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販路開拓の方法|中小企業がチラシで法人客を増やす手順と補助金
目次
営業担当がいない会社に足りないのは、営業力ではなく営業ツール
企業に挨拶に行く機会があっても、渡せる資料が手元に何もない。配達員に新しいメニューを案内してほしいと思っても、毎日の業務で手一杯の現場にそれを頼める雰囲気ではない——同じような状況に心当たりのある方は少なくないはずです。
専任の営業担当を置けるほどの規模ではなく、社長が自ら毎日外回りをするには時間が足りない。そのまま放置していると、単価の高い商材の販路は広がらず、薄利多売から抜け出せないまま時間だけが経っていきます。
ここで見落とされがちなのは、問題が「営業力」ではなく「営業のインフラ」にあるという点です。渡す紙が一枚もない状態では、どれだけ話がうまくても伝わりません。逆に言えば、チラシ一枚を既存の配達ルートに乗せるだけで、営業接点は今日から増やせます。
この記事では、日産1,500食規模の弁当・仕出し業を営むY社様の事例をもとに、既存の配達ルートをそのままに、高単価商材の認知と受注を広げる仕組みをどう整えたかを具体的にお伝えします。
💡 この記事でわかること:
- ●専任の営業担当がいない会社で「ツールなし」が招く機会損失の正体
- ●現場に新しい仕事を増やさずに営業接点を増やす方法(チラシの同梱)
- ●チラシ・パンフレット・LINEの役割分担と、つなぎ方
- ●外部デザイナーに頼む前に、自社で30分で整理しておくこと
「手ぶらで来たの」——Y社様が直面した壁
Y社様は地域密着の弁当・仕出し業で、30名のスタッフが日産1,500食の生産体制を支えています。地域の法人・施設・工場への配達ルートも安定して確立されており、長年かけて築いてきた信頼関係があります。
ただ、日配弁当の生産数はすでに上限に近く、これ以上の増産は物理的に難しい状態でした。スタッフを増やしても、現在の設備と現場の動線を考えると、大幅に数を積み上げるのは現実的ではありません。
そこで社長が目を向けたのが、単価の高いイベント弁当・仕出し、そして鰻という商材でした。ところが、それらを受注するための接点がほとんど作られていませんでした。
- ●企業の担当者に挨拶に行く機会はあっても、持参できる会社案内やメニュー資料が何一つない
- ●配達員に「新しいメニューも口頭で説明してきてほしい」と頼んでも、説明の内容は人によってばらつき、継続もしない
- ●月に10〜20件あるイベント用弁当の配達機会でも、追加注文につながる仕掛けが何もない
社長自身も「手ぶらで行くのは失礼だとわかっているが、かといって資料を作る時間も余裕もない」と話していました。生産数が上限に近いなかで、高単価な商材を知ってもらう手段もない。この状態では、売上も利益率も動きようがありません。
なぜ増産ではなく、単価を上げるほうを選ぶのか
日配弁当は単価が低く、数をこなすことで売上を積み上げるモデルです。ただ、生産設備やスタッフの数に上限がある以上、このモデルだけで利益を増やし続けるのには限界があります。
仮にさらに200食・300食と増やせたとしても、増える利益はわずかな一方、スタッフへの負荷は比例以上に大きくなります。無理に増産を続けることで、品質の維持や人材の定着に新たなリスクが生まれる可能性もあります。
そこで有効になるのが、高単価な商材の受注比率を上げるという考え方です。イベント弁当・仕出しは日配弁当と比べて単価が数倍以上になることも多く、1件の受注で生まれる利益の厚みがまったく異なります。鰻はさらに単価を高く設定でき、少量でも収益に直結しやすい商材です。
💡 ポイント:
生産数に上限がある事業では、増産よりも単価の高い商材の比率を上げるほうが、現場への負荷が小さいまま利益が伸びます。ただし、知ってもらう機会がなければ注文は来ません。受注を増やす前に営業のインフラを整えることが、利益改善への現実的な近道です。
受注を増やした成果を評価・処遇につなげる視点は、インセンティブ制度の作り方|営業粗利の見える化と歩合給の残業代で掘り下げていますので、あわせてご覧ください。
3つのツールに役割を分ける
Y社様に提案したのは、3つのツールをそれぞれ別の役割で使い分ける形でした。1つのツールに全部を詰め込もうとすると、どれも中途半端になります。
