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役員報酬はいくらが最適?|社会保険料と手取りのバランス

財務設計

役員報酬、「なんとなく前年どおり」で決めていませんか

役員報酬は、会社の税金・社長個人の税金・社会保険料の3つに同時に効く、中小企業で最も影響の大きい数字のひとつです。それにもかかわらず、「去年と同じ」「なんとなくキリのいい額」で決めてしまっている会社は少なくありません。

ポイントは、報酬を上げれば法人税は減るが、社会保険料は増えるという綱引きです。どこで釣り合わせるかで、会社と社長の手元に残るお金が変わります。この記事では、役員報酬の決め方の基本ルールと、社会保険料・手取りのバランスの取り方を、公的な情報をもとに整理します。

💡 この記事でわかること:

  • 役員報酬が「期首3か月」でしか変えられない理由(定期同額給与)
  • 報酬を上げると法人税は減るが社会保険料が増える仕組み
  • 会社+個人+社保をトータルで見た「最適額」の考え方
  • ケース別|一人社長・創業期・賞与活用の使い分け

なお、「いくらが最適か」の答えは、会社の利益水準・社長の家族構成・社会保険の適用区分によって変わります。この記事で押さえるのは考え方の枠組みまでです。実際の金額は、顧問税理士と試算したうえで決めてください。

役員報酬はなぜ「期首3か月」でしか決められないのか

役員報酬は、一般の給与と違って期の途中で自由に増減できません。税務上の経費(損金)として認められる「定期同額給与」であるためには、原則として事業年度の開始日から3か月以内に金額を決め、その期はずっと同額を支給する必要があります。

この期限を過ぎて期中に増額すると、増額分が損金として認められない(=節税にならないのに課税される)といったリスクがあります。「来期はいくらにするか」を、決算のタイミングで毎年きちんと設計しておくことが欠かせません。なお、業績が著しく悪化した場合など一定の事由があれば期中改定が認められるケースもあるため、詳細は顧問税理士にご確認ください。

このルールがあるのは、役員が自分の報酬を自分で決められる立場にあるためです。期の途中で自由に動かせると、利益が出た期末に報酬を積み増して法人税を消す、といった調整ができてしまいます。だから「先に決めて、その期は動かさない」形が求められます。

注意したいのは、制限されるのが増額だけではない点です。業績が苦しいから下げる、という減額も、認められる事由は限られます。上げるのも下げるのも自由ではない、という前提で期首の設計に臨んでください。

参考(国税庁):No.5211 役員に対する給与

報酬を上げると「税金は減るが社会保険料は増える」

役員報酬は会社にとっては費用(損金)なので、報酬を上げれば会社の利益が圧縮され、法人税は減ります。ところが同時に、報酬が上がると社会保険料も増えます。

社会保険料は「標準報酬月額」(毎月の報酬を等級に当てはめた額)をもとに計算されます。厚生年金の保険料率は18.3%、健康保険などとあわせると、報酬のおよそ3割が社会保険料としてかかり、会社と本人で折半します。つまり報酬アップは、法人税を下げる一方で、会社・個人双方の社保負担を増やすのです。ただし厚生年金の標準報酬月額には上限があるため、報酬が一定額を超えると社保の増え方は頭打ちになります。

会社から社長へお金が渡る「3つの道」

社長がお金を受け取る道は、毎月の報酬だけではありません。それぞれ仕組みもお金の流れも違うので、先に整理しておきます。

毎月の役員報酬(定期同額給与)は、会社が毎月同じ額を支払い、社長は給与所得として受け取ります。会社側では支払った期の損金になり、社長側では給与所得控除を引いた額に所得税・住民税がかかります。そして、社会保険料の計算のもとになるのは、この毎月の報酬です。効くのは「その期、毎月」です。

役員賞与(事前確定届出給与)は、「いつ・いくら払うか」を期の初めに決めて税務署へ届け出ておき、そのとおりに支給することで損金になる仕組みです。届け出のない役員賞与は、会社の経費として認められません。賞与にも、その額に応じた社会保険料がかかります(賞与側にも上限が設けられています)。効くのは「届け出た支給日を含む期」です。

退職金・小規模企業共済は、出口で受け取る道です。役員退職金は会社が支給し、勤続年数に応じた退職所得控除を引いたうえで、原則としてその残りの2分の1に課税されます。社会保険料はかかりません。ただし、役員等としての勤続年数が5年以下の場合は、この2分の1にする扱いの対象外となります(特定役員退職手当等)。事業承継の直後に就任した後継者や、就任から数年で退任するケースは該当しうるため、退職金の設計は必ず税理士と確認してください。一方、小規模企業共済は会社が払うのではなく、社長個人が自分の掛金を払い、その全額が個人の所得控除になります。会社の損金ではない、という点を混同しないでください。受け取るのは退任や廃業のときで、効くのは何年も先です。

参考(日本年金機構):標準報酬月額厚生年金保険料額表

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最適額の考え方|3つの視点で釣り合わせる

「役員報酬の正解額」は一つに決まりません。次の3つの視点を、会社と個人を通して見比べて決めます。

視点 効き方
① 法人税(会社) 報酬を上げるほど会社の利益が減り、法人税は下がる
② 所得税・住民税(個人) 報酬を上げるほど個人の所得は増え、累進で税率が上がる
③ 社会保険料(会社+個人) 報酬に比例して増える(上限あり)。折半で双方が負担

①だけを見て報酬を上げすぎると、②③で取り返される——ここが落とし穴です。会社と個人の税金、そして社会保険料を合算した「世帯+会社トータルの手残り」が最大になる水準を探すのが、最適額の考え方です。

