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役員退職金は何で積む?|小規模共済・法人保険・内部留保を比較
目次
経営者の退職金、「どうやって積むか」で手残りが変わる
会社員と違い、経営者の退職金は「自分で用意する」もの。そしてどの器で積むか——小規模企業共済、法人保険、内部留保(会社の現金)——によって、節税効果も、いざというときの使い勝手も大きく変わります。
「税理士や保険会社に勧められるまま、なんとなく積んでいる」という状態は、実はもったいないケースが多いのです。この記事では、役員退職金を積む3つの選択肢を、税務・資金の性格・リスクの面から比較し、自社に合った組み合わせの考え方を整理します。
💡 この記事でわかること:
- ●役員退職金が「会社」と「個人」の両方で税優遇される仕組み
- ●小規模企業共済・法人保険・内部留保の税務とリスクの違い
- ●それぞれの向き・不向きと、組み合わせの考え方
- ●ケース別|自社ならどう積むのが得か
金額を決めるのは引退の直前でも、原資を積む作業には10年、20年という時間がかかります。しかも器ごとに「誰の税金が、いつ減るのか」がまったく違います。個人の税金が減るもの、会社の税金が減るもの、どちらも減らないもの。この違いを知らないまま積み始めると、途中で乗り換えるときに元本割れという形で代償を払うことになります。
そもそも役員退職金とは?会社と個人、両方に税メリット
役員退職金には、大きな税メリットが2つあります。会社側は、適正額であれば全額を損金にできます。受け取る個人側は、退職所得控除を引いたうえ、さらに残りの2分の1だけが課税対象になる「退職所得」として、給与や配当より軽い税負担で受け取れます。
だからこそ「経営者は、報酬で取るより退職金で取るほうが手取りが大きい」場面が多いのです。問題は、その退職金の原資をどの器で、どう積み上げるか。ここで選択肢が分かれます。(退職金の税務や取るタイミングの詳細は役員退職金の功績倍率と計算方法|事業承継でいつ取るかの判断で解説しています)
ただし、いくらでも損金にできるわけではありません。税法は「不相当に高額な部分」を損金から外すと定めており、実務では最終報酬月額・在任年数・功績倍率といった要素を積み上げて適正額を説明できるようにします。妥当な水準は会社ごとに変わるため、金額の根拠は必ず税理士と一緒に残してください。
そしてもうひとつ。株主総会で支給を決議しても、払う現金が会社になければ退職金は出せません。「損金にできる枠」の話と「実際に払える現金」の話は別物です。後者を何年もかけて用意しておくこと——それが原資づくりです。
参考(国税庁):No.1420 退職所得 / No.5208 役員の退職金の損金算入時期
積み方の3つの選択肢|小規模共済・法人保険・内部留保
役員退職金の原資を積む代表的な器は、次の3つです。税金の効き方と資金の性格がまったく違います。
| 器 | 掛金・積立の税務 | 特徴・リスク |
|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 掛金は全額「個人の所得控除」 | 手堅い国の制度。月7万円が上限。20年未満の任意解約は元本割れ |
| 法人保険 | 保険料の一部が「会社の損金」(返戻率で割合が決まる) | 保障も兼ねられるが、2019年改正で節税効果は限定的。中途解約で元本割れの恐れ |
| 内部留保(会社の現金) | 節税効果なし(課税後の利益を残す) | 最も自由に使えるが、税を払ったあとの現金。使い道が固定されない |
表だけでは、それぞれが「そもそも何なのか」は掴めません。お金が誰から出て誰に戻るのか、税金がいつ効くのかを、器ごとに分解します。
小規模企業共済|社長個人が積み、掛けた年に個人の税金が減る
国(中小機構)が運営する、経営者のための退職金制度です。契約するのは会社ではなく社長個人。掛金も社長の個人口座から出ていくので、会社の経費にはなりません。その代わり掛金は全額が個人の所得控除になり、その年の所得税・住民税が下がります。積んだお金は、廃業や役員退任のときに本人へ支払われます。一括で受け取れば退職所得、分割で受け取れば公的年金等の雑所得として扱われます。会社が払う役員退職金とは別に、社長が自分の財布で用意するもう一本の退職金と考えてください。
法人保険|会社が積み、退任や万一のときに会社へお金が戻る
契約者は会社、被保険者は社長、受取人も会社です。保険料は会社が払います。2019年の改正以降、解約返戻率の高い商品ほど支払保険料のうち損金にできる割合は小さくなり、残りは資産(前払保険料)として貸借対照表に載ります。社長に万一があれば死亡保険金が、退任時に解約すれば解約返戻金が、いずれも会社に入ります。会社はそのお金を原資に退職金を支給する、という二段構えです。ここが肝心で、戻ってきたお金は会社の利益(益金)になります。退職金という損金とぶつけて初めて、税負担が打ち消し合います。
内部留保|税金を払ったあとの現金を、会社に残しておく
制度ではありません。利益に法人税等を払った残りを社外に出さず、現預金として持ち続けるだけです。掛金の縛りも、途中でやめるペナルティもありません。積む段階での節税はゼロ。効くのは出口だけで、退職金を支給した期に損金となり、その分の法人税が減ります。
それぞれの向き・不向き
小規模企業共済は、掛金が個人の所得税・住民税を直接下げる、手堅い王道です。上限は月7万円(年84万円)なので、これだけで大きな退職金をまかなうのは難しいものの、まず優先して埋めたい器です。(詳細は小規模企業共済とは?)
