順に整理しました。
食肉製造の会社では、先代から引き継いだ借入の返済で資金が残らない状態が続いていました。返済プランの見直しと金融機関との交渉、あわせて取引先との価格交渉に取り組んだ結果、約3か月で資金繰り改善の見通しが立ちました。承継した借入は条件が古いまま残っていることが多く、見直しの余地が残っています。
銀行と交渉する|何を持っていくか
返済条件の見直しは、口頭の相談では進みません。金融機関が判断できる材料を揃えて持っていく必要があります。
| 持っていくもの | 何を示すか |
|---|---|
| 資金繰り表(実績3か月+予定6か月) | いつ資金が足りなくなるか |
| 借入一覧 | 全体の返済負担と各行の位置づけ |
| 月次試算表 | 直近の損益。決算を待たない |
| 改善策と実行時期 | 何をいつまでにやるか |
| 改善後の返済計画 | 見直し後にいくら返せるか |
「返せません」ではなく「この計画なら返せます」を持っていくことが交渉の要点です。金融機関が困るのは返済が滞ることであって、条件の変更そのものではありません。
建設業の会社では、この資料を揃えて交渉した結果、年間の返済額が1,000万円から712万円まで下がりました。あわせて役員報酬の水準を見直し、返戻率の低い法人保険を整理したことで、年間400万円以上の資金繰り改善につながっています。役員報酬の決め方は役員報酬はいくらが最適?|社会保険料と手取りのバランス、社会保険料の見直しは社会保険料を下げる方法|標準報酬・賞与・選択制DCの設計にまとめています。
なお、融資そのものが通らない場合は、資金繰り以前に決算書の見え方に原因があることがあります。銀行がどこを見ているかは売上があるのに融資が通らない理由|銀行が見るポイントと俯瞰図で整理しました。
相談に行くタイミングと、避けたい伝え方
交渉に適したタイミングは、資金が尽きる3か月以上前です。残高が細ってから駆け込むと、金融機関の側も検討する時間が取れず、選べる手段が限られます。決算書ができた直後も、話を持ちかけやすい時期です。数字の説明と改善の相談を一度に済ませられるためです。
避けたいのは、悪い数字を小出しにすることです。追加の情報が後から出てくるたびに信頼は下がり、そのぶん条件は厳しくなります。最初に全体を開示したうえで、改善策とセットで話すほうが、結果として通りやすくなります。
複数行と取引がある場合は、まずメイン行に相談し、そこで方針が固まってから他行へ説明する順番が基本です。各行に別々の話をすると、金融機関どうしの調整で時間を失います。返済条件の見直しは全行が足並みを揃える必要があるため、誰が音頭を取るかを最初に決めてください。
同席する専門家がいる場合、その人が認定経営革新等支援機関かどうかも確認しておくと、次に説明する公的な制度が使えます。
交渉の費用は、公的な制度で3分の2まで補助される
計画づくりや金融機関との交渉を専門家に依頼する場合、その費用の一部を国の制度で賄えます。認定経営革新等支援機関が経営改善計画の策定を支援する事業があり、費用を中小企業活性化協議会が負担する仕組みです。
| 制度 | 補助の内容 |
|---|---|
| 早期経営改善計画策定支援 | 費用の3分の2(上限80万円)。内訳は計画策定50万円・伴走支援30万円。企業概要書の作成、経営者保証の解除に取り組む際の金融機関交渉費用は各10万円が上限(任意) |
| 経営改善計画策定支援(通称:405事業) | 費用の3分の2(通常枠は上限300万円)。内訳はデューデリジェンス・計画策定200万円・伴走支援100万円。金融機関交渉費用は上限10万円(任意) |
前者は「金融支援を伴わない段階で早めに手を打つ」場合、後者は「金融支援を伴う本格的な改善が必要な」場合に使います。中小企業活性化協議会は、都道府県庁所在地の商工会議所や県の公益財団法人等(認定支援機関)に設置されている公的な機関で、まずここに相談してから支援機関を選ぶこともできます。
どちらの制度も、計画を作って終わりではありません。策定後の伴走支援まで含めて費用の対象になっているのは、計画が実行されて初めて資金繰りが変わるからです。金融機関に提出した計画と実績がずれたときに、どう説明して立て直すか——そこまでを設計に含めておいてください。