3つの道は、それぞれ「痛みの場所」が違う

毎月の報酬を厚くする利点は、法人税を確実に圧縮できること、そして厚生年金は報酬に比例するため、将来の年金受給額も増えることです。痛みは、社会保険料が会社と個人の両方で増え、個人側は累進で税率が上がること。さらに、一度決めたら1年間は下げられないため、期の途中で資金繰りが苦しくなっても払い続けることになります。利益が安定して読める会社に向き、受注の波が大きい会社や創業期には向きません。落とし穴は、期首に強気の額で決めてしまい、期の後半に会社の現金を食うパターンです。

役員賞与(事前確定届出給与)は、利益の山が読める会社なら、その期にまとめて支給して法人税を調整できます。痛みは、届け出た支給日・金額とズレると、その賞与が損金として認められないこと。業績が落ちたから「減らして払う」ということができません。落とし穴は、届出は出したものの資金が足りず支給できなかった、という事態です。

退職金・共済で出口に寄せる利点は、社会保険料がかからず、退職所得の計算が有利なことです。痛みは流動性の低下。資金が何年も先まで拘束され、小規模企業共済は納付期間が20年(240か月)に満たないうちに任意解約すると元本割れします。いまの手取りに余裕があり、長く経営を続ける前提の社長に向き、数年以内に手元資金が必要な会社には向きません。落とし穴は、退職金が不相当に高額と判断されると、その部分が損金として認められないことです。

3つの受け取り方は「向く会社」が違う
毎月の報酬
利益が安定して読める会社。社保は増えるが将来の年金も増える
役員賞与
利益の山が読める会社。届出どおりに払えることが条件
退職金・共済
手取りに余裕があり長く続ける会社。資金は拘束される

活用事例|自社ならいくらが最適か(ケース別)

社長が知りたいのは「自社ならいくらにすべきか」でしょう。よくあるケースで考え方を整理します。金額は考え方を示す例です。

ケース1|利益がしっかり出ている一人社長

報酬を上げて法人税を抑えつつ、社会保険料が頭打ちになる水準も意識します。上げすぎると個人の所得税・住民税と社保で取り返されるため、法人税・所得税・社保の合計が最小になる帯を探します。

ケース2|創業期・赤字が続いている

無理に報酬を高くせず、抑えめに設定します。会社に損金は不要(すでに赤字)で、個人の所得税・社保も軽くなります。生活費とのバランスで最低限に置くのが基本です。

ケース3|賞与も使いたい

毎月の報酬(定期同額給与)に加え、事前に届け出る「事前確定届出給与」で役員賞与を出す方法もあります。届出の期限・金額の厳守が条件なので、税理士と設計します。

ケース4|報酬で受けず、退職金・共済で受ける

いま高い報酬で受け取ると社保と所得税が重い分、将来の役員退職金小規模企業共済(所得控除)で受ける設計も有効。受け取りを”出口”に寄せると、トータルの負担を下げられます。

共通するのは、報酬・退職金・共済・社保を一枚でつないで設計することです。単年の報酬額だけで考えず、出口までを見て決めるのが、いちばん損の少ない役員報酬になります。

ケース5|配偶者や家族が役員に入っている

社長ひとりに報酬を集めると累進で税率が上がるため、配偶者や後継者を役員にして報酬を分ける設計もあります。ただし前提が二つあります。ひとつは、実際に職務に従事している実態が必要なこと。名前だけの役員への報酬は、経費として認められないおそれがあります。もうひとつは、分けた側にも社会保険の加入義務が生じ、会社の負担が増える場合があること。手取りだけを見て分散すると、社保で取り返されることがあります。

まとめ

① 役員報酬は「期首3か月」で決める

定期同額給与のルール上、期の途中では自由に変えられません。毎年、決算のタイミングで「来期いくらにするか」を設計しておくことが前提です。

② 「法人税・所得税・社会保険料」をトータルで見る

報酬を上げれば法人税は減りますが、所得税・社会保険料は増えます。3つを合算した手残りが最大になる水準を探すのが最適額の考え方です。

③ 報酬だけでなく「出口」も含めて設計する

退職金や小規模企業共済など、社保のかからない受け取りに寄せると、トータルの負担を下げられます。報酬・退職金・共済を一枚でつなぎましょう。

その一枚に、借入の返済も並べて置くと会社側の見通しが立ちます。返済を半分にした交渉と原資の作り方は、中小企業の資金繰り改善でまとめています。役員報酬を下げずに済む余地が、返済側にあることも少なくありません。

✓ あわせて読みたい中小企業の資金繰り改善|返済を半分にした交渉と原資の作り方中小企業の資金繰り改善は、打ち手の順番で結果が変わります。資金繰り表で3か月先を見る方法、借入の一本化と銀行交渉の進め方、単価と回収の見直し…

最後に

役員報酬の最適額や、退職金・共済とあわせた設計について、「自社の場合はいくらが得か」とお悩みであれば、お気軽にご相談ください。会社の利益水準とご家庭の状況を踏まえ、法人税・所得税・社会保険料を通したシミュレーションから、無理のない設計をご一緒に考えます。

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この記事を書いた人

金井 春樹(株式会社TRAVEL LIKE Talent Partner事業部 取締役COO / TAM)

前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。

現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。

【運営会社 取得認証・認定】ISO27001 / 健康経営優良法人2026 / DX認定 / 経営革新計画(※兵庫県のコンサルティングサービスで唯一) / 事業継続力強化計画

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