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新入社員がすぐ辞める会社の特徴丨業務の可視化で離職防止
目次
「今日から来るらしい」——歓迎されないまま、新人が辞めていく
朝、出社すると見慣れない人が立っています。「あれ、どなただろう」と思っていると、社長が「今日から来てもらう人」と短く紹介して、そのまま自分の仕事に戻っていく。教える担当も、座る席も、何をどの順番で覚えてもらうのかも決まっていません。とりあえず先輩の配達に同乗させるものの、車内で交わす言葉は少なく、新人は「自分は何のためにここにいるのか」が分からないまま一日を終える——。
あなたの会社では、こんな光景に心当たりはないでしょうか。
これは、冠婚葬祭向けの花を扱う、従業員10名ほどのK社で実際に起きていたことです。葬儀用の供花やアレンジメントを手がけ、社員は配達・店舗・事務を一人で掛け持ちしています。採用面接の合否を知っているのは社長だけ。「明日から人が来る」と現場が知るのは早くて前日、ときには当日の朝、というのが当たり前になっていました。
なぜ、採用しても新人が数か月ともたずに辞めていくのか。多くの会社はこれを「教育制度がないから」「コミュニケーション不足だから」と片づけます。けれど本当の原因は、もっと手前にあります。
先に結論をお伝えします。新人が定着しないのは、教え方が下手だからでも、若手の根性が足りないからでもありません。会社の業務の全体像を、社長を含めて社内の誰も言語化できていないからです。全体像が見えないから「誰が・何を・どの順番で教えるか」が決まらず、採用情報すら共有されない。この記事では、その根っこをどうほぐしていくのかを、私たちが実際の面談で行ったことを通してお伝えします。
💡 この記事でわかること:
- ●新人がすぐ辞める会社に共通する「業務フローが見えていない」という根本原因
- ●「マニュアルを作ろう」が何年もうやむやに終わってきた本当の理由
- ●業務の棚卸しを“その場で”始める、最初の一歩の進め方
「見て覚えろ」が、もう通用しなくなっている
K社の社長は、長く現場に立ってきた叩き上げの方です。花の仕事の段取りは体に染み付いていて、聞けば一つひとつ正確に答えが返ってきます。ただ、それを言葉にして人に渡す習慣がありません。採用も、業務指示も、段取りも、すべて社長の頭の中だけで完結してしまっているのです。
「見て覚えろ」は、社長自身がそうやって仕事を覚えてきた、自然なやり方でした。けれど今、それが通用しなくなっています。背中を見て盗める人ばかりではありませんし、そもそも忙しく動き回るベテランの背中を、新人がじっくり見られる場面はそう多くありません。ベテラン自身も「教えること」を自分の役割だとは思っていない。全員が複数の部門を兼任しているため、誰も「教える時間」を物理的に持てない構造にもなっていました。
新人教育を習熟度設計で仕組み化した実例は、製造業の新人教育|習熟度設計と助成金の活用で取り上げていますので、ぜひご一読ください。
現場を仕切るBさんは、口数こそ多くないものの、核心を突くことを言います。「意欲だけでは、正直どうにもならない。意欲はその後についてくるもの」。やる気のある人を採ればなんとかなる、という発想ではなく、ロスが起きないための仕組みを先に用意して、そこから逸脱しないよう指示できれば、防げるトラブルは本来防げるはずだ——そう考えていました。仕組みが先、意欲は後。これは本質を突いた理解です。
私たちはこのとき、こんな例え話をしました。国語も算数も習っていない子に「来月、大学入試があるから今から受験勉強して」と言っても無理です。バク宙だって同じで、まず体を後ろに倒す動きを覚え、後転ができて、バク転ができて、その勢いでようやくバク宙に挑戦できる段階がやってくる。基礎を飛ばして応用だけをやらせているのに「できないのは本人の問題」とするのは、やはり酷な話です。新人がすぐ辞めるのも、構造はこれとよく似ています。
問題は「人」ではなく、業務が「見えない」こと
問題意識が高かったのは、整理と言語化が得意な副代表のAさんでした。私たちが状況を紐解いていくと、すぐに「確かにそうだ」と共鳴し、自分の観察を重ねてくれます。Aさんはこう言いました。「私が新人だったら、絶対に嫌だなと思う職場環境です」。この一言に、すべてが詰まっていました。
ここで一度、私たちが第三者の視点で状況を整理すると、ひとつの構造が見えてきました。新人が定着しない(人材)という表面の悩みは、教える時間を誰も持てない(労務)という負荷の集中から来ていて、その根っこには、業務の全体像が社長の頭の中にしかない(経営)という不可視の問題が横たわっている。三つは別々の悩みではなく、一本の線でつながっていたのです。
社長は「そもそも新人が来るとき、自分も把握しきれていないことがある。どこで何をやってほしいかを周りに共有していないから、みんなどうしたらいいか分からず、結局ほうっておくことになる。社長ひとりが分かっていても、周りが分からなければ意味がない」と率直に語ってくれました。採用面接で「こういう人が来る」と決めた情報は、本来なら全員に共有されてしかるべきものです。それが共有されないのは、共有を妨げる悪意があるからではなく、業務そのものが言葉になっていないからでした。

