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小規模企業共済とは?|退職金と節税、倒産防止共済との使い分け
目次
経営者の退職金は、実は「国の制度」で積める
会社員には退職金があるのに、経営者や個人事業主には退職金がない——そう思い込んでいる方は少なくありません。しかし、国が用意した「経営者のための退職金制度」があります。それが小規模企業共済です。
節税手段としても優秀で、掛金は全額が所得控除の対象になります。同じ中小機構が運営する倒産防止共済(経営セーフティ共済)と混同されがちですが、目的も、効く税金もまったく違います。両方を正しく使い分けると、手元にお金を残しながら将来の備えを積み上げられます。
この記事では、小規模企業共済の仕組みと3つの税メリット、受け取り方による税金の違い、そして倒産防止共済との使い分けまで、中小機構の情報をもとに整理します。
💡 この記事でわかること:
- ●小規模企業共済が「経営者の退職金+節税」になる仕組み
- ●掛金と受け取り方(一括・分割)で税金がどう変わるか
- ●倒産防止共済(経営セーフティ共済)との目的・税務の違いと使い分け
- ●加入前に知っておきたい「元本割れ」の注意点
そもそも小規模企業共済とは?経営者のための「退職金制度」
小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、小規模企業の経営者・役員・個人事業主のための積み立て型の退職金制度です。全国で約159万人が加入しています。
掛金は月1,000円〜70,000円の範囲で、500円単位で自由に設定できます(あとから増額・減額も可能)。加入できるのは、業種により常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業などは5人以下)の個人事業主や会社の役員などです。
ポイントは、これが「自分の退職金を、税優遇を受けながら積み立てる」制度だということ。廃業や退任のときに、積み立てた分を退職金として受け取れます。
会社員の退職金は会社が積み立ててくれますが、経営者や個人事業主には、その仕組みがそもそもありません。引退後の生活資金は、自分で計画的に用意しておく必要があります。小規模企業共済は、その「経営者版の退職金」を、国の外郭団体である中小機構が運営する公的な枠組みの中で積み立てられる点に安心感があります。民間の貯蓄型保険のような営業目的の商品ではなく、小規模事業者の廃業・引退後を支えるために国が用意した制度だという位置づけを、まず押さえておきましょう。
小規模企業共済「3つの税メリット」
小規模企業共済が「使いやすい節税手段」と言われるのは、次の3つのメリットがあるからです。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| ① 掛金が全額「所得控除」 | 支払った掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得から差し引けます。年間最大84万円(月7万円×12)。所得税・住民税が軽くなります。 |
| ② 受け取り時も税優遇 | 一括受取は「退職所得」、分割受取は「公的年金等の雑所得」として扱われ、いずれも控除が大きく税負担が軽くなります。 |
| ③ 契約者貸付が使える | 積み立てた範囲内で、事業資金などを低利で借りられる貸付制度があります。いざというときの資金の逃げ道にもなります。 |
メリットが「所得の高い社長」ほど効く理由
所得税は、所得が高いほど税率が上がる累進課税です。そのため、掛金の全額所得控除は誰でも同じ額が得になるのではなく、利益が出て所得の高い社長ほど、軽くなる税額が大きくなります。逆に、所得の低い年は控除できる相手の税金が小さく、効果は薄くなります。「入れれば必ず得」ではなく、利益が出ている年ほど効く仕組みだと押さえておきましょう。
デメリットは「お金が拘束される」こと
積み立てたお金は、すぐには自由になりません。原則として廃業・退任などの事由がないと受け取れず、途中で自己都合の任意解約をすると元本割れの恐れがあります。掛金は運転資金にも戻せないため、手元の資金余力を削ってまで満額を積むと、いざというときの資金繰りをかえって圧迫してしまいます。
向いている会社・慎重に考えたい会社
向いているのは、利益が安定して出ていて、長く続けられる見通しのある社長です。反対に、資金繰りがまだ不安定で、数年内に解約するかもしれない会社は、節税効果よりも元本割れのリスクが先に立ちます。
見落としやすい落とし穴は「出口の税金」
