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就業規則の作り方|中小企業が最低限そろえる項目と届出の手順
目次
就業規則、「ひな形をコピーして棚に」になっていませんか
従業員が増えてきた中小企業でよくあるのが、「ネットのひな形をコピーして、一応ある」状態の就業規則です。しかし、自社の実態に合っていない就業規則は、いざというとき会社を守れません。それどころか、書いてある条文が実態と食い違っていると、かえって不利に働くことすらあります。
就業規則は、常時10人以上を雇う会社にとっては法律上の義務であり、同時に、労務トラブルから会社を守る「盾」でもあります。この記事では、就業規則に必ず書くべき項目と、作成から届出・周知までの手順を、厚生労働省の情報をもとに整理します。
💡 この記事でわかること:
- ●就業規則が「常時10人以上」で作成・届出の義務になること
- ●必ず書く項目(絶対的記載事項)と、決めたら書く項目の違い
- ●作成〜意見聴取〜届出〜周知までの4ステップ
- ●「作って終わり」にせず、機能させ続けるコツ
就業規則は「常時10人以上」で作成・届出が義務
まず前提です。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。この「10人」には、パート・アルバイトも含まれます(事業場ごとにカウント)。
さらに第90条により、作成・変更の際は従業員の過半数代表(過半数で組織する労働組合または過半数を代表する者)の意見を聴くことが必要です。10人未満でも、ルールを明文化しておくことはトラブル予防に有効なので、規模にかかわらず整備をおすすめします。
10人未満の会社はどうするか
義務ではありませんが、10人未満だからこそ効く論点がひとつあります。商業(小売・卸)、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業のいずれかで、労働者が常時10人未満の事業場は「特例措置対象事業場」にあたり、1週間の労働時間の上限が40時間ではなく44時間になります。飲食店・小売店・診療所などで、ここを知らずに40時間で組んでいる例があります。
ただしこの特例は「1週44時間・1日8時間」までで、9人が10人になった時点で40時間に戻ります。人が増えるタイミングで、就業規則の作成義務と労働時間の上限が同時に変わります。10人が見えてきたら先に準備を始めてください。
「必ず書く項目」と「決めたら書く項目」
就業規則の記載事項は、大きく2種類に分かれます。ここを押さえると、何を盛り込むべきかが整理できます。
なかでも書き方を誤りやすいのが賃金です。固定残業代(みなし残業)を入れているなら、金額と対応する時間数、超過分は別途支払う旨を規則と契約書の両方に書いておかないと、制度そのものが無効と判断されることがあります。有効になる3要件と条文の書き方は固定残業代とは?|「残業代込み」が違法になる3要件と正しい設計でまとめています。
また、就業規則に書く条件は、一人ひとりに交付する労働条件通知書と食い違ってはいけません。2024年4月の改正で明示事項が増えているため、規則を直すときは通知書の様式もあわせて点検します。追加された3つの明示事項は労働条件通知書とは?|2024年4月改正内容と正しい書き方で扱っています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 絶対的必要記載事項 (必ず書く) |
①労働時間関係(始業・終業、休憩、休日、休暇、交替制のルール)②賃金関係(決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給)③退職関係(解雇の事由を含む) |
| 相対的必要記載事項 (定めるなら書く) |
退職手当、賞与・臨時の賃金、食費・作業用品などの負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁(懲戒)、その他全員に適用するルール |
とくに「退職・解雇の事由」と「懲戒(制裁)」は、労務トラブルで会社を守る要になります。懲戒は「種類を並べる」だけでは機能しないため、懲戒規定は段階が命もあわせてご覧ください。
条文の記載例|モデル就業規則はこう書いている
「必ず書く」と言われても、実際の条文がどう書かれるのかが分からないと手が止まります。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)から、絶対的記載事項の書きぶりを見てみます。検索では「記載例」「サンプル」「テンプレート」と呼ばれますが、探しているものはこのモデル就業規則です。
| 記載事項 | モデル就業規則の条文(抜粋) | 自社で埋める・直すところ |
|---|---|---|