参考(中小企業基盤整備機構):経営改善計画策定支援事業
入ってくるお金を増やす|回収を早め、単価を上げる
出ていくお金の手当てで時間を稼いだら、入ってくる側に取り組みます。ここは効果が出るまでに時間がかかるぶん、着手が遅れるほど後になって効いてきます。
回収を早めるのは、売上を増やすより確実です。同じ売上でも、入金が2か月早いだけで必要な運転資金は大きく変わります。締め日と支払日の条件、手形の有無、前受金の設定——契約時に決まったまま何年も見直していない条件が残っていないか確認してください。
回収条件は、取引開始時のまま放置されている
回収サイトは、最初の取引が決まったときの条件がそのまま続いていることがほとんどです。当時は新規の取引を取ることが優先で、支払条件まで交渉する余裕がなかった。その後に取引量が増えても、条件だけは据え置かれている——という経緯をよく見ます。
見直しを切り出す順番は、取引量が増えた先からです。「おかげさまで取引が増えたので、支払条件を他社と揃えさせてほしい」という言い方であれば、関係を損ねずに話ができます。全社一斉に変えようとせず、まず1社か2社で通してから広げてください。
工事や製造で着手から納品まで期間が空く場合は、着手金や中間金の設定も検討します。材料の仕入れが先に発生する取引ほど、前受けの有無が資金繰りを左右します。
単価の改善は、材料費や労務費の上昇分を取引先に転嫁できているかという話です。原価が上がっているのに単価が据え置かれていれば、粗利は確実に痩せます。まず自社の原価を工程別・現場別に把握するところから始めます。
設備投資を控えている場合は、資金繰りの改善と調達の設計を切り離さないでください。補助金・融資・自己資金をどの順で組み合わせるかで手元資金の残り方が変わります。考え方は設備投資の資金調達|補助金・融資・出資を組み合わせる順番、銀行と公庫の使い分けは設備投資の融資|銀行と公庫の使い分けと交渉を有利にする座組みにまとめています。
金融機関から見た自社の状態を客観的に整理したい場合は、ローカルベンチマークとは?|中小企業の「健康診断」6指標が使えます。国が示す6つの指標に沿って自社を点検できるため、交渉資料の下地にもなります。
改善の見通しが立ったら、次は3年先を描く番です。中期経営計画の作り方|無料テンプレートと策定費用の2/3補助で、計画に落とし込む手順をまとめています。
来店客数の減少と借入返済の負担が重なり、資金繰りが逼迫していました。まずキャッシュフローを可視化し、そのうえで借り換えの交渉と経費の見直しを並行。固定費を落として毎月の資金の出方を整えたうえで、ブランディングの再設計に着手しました。順番として、先に資金の出血を止めてから売上側に取りかかったことで、腰を据えて店づくりに取り組めるようになったケースです。
当社は認定経営革新等支援機関として、資金繰り表の作成から金融機関との交渉資料づくり、交渉の同席までを資金繰り改善の支援としてお手伝いしています。
まとめ|3か月あれば、見通しは立てられる
資金繰りの改善は、順番を守れば短期間で手応えが出ます。
1. 資金繰り表で3か月先を見る——元本返済は必ず独立した行にする2. 借入の返済を軽くする——一本化と条件変更。交渉が通れば翌月から効く3. 固定費を見直す——役員報酬、返戻率の低い保険、使っていない契約4. 回収を早める——締め日と支払日の条件は、契約時のまま放置されがち5. 単価を上げる——原価を工程別に把握してから交渉に入る
金融機関との交渉は、資料を揃えれば通る余地があります。「返せません」ではなく「この計画なら返せます」を持っていくことが要点で、その計画づくりには費用の3分の2を補助する公的な制度も使えます。
残高が減りきってからでは、選べる手段が限られます。3か月先の資金に不安があるなら、その時点が相談のタイミングです。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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