設計の方針はシンプルです。毎日の配達に、弁当と一緒にチラシを同梱する。それだけです。配達員が口頭で何かを説明する必要はなく、受け取った担当者が手元の紙を見るだけで、イベント弁当や鰻の存在を知ることができます。
並行して、企業訪問時に持参できるA4サイズのパンフレットを用意します。会社概要・メニューのラインナップ・イベント対応の実績・問い合わせ先をまとめた一枚で、「手ぶら」という状況をそのまま解消するためのツールです。
ここで大切にしたのは、「配達員にも、社長にも、新たな仕事を増やさない」という設計の方向性でした。既存のオペレーションに自然に乗る形でなければ、どれだけ良いツールを作っても現場では使われません。「仕組みを作ること」と「現場が動き続けられること」は、別々の問題として考える必要があります。
チラシからLINEへ——関係を切らさない導線
チラシやパンフレットで認知を取ったあとのステップとして設計したのが、LINE公式アカウントへの誘導です。チラシにQRコードを掲載し、登録した顧客に限定情報を届ける流れを組み込みます。
打ち合わせで具体的に挙がったのが、「鰻の限定販売」という企画です。配送コストを抑えるため、注文者が店舗まで引き取りに来るピックアップ形式を採用します。LINE登録者だけに告知し、数量限定で受け付ける形にすることで特別感を演出できます。「夜間配達は難しい」という制約を逆手に取り、引き取りに来てもらうことをプレミアム感に変えた設計です。
この仕組みのよいところは、販促のたびに広告費をかけなくても既存の登録者へ繰り返しアプローチできる点です。一度登録してもらえれば、次のイベント告知も季節限定メニューの案内も、追加コストなしで届けられます。単発の営業施策で終わらせず、顧客との関係を継続させる「資産」として使えます。
チラシとパンフレットの費用は、3分の2が補助される
ここまでの3つのツールは、当然ながら作れば費用がかかります。ただ、販路開拓のための制作費には国の補助金があります。小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>は、小規模事業者が販路開拓に使った経費の一部を補助する制度で、チラシもパンフレットもこの対象経費に含まれます。
| 項目 | 第20回公募の内容 |
|---|---|
| 補助率 | 3分の2(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は4分の3) |
| 補助上限 | 50万円 |
| インボイス特例 | 上限に50万円を上乗せ |
| 賃金引上げ特例 | 上限に150万円を上乗せ(インボイス特例と両方なら200万円) |
対象経費は8つの区分に分かれていて、区分ごとに別の上限があります。この記事で挙げた3つのツールは、次のように振り分けて考えます。
| この記事のツール | 経費区分 | その区分の上限 |
|---|---|---|
| 同梱チラシ・A4パンフレット | 広報費 | 30万円(税込) |
| LINEなどSNSの広告・運用代行 | 広報費 | 30万円(税込) |
| 顧客管理システム・自社サイトの構築 | ウェブサイト関連費 | 30万円(税込) |
どの区分で計上するかは中身によって変わります。判断に迷うものは、申請前に商工会・商工会議所の窓口で確認してください。
使えるのは「20人以下」の会社
最初に確かめるのは、自社が「小規模事業者」に当たるかどうかです。判定は業種と従業員数だけで決まります。
| 業種 | 常時使用する従業員の数 |
|---|---|
| 商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
| サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
| 製造業その他 | 20人以下 |
商業・サービス業は5人以下、それ以外は20人以下という線引きです。ここでいう「常時使用する従業員」に、会社役員と同居の親族従業員は含みません。日雇いの方、2か月以内の期間を定めて雇う方、試用期間中の方も同じく含みません。名簿の頭数より少なく数えることになるので、人数だけを見て諦めないでください。
この記事で紹介したY社様は30名の体制ですので、この基準を超えています。事例をそのままなぞっても、Y社様の規模では持続化補助金は使えません。一方で、ケース2の建設資材卸(15名)やケース3の食品製造業(8名)のような規模であれば、対象に入ってきます。