| 労働時間(第19条・完全週休2日制の例) | 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする | 始業・終業の時刻と休憩時間。シフト制なら勤務パターンごとに |
| 賃金(第46条) | 賃金は、毎月◯日に締め切って計算し、翌月◯日に支払う。ただし、支払日が休日に当たる場合は、その前日に繰り上げて支払う | 締め日・支払日。手当の種類は第33条「賃金の構成」と合わせる |
| 昇給(第49条) | 昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年◯月◯日をもって行うものとする | 昇給の時期。金額を確約する書き方にしない |
| 退職(第52条) | 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して◯日を経過したとき | 退職の申し出から何日で退職とするか |
| 解雇(第53条) | 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき(ほか全8号) | 号を減らしすぎない。書いていない事由では解雇できない |
見てのとおり、モデルは空欄と選択肢の集合です。そのまま出せる完成品ではなく、自社の数字を入れて初めて就業規則になります。
もうひとつ、条文の中身より先に押さえたい前提があります。労働基準法第89条の「退職に関する事項」とは、任意退職・解雇・契約期間の満了など、労働者がその身分を失うすべての場合を指します。「解雇のことだけ書けばよい」ではありません。有期契約の満了や休職期間満了の扱いが抜けていると、そこが争点になります。
参考(厚生労働省):モデル就業規則(令和7年12月版)
作り方の4ステップ|たたき台〜届出〜周知
ここが本記事の核心です。就業規則づくりは、次の4ステップで進めます。まず全体像をつかんだうえで、それぞれ「具体的に何をするのか」を順に見ていきましょう。
- ①たたき台をつくる(モデル就業規則を自社仕様へ)
- ②過半数代表の意見を聴く(意見書をもらう)
- ③労基署へ届け出る(本体+意見書+届出書)
- ④全従業員へ周知する(ここまでで初めて効力)
STEP1:モデル就業規則を”たたき台”に、自社仕様へ書き換える
ゼロから条文を書き起こす必要はありません。まず厚生労働省の「モデル就業規則」(Word形式で無料配布)をダウンロードし、これを土台にします。やることは、この雛形を自社の実態に合わせて1条ずつ書き換えていく作業です。
具体的には、次の項目を「うちは実際どう運用しているか?」と照らし合わせながら埋めていきます。始業・終業の時刻と休憩(シフト制ならそのパターン)、休日(週休制か、会社カレンダーか)、時間外・休日労働の扱い、賃金の締め日・支払日と手当の種類、有給休暇の付与日と年5日取得のルール、退職・解雇の事由、懲戒の段階。モデルにあって自社にない制度(例:家族手当)は削り、自社にあってモデルにない慣行(例:創立記念日の特別休暇)は書き足します。
ここでの最大の注意点は、実態とズレた条文を残さないことです。「モデルにこう書いてあったから」と実際の運用と違う内容を放置すると、いざトラブルになったとき、その条文が逆に会社を縛ります。1条ずつ現場に確認する地道さが、後の安全につながります。
なお、就業規則に「時間外労働を命じることがある」と書いても、それだけで残業をさせられるわけではありません。実際に法定時間を超えて働かせるには、36協定を結んで届け出る必要があります。規則と協定は別物なので、両方そろえて初めて運用できます。上限・特別条項・届出の実務は36協定とは?|残業の上限・特別条項・届出を中小企業向けに解説でまとめています。
STEP2:従業員の過半数代表を選び、意見を聴く(意見書)
たたき台ができたら、労働基準法第90条にもとづき、従業員の過半数代表から意見を聴く手続きに進みます。ここで重要なのが「代表の選び方」です。労働者の過半数で組織する労働組合があればその組合、なければ投票・挙手など民主的な方法で選ばれた過半数代表者から聴きます。会社が特定の人を指名するのはNG(手続きが無効になり得ます)で、管理監督者は代表になれません。
選ばれた代表に就業規則案を見せ、「意見書」を作成してもらいます。ポイントは、必要なのは”意見を聴くこと”であって、”同意を得ること”ではない点です。「特に意見はありません」という意見書でも、手続き上は問題ありません。ただし、聴取した事実と意見書という記録は必ず残します。
形式的に署名をもらうだけで済ませず、この機会に代表を通じて社員の疑問(休日の数え方、手当の条件など)を拾い、必要なら案を修正しておくと、公開後の運用がぐっとスムーズになります。
STEP3:意見書を添えて、労働基準監督署へ届け出る