つまり、「マニュアルが作れない」という長年の悩みの正体は、文章力の問題でも、時間がないことでもありません。書き出すべき業務の全体像を、誰も把握していないことそのものだったのです。
その場でスプレッドシートを開き、工程を分解する
そこで私たちは、提案書を後日持ってくるのではなく、面談のその場でスプレッドシートを立ち上げました。葬儀の供花が一件入ったら、注文受付から始まって、素材準備、作成、配達、会場での陳列・装飾、当日の追加作成、撤収、最後の仕分けまで、どんな工程をたどるのか。社長とBさんに一つずつ聞きながら、その場で入力し、それぞれの所要時間も一緒に出していきました。
書き出してみると、葬儀一件がほぼ一日がかりの仕事量であることが、初めて数字で見えてきました。
| 工程 | 内容 | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| 準備 | 材料・道具のセット | 約15分 |
| 作成 | アレンジの制作 | 約2時間 |
| 配達 | 会場までの往復 | 約1時間半 |
| 陳列 | 会場での設置 | 10〜30分 |
| 装飾 | 仕上げの装飾 | 1〜1.5時間 |
| 追加作成 | 当日の追加対応 | 1本あたり約10分 |
| 撤収・仕分け | 片付け・分別 | 30分〜2時間 |
この一覧ができた瞬間に、議論が一気に具体的になりました。「この工程のこの部分なら、新人にすぐ任せられる」「材料のセット置き場を一か所に集約すれば、準備の15分がもっと短くなる」。教えるべき内容も、任せられる範囲も、これまでは「なんとなく」でしか語れなかったものが、工程という地図の上に置けるようになったのです。
新人が育つ組織の土台づくりは、立派な研修プログラムを外から買ってくることではなく、まず自社の業務を一度ぜんぶ書き出してみることから始まります。地図がなければ、どこを歩かせればいいかも教えようがありません。
「あ、こうすればいいのか」——詰まりが取れた瞬間
棚卸しが進む途中で、Aさんがふと手を止めて言いました。「マニュアルという話は過去にも何度も出たんです。でも、結局どうやって作ればいいんだ、という問題に入って、文章にできなくて、そのままうやむやになっていました。今こうして見せてもらって、あ、こうしたらいいんだ、と聞きながらずっと思っていました」。
何年もほどけなかった結び目が、ようやくほどけた瞬間でした。難しかったのは作る意志ではなく、最初のとっかかりだったのです。

ここまで詳細に日々の業務を棚卸しできたことで、これまで社長の頭の中だけにあった一日の流れが、社員みんなが見て、書き込める形になりました。私たちはこのスプレッドシートを副代表のドライブに共有し、工程の細かい部分は現場の皆さんに書き足してもらうことを次の宿題にしました。現場の感覚を反映しながら、自分たちの手で育てていけるマニュアルの土台ができたのです。
「その人しかできない」状態をなくす標準化・マニュアル化の進め方は、業務の標準化・マニュアル化とは?|属人化を解消する進め方にまとめていますので、あわせてご一読ください。
次回は「なぜマニュアルを作るのか」——人手不足を解消し、新人が定着し、育っていく、というつながりを社員全員が腹落ちできるよう、説明のための台本もお渡しする約束をしました。仕組みは、作る理由が共有されて初めて、現場で生き続けます。
半年後、新しく入った人が「今日は自分がこの工程を覚える日だ」と分かって出社できる。先輩も「この部分を任せよう」と迷わず言える。社長が一人で抱えていた段取りが、会社の共有財産になっていく。その景色は、もう手の届くところにあります。
まとめ
新人がすぐ辞める会社で本当に起きていることを、三点に整理します。
① 辞める原因は「教育」ではなく、その手前の「業務の不可視」にある
教え方やコミュニケーションを改善する前に、そもそも教えるべき業務の全体像が言葉になっているかを問う必要があります。地図のない場所では、案内のしようがありません。
② マニュアルが作れないのは、文章力ではなく「棚卸し不足」が理由
何年もうやむやになってきたのは、意志が弱いからではありません。書き出す対象である工程そのものが、社長の頭の中にしかなかったからです。まず一日の仕事を全部出すことが、最初の一歩になります。
③ 人材の悩みは、経営の課題に直結している
「人が定着しない」は、突き詰めると「業務が見えていない」という経営の問題です。採用・教育・労務負荷は別々ではなく、一本の線でつながっています。
最後に
採用してもすぐ辞めてしまう、新人を育てたいのに誰も教える余裕がない、マニュアルの話が何度出ても形にならない——もし同じような行き詰まりを感じているなら、その原因は人ではなく、業務がまだ見えていないことにあるのかもしれません。
アドバイスをして資料を置いていくだけでは、現場は変わりません。中に入って、一緒に業務を書き出し、泥臭く手を動かしてこそ、組織は動き始めます。自社の業務の棚卸しをどこから始めればいいか迷っているなら、まずは一度ご相談ください。あなたの会社の一日を、一緒に地図にするところからお手伝いします。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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