申請の前に知っておく5つの落とし穴
いちばん多いつまずきは、順番です。交付決定日より前に発注・契約・支払いをした費用は、すべて対象外になります。採択の通知が届いただけでは、まだ始められません。動き出せるのは、そのあとに届く交付決定通知書に書かれた日からです。採択発表から交付決定までは、見積書を速やかに出しても概ね1〜2か月かかります。
| つまずき方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 交付決定より前に発注・契約・支払いをした | その経費は全額が対象外 |
| チラシだけ、サイトだけで申請した | 広報費のみ・ウェブサイト関連費のみの申請は受け付けられない |
| 会社案内のパンフレットを作った | 商品・サービスの宣伝を目的としないものは対象外。事業者名や宣伝文句が入っていない広報物も同じ |
| チラシが配りきれず在庫で残った | 未配布・未使用分は対象外 |
| 商工会・商工会議所への相談を後回しにした | 事業支援計画書(様式4)の発行が要る。受付締切は申請の締切より前 |
3つ目は、この記事の設計に直接ぶつかります。さきほどA4パンフレットに「会社概要・衛生管理や品質への取り組み・イベント対応の実績」を載せると書きましたが、公募要領は会社案内パンフレットを対象外の例として名指ししています。補助金を使うなら、商品とサービスの紹介を主役にして、会社の情報はその裏づけとして添える構成にしてください。
4つ目は、ケース3の食品製造業がまさにこれです。倉庫に残ったチラシは、補助金の計算でも経費として認められません。「誰が・いつ・どこに乗せるか」を先に決めておくことは、補助金を使う場合には要件そのものになります。
第20回公募の日程
第20回の公募は、申請の受付が2026年11月に始まります。
様式4の受付締切が、申請の締切より11日早い点に注意してください。窓口が混み合う時期に駆け込むと、発行が間に合いません。締切以降の発行依頼は、理由を問わず受け付けられません。第21回以降の日程は、第20回の締切以降に案内される予定です。
補助金の要件は公募の回ごとに変わります。申請するときは、必ずその回の公募要領で名称と条件を確かめてください。ここに書いた数値は、第20回公募の公募要領(第8版・2026年7月21日公開)にもとづいています。
参考(小規模事業者持続化補助金事務局):第20回公募 公募要領 第8版 / 申請について
参考(中小企業庁):小規模企業支援
自社でやるなら、この3ステップ
ここまでのアプローチは、弁当・仕出し業に限らず、専任の営業担当を持たない中小企業全般に応用できます。
STEP1:外注する前に、A4一枚で整理する
まず、自社の高単価商材について「誰に・何を・どう伝えるか」を言葉にします。Y社様であれば、「法人の担当者に・イベント弁当と鰻の存在を・視覚的にわかりやすく伝える」というゴールが明確でした。
制作物に盛り込む内容は、商品の特徴・対応できる人数や用途・注文の方法・問い合わせ先の4点に絞ってください。これ以上を詰め込もうとすると、受け取った側が読まなくなります。「この一枚を見た人に、次にどんな行動を取ってもらいたいか」という行動ゴールを先に決めてから、デザインや文言の方向性を定めます。
整理の方法はシンプルで、A4一枚に「商品名・ターゲット・訴求ポイント・行動ゴール」を書き出すだけで十分です。30分あれば終わる作業ですが、ここを省いて制作に入ると、デザイナーへの指示が曖昧になり、修正のやり取りに余計な時間とコストがかかります。制作物の仕上がりは、デザイナーの腕よりも依頼前の整理の精度で変わることが多いものです。
STEP2:チラシとパンフレットで接触を設計する
チラシは「既存の配送・配達ルートに乗せる」ことを前提に設計します。
サイズはA5またはB5が扱いやすく、文字量は少なめに抑え、受け取った担当者が3秒で内容を把握できるくらいがちょうどいい分量です。
A4パンフレットは企業訪問専用のツールとして位置づけます。会社概要・衛生管理や品質への取り組み・イベント対応の実績・問い合わせ先を一枚に収め、担当者が上司に見せやすい「社内で回覧できる資料」として設計するのがポイントです。
制作ツールは高価なものを使う必要はありません。CanvaやGoogleスライドのテンプレートを活用すれば、デザインの専門知識がなくても一定のクオリティに仕上がります。まずは低コストで試作し、実際の反応を見ながら改善を重ねる進め方が、中小企業には合っています。