次に、①就業規則の本体、②過半数代表の意見書、③就業規則(変更)届の3点をそろえ、事業場を管轄する労働基準監督署へ提出します。提出方法は、窓口への持参・郵送のほか、e-Gov電子申請も利用できます。提出したら、控えに受付印をもらって保管しておきましょう(後で「届け出た証拠」になります)。
届出は事業場ごとが原則です。本社と支店で内容が同じなら本社一括で届け出られる場合もありますが、拠点ごとに労働条件が違うなら、それぞれの所轄へ提出します。なお、常時10人以上になったら速やかに届け出ること。届出を怠ると法違反となり、罰則の対象になり得ます。
変更したときは何を出すか|変更届・電子申請・本社一括
一度届け出て終わりではありません。就業規則を変更したときも、作成のときと同じで、過半数代表の意見を聴き、意見書を添えて労働基準監督署へ届け出ます。このとき使うのが「就業規則(変更)届」です。法改正への対応でも、手当を1つ足しただけでも、届出は必要です。
見落とされやすいのが賃金規程の扱いです。賃金に関する事項は就業規則の本体とは別に定めることもできますが、別に定めた規程も就業規則の一部なので、そちらも所轄の労働基準監督署長への届出が要ります。「本体は出したが、賃金規程は社内文書のつもりだった」という状態は届出漏れになります。
窓口へ行かずに済ませたい場合は、e-Gov電子申請が使えます。令和3年4月1日から、電子署名・電子証明書の添付は不要になっており、以前より手順が軽くなりました。
拠点が複数ある会社では、本社でまとめて届け出る方法もあります。就業規則(変更)届の本社一括届出は、次の2つを両方満たすときに使えます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 内容が同一 | 本社で作成された就業規則と、各事業場の就業規則の内容が同一であること |
| ② 意見書がそろっている | 各事業場分の労働者代表の意見書が添付されていること |
拠点ごとに労働条件が違うなら一括はできません。所定労働時間や手当が拠点で異なる会社は、それぞれの所轄へ出すことになります。
参考(厚生労働省):労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について
STEP4:全従業員へ周知する(ここまでで初めて効力を持つ)
最後の、そして最も見落とされがちなステップが「周知」です。どれだけ立派に作って届け出ても、従業員に周知していない就業規則は、効力を主張しにくくなります(周知は法律上の効力要件とされています)。「作って労基署に出したから完了」ではありません。
周知の方法は、次のいずれかで「いつでも誰でも見られる状態」にすることです。書面で全員に配布する/事業場の見やすい場所に掲示・備え付ける/社内サーバーやクラウドにデータを置き、常時閲覧できるようにする。鍵のかかった棚にしまって誰も見られない、では周知になりません。
さらに一歩進めるなら、入社時の説明や年1回の読み合わせで中身に実際に触れる機会をつくります。存在も中身も知らない状態では、いざというとき「聞いていない」と言われかねません。周知まで終えて、就業規則はようやく「会社を守る盾」として動き出します。
参考(厚生労働省):モデル就業規則 / 就業規則と法令の関係(確かめよう労働条件)
「作って終わり」にしないための運用
就業規則は、作った瞬間ではなく運用の型が定まった瞬間に会社を守り始めます。法改正(有給の年5日取得義務、育児・介護、ハラスメント防止など)は頻繁にあり、古い規則のままだと実態とずれていきます。
見直しで条件を引き下げる方向に触れるときは、手続きが変わります。合意なく不利益な変更をするには、変更後の規則の周知と、変更の合理性の両方が必要になるためです。どこまでが合意なく変えられ、どんな代償措置が要るかは就業規則の不利益変更とは?|合意なく変えられる条件と合理性で整理しています。
年1回は見直し、できれば全員での読み合わせの機会をつくる。就業規則が「金庫にしまう書類」から「毎年みんなで確認する生きたルール」になったとき、初めて形骸化を防げます。有給の年5日をどう数えるか、年次有給休暇管理簿に何を書くかは、有給管理の仕組み化|年5日の数え方と有給管理簿のつくり方で詳しく解説しています。
活用事例|自社の就業規則、どこから手をつけるか(ケース別)
よくあるケースで、着手の優先順位を整理します。
まず作成・届出の義務が発生します。モデル就業規則を土台に、労働時間・休日・賃金・退職の絶対的記載事項を自社仕様で固め、意見聴取→届出→周知まで一気に整えます。
条文と現場の運用がズレていないかを点検。休日・残業・手当・有給の実態に合わせて改定します。ズレたまま放置した規則は、トラブル時に会社を守れません。
退職・解雇の事由と懲戒規定を重点整備。種類の羅列でなく、違反と処分段階を結びつけ、記録の運用までセットで設計します。
周知されていない就業規則は効力が弱まります。閲覧できる形で共有し、年1回の読み合わせを仕組みにして、生きたルールへ変えます。