一括受取で使う退職所得控除は、会社から受け取る役員退職金と同じ「退職所得」の枠を使います。両方を近い時期に受け取ると、控除の枠を十分に使えず、思ったほど手取りが軽くならないことがあります(複数の退職金を近接して受け取ると、控除の重複を調整する仕組みがあるためです。対象となる期間はルールが細かく、改正もあるため、受け取る時期は税理士に確認してください)。入口の所得控除だけで判断せず、受け取る時期と方法まで含めて設計することが欠かせません。
参考(中小機構):小規模企業共済とは / 掛金について / 税制メリット(J-Net21)
倒産防止共済との違いと「使い分け」
小規模企業共済とよく混同されるのが、同じ中小機構が運営する経営セーフティ共済(倒産防止共済)です。名前も運営元も似ていますが、目的も、効く税金もまったく違います。
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済(倒産防止共済) |
|---|---|---|
| 目的 | 経営者自身の退職金づくり | 取引先の倒産による連鎖倒産の防止+資金プール |
| 掛金の税務 | 全額「所得控除」(個人の所得税・住民税が下がる) | 全額「損金・必要経費」(会社・事業の利益を圧縮) |
| 掛金の上限 | 月7万円(年84万円) | 月20万円(累計800万円) |
| 受け取り | 退職・廃業時に退職金として | 取引先倒産時の借入、任意解約で解約手当金 |
決定的な違いは、小規模企業共済が「個人の所得控除」、倒産防止共済が「会社(事業)の損金」だという点です。効く税金が違うので、どちらか一方ではなく、両方を組み合わせるのが基本の考え方になります。なお、倒産防止共済が満額(800万円)に達したあとの"次の一手"については、倒産防止共済が満額になったら?一時貸付・全部解約で採用資金を動かす方法で詳しく解説しています。
そもそも倒産防止共済が「何をする制度なのか」を、もう少しかみ砕いておきます。これは、取引先が倒産して売掛金や受取手形が回収できなくなったとき、自社まで連鎖倒産しないよう、納付した掛金総額の10倍(上限8,000万円)まで、無担保・無保証でお金を借りられる制度です。毎月の掛金は掛け捨てではなく積み立てられ、いざというときの資金プールとしても機能します。
お金の流れはこうです。払った掛金はその期の損金(経費)になり、会社の利益を圧縮して法人税を抑えます。ただし、これは税金が消えるのではなく先送りされるだけで、解約したときには解約手当金が益金(利益)として戻ってきます。納付月数が一定期間(40か月)以上あれば、掛金は全額が戻ります。
つまり倒産防止共済は、取引先の倒産に備えながら、利益が出た年の税負担を将来へ繰り延べる制度です。効くのは「今期の会社の利益」に対してであり、経営者個人の所得に効く小規模企業共済とは、お金が動く場所そのものが違います。
参考(中小機構):経営セーフティ共済(倒産防止共済)
活用事例|自社ならどう使うのが一番いいか(ケース別)
制度の中身がわかっても、社長が本当に知りたいのは「自社ならどう使うのが一番得か」でしょう。よくある4つのケースで、活用の型を整理します。金額は考え方を示すための例です。
将来の退職金がゼロの状態を、まず埋めるケースです。月1〜3万円から始め、利益が伸びた年に増額していきます。掛金は全額が所得控除になるので、その年の所得税・住民税を軽くしながら退職金を積み立てられます。資金繰りが厳しい年は減額もできるため、無理なく続けられます。
「25年後に引退して、退職金として1,200万円ほど受け取りたい」——このようにゴール(出口)の金額から逆算し、必要な掛金(この例なら月3.5万円前後)を決める使い方です。ゴールから入口を設計するので、目的が明確になり、続けやすくなります。
小規模企業共済は「個人の所得控除」なので、掛金は役員報酬の中から出す形になります。ここで見落としがちなのが社会保険料です。掛金の分を役員報酬に上乗せすると、その分の社会保険料も増えてしまいます。「所得控除で軽くなる税金」と「増える社会保険料」を天秤にかけ、手取りベースで得になる掛金額を決めるのがコツ。役員報酬の設計とセットで考えるのが、法人の社長の正解です。
最も効果が大きい王道パターンです。会社では倒産防止共済(掛金は損金)で利益を圧縮しつつ、社長個人は小規模企業共済(掛金は所得控除)で退職金を積む。会社の法人税と個人の所得税、両方に同時に効かせるのがねらいです。利益が出ている会社ほど、この両建ての効果が大きくなります。