STEP3:LINEで関係を継続する
LINE公式アカウントで最も大切なのは、登録直後の最初のメッセージです。第一報で「登録してよかった」と感じてもらえる特典や限定情報を届けることで、その後の配信も読まれやすくなります。最初の一報が「よろしくお願いします」だけでは、次第に忘れられてしまいます。
運用の目安は月2〜3回の配信、1回あたり2〜3文で十分です。季節の商品案内・限定企画の告知・イベント対応のお知らせなど、読んで損のない情報に絞ることで、ブロックされる割合を低く抑えられます。最初から複雑な配信シナリオを作ろうとすると運用が続かないため、シンプルな手動配信からで構いません。
意識したいのは、「完璧な配信」よりも「途切れない配信」です。月1回しか連絡のない店より、月3回こまめに役立つ情報を届ける店のほうが記憶に残ります。登録者が100人を超えてきた段階で、初めて配信内容の精度を上げることを検討すれば十分です。
増産の余地がないなかで利益を伸ばすには、単価の高い商材の比率を上げるしかありません。ただし接点がゼロでは注文は来ない。まず着手したのは営業活動ではなく、配達に同梱するチラシ1枚でした。現場に新しい作業を増やさずに、月に何百件という接触が生まれます。
担当者に会えてはいるものの、渡せる資料がなく話が残らない。A4パンフレットを1種類だけ作り、「担当者が上司に見せる」ことを前提に構成しました。社内で回覧される資料になると、決裁のテーブルに乗る確率が変わります。
以前チラシを作ったものの、配る手順が決まっておらず在庫が倉庫に残ったまま——という状態は珍しくありません。ツールの出来より、「誰が・いつ・どこに乗せるか」を先に決めておくことが続くかどうかを分けます。既存の業務動線に乗らない配布方法は、まず定着しません。
まとめ
最後に要点を3つに整理します。①専任の営業担当がいない会社の問題は「営業力」ではなく営業のインフラの不在です。渡す紙が一枚もなければ、会えても何も残りません。②現場に新しい仕事を増やさないことが設計の前提です。配達に同梱するチラシなら、配達員の作業は変わらないまま接点だけが増えます。③チラシ・パンフレット・LINEは役割を分けて使います。認知を取る、社内で回覧してもらう、関係を切らさない——1枚に全部を詰め込むと、どれも機能しません。
販路を広げる前に、手元の資金が続くかどうかも確かめておきます。返済条件の見直しと原資の作り方は、中小企業の資金繰り改善でまとめています。売上が立つまでの期間を持ちこたえられるかが、投資の判断を分けます。
なお、こうした販促の投資判断は、手元の資金繰りと切り離せません。決算書のどこを見て判断するかは、資金ショートは事前に防げる?|経営者が見るべき決算書の3指標で解説しています。
最後に
ここまで読んで、「チラシを作ればいいのはわかった。でも、何を書けばいいのか、誰に頼めばいいのかがわからない」と感じた方もいるかもしれません。それは自然なことです。制作物づくりは日々の業務と種類の違う仕事で、社長が片手間で進めるにはハードルがあります。
私たちTalent Partner(社長の経営参謀®)は、こうした場面で「隣に座る右腕」として動きます。きれいな提案書を置いて帰るのではなく、伝えるべきことの整理から、外部デザイナーとの日程調整、構成と文言の作成、そしてLINEの初期設定まで、実際に手を動かすところまで一緒に伴走します。販路の話は売上の問題に見えて、その裏では「増えた受注を現場が捌けるのか」という体制や、「単価を上げた分の利益をどう配分するか」という評価の設計まで絡み合っています。人・お金・組織を横断して見られることが、私たちの立ち位置です。
とはいえ、いきなり何かを任せる必要はありません。まずは「うちの高単価商材は何で、誰に伝わっていないのか」を一緒に整理するだけでも、次の一手は見えやすくなります。
営業ツールをどう整えるか迷っている、何から作ればいいか相談したい——そんなときは、無料相談をご利用ください。自社の現状に合わせて、まず作るべき一枚を一緒に決めるところからお手伝いします。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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