法人保険は、社長に万一があったときの保障を兼ねられるのが強みです。ただし、2019年の税制改正で「保険で節税」の効果は限定的になり、中途解約の元本割れリスクもあります。「保障が目的」なら有効、「節税だけが目的」なら慎重に。(詳細は法人保険の節税に潜む落とし穴)
内部留保は、いちばん自由度が高い一方、節税効果はありません。税金を払ったあとの現金を厚くしておく、という位置づけです。共済や保険で積みきれない分の受け皿として考えるのが現実的です。
共済の落とし穴は「入れる会社かどうか」と「役員報酬の水準」
共済は加入できる会社の規模に上限があります。大きくなってから入ろうとしても入れないことがあるため、小さいうちに枠を押さえておくのが現実的です。また掛金は社長の個人資金から出ます。節税のために役員報酬を絞りすぎていると、そもそも掛ける原資がありません。なお、元本割れが問題になるのは早期の任意解約であって、役員退任という正当な事由での受け取りは扱いが異なります。「途中でやめる」ことだけが危ないと理解してください。
保険の落とし穴は「返戻率のピーク」と「社長の退任時期」がズレること
解約返戻金がピークになる時期は商品ごとに決まっています。そこが社長の退任時期と合っていないと、益金だけが立って損金がなく、節税どころか税金を増やす結果になります。借入が大きく社長の個人保証が付いている会社ほど保障ニーズは高く、そこは保険の出番です。逆に、保障の必要がないのに返戻率だけで選ぶと、資金繰りを圧迫したまま出口も詰まります。
内部留保の落とし穴は「あるつもり」で溶けること
自由に使えるということは、設備投資や赤字であっさり消えるということでもあります。退職金の原資として置くなら、通帳を分けるなど「触らない」約束を先に決めておいてください。利益が大きく、退任時期がまだ読めない会社ほど、この器の比重が上がります。
活用事例|自社ならどう積むのが得か(ケース別)
実際には「1つに絞る」より「組み合わせる」のが基本です。よくあるケースで整理します。
小規模企業共済(所得控除)を上限まで優先。個人の税金を直接下げながら、確実に退職金を積み上げます。土台として最初に埋めたい器です。
小規模共済を土台にしつつ、保障目的で法人保険を組み合わせます。保険は「節税」ではなく「保障」の観点で必要額だけ選ぶのがコツです。
共済(個人)で埋めきれない分を、会社の内部留保や、倒産防止共済(会社の損金)と役割分担します。共済+倒産防止共済の両建ては、会社と個人の両方に効きます。
積む段階だけでなく、退職金として受け取る「期」と「金額」まで設計します。大きな損金が出る期にぶつけるなど、出口の税金まで通して考えると手残りが最大化します。
共通するのは、「まず共済で所得控除を埋め、足りない分を保険・内部留保で補う」という順番です。器ごとの税務と目的を分けて考えれば、迷わず組み立てられます。
分かれ目は「社長の年齢」と「利益の振れ幅」
50代前半で退任まで15年以上ある社長なら、共済を上限まで埋めても長く置けるため、拘束期間は実質的に問題になりません。一方、60代で退任が視野に入っている社長は、共済だけで必要額を積みきるのは時間的に難しく、会社側の器(内部留保・保険)の比重が上がります。
利益の振れ幅が大きい会社も要注意です。共済も保険も毎月固定で出ていくお金なので、上限まで掛けたあとに赤字期が来ると資金繰りを直撃します。共済の掛金は月1,000円から7万円の範囲で後から増減できます。まずは無理のない額で始め、利益が出た期に増額する——この順番なら、どちらのリスクも避けられます。
まとめ
① 退職金は「会社の損金」+「個人の退職所得」で二重に得
適正額なら会社は全額損金、個人は退職所得として軽い税負担。報酬で取るより退職金で取るほうが有利な場面が多くあります。
② 積む器は「税務と目的」で使い分ける
小規模共済=個人の所得控除(手堅い)、法人保険=保障向き(節税効果は限定的)、内部留保=自由だが節税なし。性格が違うので組み合わせます。
③ 「まず共済、足りない分を補う」順番で組む
所得控除の効く小規模企業共済を優先して埋め、保障は保険、残りは内部留保。出口の受け取りまで見据えて設計するのが最適解です。
その出口は、たいてい代表交代の時期と重なります。退任と株の移転を何年かけてどう組むかは、中小企業の事業承継で、4社の5年計画と株価対策の実際としてまとめています。
最後に
役員退職金の積み方や、共済・保険・内部留保の組み合わせについて、「自社ならどう積むのが得か」とお悩みであれば、お気軽にご相談ください。会社の利益水準と社長のご意向を踏まえ、積む段階から受け取る出口まで、一枚でつないだ設計をご一緒に考えます。
この記事を書いた人
前職の上場コンサルティングファームにて10年間、年間200社超(累計1,000社超)の中小企業に対するバックオフィス支援・経営改善に従事。
現在は「Talent Partner」の取締役COOとして、認定ターンアラウンドマネージャー(TAM)の知見を活かし、財務・労務・組織の多角的な視点から中小企業のV字回復と成長をハンズオンで牽引する「社長の右腕」として活動している。
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