共通するのは、「ひな形を置く」ではなく「自社の実態に合わせ、周知し、毎年見直す」ことです。ここまでやって初めて、就業規則は会社の盾になります。
2026年10月、就業規則に足す条文が増えます
就業規則の見直しは「気が向いたら」ではなく、法改正のタイミングで必ず発生します。直近で全社に効くのが、カスタマーハラスメント対策の義務化です。
令和7年の労働施策総合推進法等の改正により、2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメントを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務になります。措置の内容は「職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)に定められています。
事業主に求められるのは、大きく次の4つです。①方針を明確にし、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること、②相談・苦情に応じ適切に対応するための体制を整備すること、③相談があったときに事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者・行為者に適正に対処したうえで再発防止の措置を講ずること、④相談者や行為者のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を定めて周知・啓発すること。
このうち①と④は、就業規則に条文として書き込むのがいちばん確実です。方針や不利益取扱いの禁止を口頭で伝えるだけでは、担当者が代わった時点で根拠が消えます。新しい規程をゼロから作る必要はなく、既存の就業規則に条文を足す形で足ります。
何を10の措置として整えるかの全体像はカスハラ対策の義務化とは?|2026年10月から全企業がやる10の措置に、方針の文面と社内周知の進め方はカスハラ対策の方針の作り方|就業規則と社内周知の進め方にまとめています。
参考(厚生労働省):令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について / 職場におけるハラスメントの防止のために
就業規則が本当に効くのは、揉めたとき
平時の就業規則は、ただの書類に見えます。効き目がはっきり出るのは、トラブルが起きたときです。逆に言えば、揉めてから足りない条文に気づいても手遅れだということでもあります。よくある4つの場面と、そのとき効く条文を並べておきます。
残業代をめぐる争いでは、「管理職だから残業代は出さない」という扱いが最も危険です。会社が管理職と呼んでいることと、法律上の管理監督者に当たることは別物で、実態が伴わなければ止めた分がまるごと未払いになります。判断の3基準は管理監督者とは?|「管理職だから残業代なし」が違法になる基準で扱っています。
パートや契約社員との待遇差を問われる場面では、規則に「なぜその差があるか」の説明がつくかが分かれ目になります。手当や賞与の設計を点検する手順は同一労働同一賃金とは?|中小企業が見直す手当・賞与の待遇差にまとめました。
社内のハラスメントについては、防止措置がすでに事業主の義務です。相談窓口や対応フローを規則に落とし込むところまでが求められます。義務の中身と3要件はパワハラ防止法とは?|中小企業に義務化された措置と3要件で整理しています。
そして、どうしても辞めてもらう判断に至る場面。ここで解雇に踏み切る前に取れる手順があり、進め方を誤るとパワハラと評価されることもあります。解雇との違いと具体的な進め方は問題社員の退職勧奨|解雇との違いとパワハラにしない進め方で扱っています。
まとめ
① 常時10人以上で作成・届出が義務
パートも含めて10人以上なら、作成し労基署へ届出。過半数代表の意見聴取も必要です。10人未満でも整備はトラブル予防に有効です。
② 絶対的記載事項(労働時間・賃金・退職)は必ず書く
とくに退職・解雇の事由と懲戒は会社を守る要。ひな形の丸写しでなく、自社の実態に合わせて書きます。
③ 届出・周知して、毎年見直す
周知して初めて効力を持ち、法改正に合わせて更新して初めて機能します。「作って終わり」にしないことが最大のポイントです。
最後に
就業規則の新規作成や、実態に合わせた改定について、「自社の場合は何から手をつければよいか」とお悩みであれば、お気軽にご相談ください。条文の整備だけでなく、意見聴取・届出・周知、そして毎年の見直しの運用まで、現場に入って一緒に手を動かしながら整えます。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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