共済・保険・内部留保をどう組み合わせて退職金を積むかは、役員退職金は何で積む?|小規模共済・法人保険・内部留保を比較で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
4つに共通するのは、「掛金の全額所得控除」という入口の効果だけで判断しないことです。受け取り(出口)の税金と、法人なら社会保険料まで通して設計する。自社の利益水準と引退時期に合わせて、掛金額と受け取り方をセットで決めるのが、最も損のない使い方になります。
受け取り方で税金が変わる|一括・分割・併用
小規模企業共済は、受け取り方によって税金の扱いが変わります。ここを知らずに受け取ると、手取りが大きく変わってしまいます。
- ●一括受取:「退職所得」扱い。退職所得控除が使え、さらに残りの2分の1だけが課税対象になるため、税負担が大きく軽くなります。
- ●分割受取:「公的年金等の雑所得」扱い。公的年金等控除が使え、年金のように分けて受け取れます。
- ●一括+分割の併用も選べます。
どの受け取り方が有利かは、役員退職金の受取や公的年金の状況によって変わります。退任・廃業の時期とあわせて、出口まで設計しておくのがポイントです。
なぜ受け取り方で税金が変わるのか、その前提も押さえておきましょう。一括受取で使える退職所得控除は、掛金を納めた年数が長いほど大きくなります。長く積み立てた人ほど、出口で有利になる設計です。注意したいのは、この退職所得控除の枠が、会社から受け取る役員退職金と同じ「退職所得」の枠を共有する点です。近い時期に両方を受け取ると、控除の重複を調整する仕組みが働いて枠を十分に使えないことがあり、受け取る年をずらすなど、受け取りの順番の設計が手取りを大きく左右します。どのくらいの期間を空ければよいかは制度上のルールがあり、改正もされているため、実際の受け取り時期は必ず税理士に相談して決めてください。
加入前に押さえる注意点(元本割れに注意)
メリットの大きい制度ですが、加入前に知っておきたい注意点もあります。
- ●任意解約の元本割れ:掛金の納付月数が20年(240か月)未満で自己都合の任意解約をすると、受け取る解約手当金が掛金合計を下回る(元本割れ)ことがあります。長く続ける前提の制度です。
- ●会社の損金にはならない:あくまで「個人の所得控除」です。ここが倒産防止共済(損金)との大きな違いです。
- ●節税効果は所得次第:所得が高いほど控除の効果が大きく、所得が低い年は効果が薄くなります。
いずれも、加入前に「どのくらいの掛金で、いつまで続け、いつ・どう受け取るか」を設計しておけば避けられる論点です。
あわせて、加入前に知っておきたい前提がもう一つあります。この制度は「長く続けて出口で受け取る」ことで効果が出る設計のため、途中で資金が必要になっても、積み立てたお金を自由に引き出すことはできません(契約者貸付で借りることは可能です)。掛金の減額はできますが、無理な満額設定は避け、利益が下がった年でも払い続けられる金額から始めるのが安全です。まずは手元資金とのバランスを見て、続けられる掛金を決めましょう。
まとめ
① 小規模企業共済は「経営者の退職金+所得控除」
掛金は月1,000円〜7万円で、全額が所得控除。会社員にはない「経営者の退職金」を、税優遇を受けながら積み立てられる制度です。
② 倒産防止共済とは"効く税金"が違う。両方使うのが基本
小規模企業共済は「個人の所得控除」、倒産防止共済は「会社の損金」。目的も税務も違うので、どちらか一方ではなく、両方を組み合わせて手元資金と将来の備えを同時に厚くします。
③ 受け取り方(一括・分割)で税金が変わる。出口まで設計する
一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得。役員退職金や年金とあわせて、退任・廃業の時期から逆算して受け取り方を決めることが、手取りを最大化するカギです。
その退任時期は、後継者の準備が整うかどうかで前後します。人・数字・株の3方向を5年単位で並べるとどう見えるかは、中小企業の事業承継で、4社の進め方としてまとめています。
最後に
小規模企業共済と倒産防止共済の使い分けや、退職金・資金繰りとあわせた設計について、「自社の場合はどう組み立てればよいか」とお悩みであれば、お気軽にご相談ください。財務の現状整理から、掛金の設計・受け取りの出口まで、御社の実情に合わせてご一緒に考えます。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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